週刊少年ジャンプ『レディ・ジャスティス』連載打ち切りの理由を考察|架神恭介コラム
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漫画
今週の週刊少年ジャンプ(2015年41号)で、連載漫画「レディ・ジャスティス」が全16話で打ち切り終了となりました。(以下、ネタバレあり)
一般的な評価はあまり高くない作品でしたが個人的には結構好きでした。アメコミっぽいニュアンスのヒロインアクション漫画で、主人公の剣崎さん(♀)が肉体的に非常に強いのが特徴です。敵の超能力者も毎回0.3~0.4%程度のパワーで倒しちゃう。
唯一のメッセージ
それでこの漫画の内容ですが、一言で言うと、「肉体は無敵だからどんな激戦でも平気だけど、服は物理的に破れるから恥ずかしい」というもので、これ以外のメッセージ性は何一つ無かったと言っても過言ではありません。
内容をまとめると以下のようになります。
○1話:無敵だけど服が破れて恥ずかしい
○2話:無敵だけど服が破れて恥ずかしい
○3話:破れにくいコスチュームを作ってもらったけど、コスチューム自体が露出度高くて恥ずかしい
△4話:破れにくいコスチュームを作ってもらったけど、破れにくいだけでやっぱり破れるから恥ずかしい
△5話:水着で活動したら破れて恥ずかしい
×6話:婦警のコスプレをして敵を倒した
×7話:過去話
×8話:爆弾魔が現れ、卑劣な罠を仕掛けられた
×9話:爆弾魔の罠を攻略した
×10話:爆弾魔と戦った
×11話:爆弾魔を倒した
×12話:ライバルが現れた
○13話:無敵だけどノーパンだから恥ずかしい
○14話:無敵だけどノーパンだから恥ずかしい
○15話:無敵だけどノーパンな上に服も破れて、替えのコスチュームも露出度高くて恥ずかしい
△16話:無敵だけど服が破れて恥ずかしい
○が「服が破れて恥ずかしい」がメインとなる回、△は「服が破れて恥ずかしい」要素はあるもののメインではない回、×は服が破れても恥じらっていない回です。
絶対にヒロインを辱める!という気迫
序盤のドライブ感は素晴らしく、ヒロインがどれだけ頑張っても服は破けるし、破れにくい素材でコスチュームを作ってもコスチューム自体が恥ずかしいし、さらに「破れにくいだけで破れないわけではない」という理屈でそのコスチュームすらも破けるという、恐ろしくヒロインに厳しい世界でした。「作中人物(おまえたち)がどれだけ努力しようと、俺は絶対にヒロインを辱めるぞ」という作者の強い気迫を感じるのです。
そして、終盤。13~15話にかけてのノーパン編の完成度は非常に高く、ノーパンにミニスカで戦うことになったヒロインが(ぱんつは猫に盗まれた)、キックを封じられ(ご開帳するから)、パンチも封じられ(風圧でスカートがめくれ上がるから)、空を飛ぶこともできず(丸見えだから)苦戦する姿が描かれます。戦力差的に敵の超能力者は全く恐ろしくないんですが、ノーパンで参戦したばかりに主人公が勝手に窮地に陥り、勝手に泣き出してしまいます。
ノーパン編は解決編も素晴らしく、ノーパンな上に服も破かれた主人公の下に新たなコスチュームが届けられるのですが、それはいつもの恥ずかしいコスチュームに輪を掛けて露出度の高い、さらに恥ずかしいコスチュームでした。しかし、3話にもわたりノーパンの辱めを受けてきたヒロインは、「もう着ることができれば何でもいいです」と涙を流して喜びながら、その恥ずかしいコスチュームを身にまとうのでした。……完全に調教されてやがる。
で、この辺りは、実は能力バトルの亜種と言った趣もあるんですよね。敵の特殊な能力に対し、主人公側が自前の能力や技術などで攻略していくのが能力バトルですが、「レディ・ジャスティス」もヒロインの「絶対的な強さ」を一種の能力と考えると、そのヒロインをどうやって攻略するか、どんな搦手でピンチに陥らせるか、という能力バトルに近いニュアンスが出てきます。そう考えると、やはり「ヒロインの正義感を盾に人質を取る」、もしくは「性的に辱める」といったアンサーが出てくることでしょう。後者がこの漫画のオリジナリティだった。
どうでもいいから早くヒロインを辱めろ
問題は前者で、上のまとめで×印が付いている7~12話の爆弾魔編では、「ダークナイト」のオマージュであろう「助けられるのは一方の人質だけ」といった罠が仕掛けられました。しかし、この一連の流れは個人的には非常につまらなかった。
まずもって、無敵のヒロインに対して「正義感を盾に人質を取る」という手法が当たり前すぎるし、この罠の解決策もあまりスマートとは言えません。爆弾魔との戦いはちょっと面白かったですが(全力で殴ると爆発して危ないけど、ある程度のパワーで殴る必要がある敵に対して、算数の問題を解くかのように計算しながら殴る奇妙なバトル)、その後に出てきたライバルキャラは魅力的とは言えず、「そんなヤツのことはどうでもいいから早くヒロインを辱めろ」と思わざるを得ませんでした。
エロいのがいい、とかそういう問題ではなくて、「この漫画でしか見れないもの」の問題なんですよね。この漫画のオリジナリティは「無敵なのに服は破れるから恥ずかしいヒロイン」です。それっぽいライバルキャラとか、人質を取っての卑劣な罠とかは、どの漫画でも出てくるからどうでもいい。もちろん毎回同じパターンでは読者は飽きてしまうのですが、飽きる飽きない以前にそれは求めていないんだ!!!
バカバカしさが足りない
とはいえ、打ち切りの理由は爆弾魔編の退屈さではなく、全体的に上品すぎたことだと思います。ヒロインの服を破いて辱める漫画で上品ってなんだ、と思われるかもしれませんが、言い換えればバカバカしさが足りなかった。
面白い要素はあるのに描写が上品なんですよね。「ここが面白いんですよ!」と声高に叫ばないというか。突き抜けたダイナミックなバカ描写で、有無を言わさずに「なんてバカなんだ」と思わせるパワーが必要だったと思います。同じくジャンプのエロコメ作品である「ToLOVEる」はこの点が非常に巧みで、エロい、エロくない以前にすごいバカで、すごいパワーがあったんです。
「レディ・ジャスティス」はこの点が弱くて、例えば最終話のラストも、せっかくヒロインが宇宙空間で爆破に巻き込まれて全裸になったのに「恥ずかしくて地球に帰れないよ~」で終わってしまう。最終回なんですよ! せっかく宇宙に出たんですよ!? そこは宇宙規模、地球規模の壮大なスケールでヒロインを辱めるべきじゃないんですか……!!? やっぱりパワーが足りない!
この漫画には能力バトルにも似た知的な面白味があったし、恥ずかしいコスチュームを泣いて喜びながら着るといったマニアックなエロチシズムもありました。しかし、その面白さは効果的に表現されていなかったと思います。
なので、総合的に言えば打ち切りもやむなしの作品だったと思いますが、作者さんが自分の面白さをもっと自覚して、そこを強調して描けていたならば、「なんとなく女の子の服が破ける漫画」といった印象では終わらなかっただろうとも思っています。次回作に期待したいです。
著者プロフィール
作家
架神恭介
広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)