【出版業界】意外に多い連載・出版中止…作家が路頭に迷うワケ

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出版中止となる理由とは(写真はイメージです)
出版中止となる理由とは(写真はイメージです)

 漫画家のやまもとありさ先生の連載が再び中止になったようです。

 やまもとありさ先生は以前も「あいこのまーちゃん」が連載中止となったことで話題となりました。「あいこのまーちゃん」は結局、別の媒体にて連載が始まり、さらには単行本化も無事果たされてめでたしめでたしとなったのですが、今回、二回連続の連載中止にやまもとありさ先生も参っているようです。

こんなにある! 作家が路頭に迷うケース!!

 しかし、やまもとありさ先生が超特殊なケースというわけではなく、この手の「出版されるはずだったのにされなかった」「連載されるはずだったのにされなかった」という話はしばしば起こりうることで、作家である僕自身も何度か体験しています。

 そこで今回は「なぜか知らんが出版されなかった(連載されなかった)」ケースを自分自身の体験談と人からの伝聞情報、ごちゃまぜにして紹介しましょう。作家の立場は非常に弱いので結構ひどい目に遭うんですよ!

1. 出版社の上層部が変わった

 出版社の社長や編集長が変わったことにより、上の一存で出版予定or連載予定がちゃぶ台返しされるケース。末端の作家にとっては全くの寝耳に水です。僕もスタート待ちの連載企画があるので、編集長が突然変わらないかビクビクしてます。

2. 出版社の体質が変わった

 例えば、ある新興の小説レーベルは、最初は色々な方向性の作家に声をかけて出版を進めていましたが、少しやっていくうちに「この方向性の作品が売れる!」と分かってしまい、その方向性から外れた出版計画を反故にしました。

 レーベルの体質が変わったという点では、僕の小説「ダンゲロス1969」(ダンゲロスシリーズ3作目)も講談社BOXから発売予定だったのですが、「長い」という理由で出版されませんでした(※)。講談社BOXはかつては新人賞に文字数制限がなく、「長くてもいいから斬新奇抜な面白いやつ持って来い」というレーベルだったのですが、どうも「長い小説は売れない」という世の風潮に押されてしまったようです。そもそも長い小説を受け入れてもらえるからこそ講談社BOXを選んだのですけどね……。執筆は長い期間が掛かりますから、書き終わった頃に体質が変わっちゃうこともあります。

※ただし、この作品の場合は「出る予定の出版計画を反故にされた」という程ひどいケースではなく、「出すかどうかの選定中で弾かれた」というニュアンスです。まあ、反故にされた場合と損失は同じなんですが……。

3. コラボ先が潰れた

 ある映画の上映に合わせてコミカライズ連載を予定していたけれど、その映画の方が上映中止になったために、なし崩し的に漫画連載も中止になるというパターン。こんな展開、誰にも読めないよ……。

4. 企画自体が潰れた

 某有名スマホゲームのムックを作ろうとして、ライターに執筆依頼を出したけれど、ゲーム会社側が急に難色を示して、製作途中でムック企画自体が頓挫したケース。当然、ライター側の原稿も死産。これは出版社も可哀想ですけど、ライターにとっては死活問題……。

5. 雑誌が休刊になった、出版社が潰れた

 もはや如何ともしがたく路頭に迷う他ありません……。

6. 出版社が急にビビり出した

 賛否両論を巻き起こしそうな挑戦的な書籍を出版する直前に、同社の他の挑戦的な書籍にクレームが付いたことで出版社の上層部が急にビビり始め、その余波でこっちの出版が潰れるパターン。もしくはちょうど似たような時事問題が発生して世論の反発を恐れた、など。よく言えばリスク管理なのでしょうが、ちょっとビビり過ぎじゃないですかね……。こういったケースはかなり多いです。やると決めたら腹を据えてやって欲しいんですが……。

7. 突然、出版社が正気に戻った

「この企画、超面白いけど、これウケるの一部だけだよな~~、絶対売れないよな~~」と思いながらもダメ元で出した企画にGOサインが出て、「ここの出版社イカレてんな~」とウキウキして書き上げたら、出来上がった現物を見て向こうが突然正気に戻り、「やっぱりこんなの出版できません」と言われるケース。あの……最初から正気でいるか、最後までイカレたままでいてくれませんかね……。

なんとかカネにしよう

 この他にも様々なケースがあると思います。こういった事例は中小出版社に限らず大手出版社でも頻繁に発生します。出版社ひでえな、というのもあれば、出版社も可哀想だな……というケースもありますが、それでも一番可哀想なのはやっぱり作家です。僕たち小説家は執筆に費やした時間が無に帰るだけなのでまだマシですが、漫画家はアシスタントに人件費が掛かっているためより悲惨です。ウン十万の損失が出ます。リアルに死ぬ。

 とにかく全ての出版社に言いたいのは、「ダメなら最初に言ってくれ!」「やると決めたら腹を決めてやってくれ!」です。この業界は契約書を交わさずに口約束で事を進める悪習もあり、出版社は作家に依頼しときながら気軽に企画を潰しすぎなんですよ……。そんな気軽に潰されたら死ぬ。潰すなら最低カネを払って欲しい。カネをくれ。

 でも実際はカネをくれずに、担当編集が平謝りに謝るだけで済まされちゃうので、何とかする方法を考えたいですね。以下は何とかカネを作るための具体的な方策です。

1. 訴える

 検討しただけで実行に移したことがないので実際やったらどうなるのか分かりません。契約書はなくても、メールでのやり取りなどがあれば証拠になるという話もあります。ひょっとしたら少額訴訟でサクッといけるのかも? しかしどちらにしろ、その会社とは今後のビジネスが成り立たないでしょうし、他社からも警戒されそうでリスキーな選択肢ではあります。

2. とにかくカネをくれと言い募る

 少額だったためか一度だけ成功したことがあります。あのお金、ちゃんと経費から出たのかなぁ。担当が自腹切ったのかなぁ。

3. 他の出版社に持ち込む

 一番妥当なのはこれでしょう。捨てる神あれば拾う神ありというやつです。知り合いにフリーの編集者などいれば原稿を預けてマネージメントをお願いするのも良いですね。しかし、編集方針の違いなどもあり、こちらの会社でOKだったものがあちらの会社でもOKというわけにはいかないので、不本意な手直しなどが必要になる場合もあります。

4. クラウドファンディング

 あなたがそれなり以上に名の売れた作家であれば、「陽の目を見なかった作品を完成させたい!」と言って、ファンからお金を集めて制作を続行することができます。ただ、そもそもの知名度がないと難しいかもしれません。

5. Webで掲載する

 非常にシンプルな方策です。自分でホームページを作ってそこに載せておくだけなのでとても簡単。本来の収入は望めないでしょうが、広告などを載せればある程度のお金を稼ぐことができます。やらないよりはマシです。

6. Kindleで自力出版する

 個人的なオススメはこれです。AmazonのKindle独占販売なら印税も70%貰えます。デザインもできるならコストは自分の労働力のみ。僕の「ダンゲロス1969」も結局これで出しました。出版社から出す場合、印税は概ね10%なので、想定売上数の1/7も売れれば収入的にはトントンになります。ただ、実際のところ、電子書籍はまださほど一般性がなく、紙で出す場合に比べて1/10すら売れない可能性があります。あと、電子とはいえ本の体裁を整えるのは意外と大変でして、「編集者って色々な作業で作家の負担を減らしてくれてたんだなぁ……」としみじみ思ったりも。

まとめ

 本当は契約書を交わして、出版or連載されなかった場合にも作業費を出してもらえるようにするのがベストなのですが、契約書を交わさない慣行が長年続いてきたので、それも実際容易では無いんですよね。「契約書を作ってくれ」と言い続けたのに先延ばしにされて、結局、作業はしたのに出版されなかった、というケースも聞いたことがあります。相手が単に怠惰だった、狡猾だった、というだけでなく、先例がないので契約書一つ事前に作るのも大変なんだと思います。

 というわけで、現にこういうトラブルは多発しているし、現状の改善は簡単には望めないので、作家側としてもWeb掲載なりクラウドファンディングなりKindleなりで、ボツになった原稿を自力でカネに変えていく手段を確立するのが大事ではないかなと思います。

 それに、いざとなったら出版社に頼らず自力でカネが作れるとなると、出版社側の事情に振り回されても困らなくなり、精神衛生上も大変よろしいです。自力で十分にカネを作るのはまだまだ難しい現状ですが、ボツ原稿をハードディスクの肥やしにするよりはマシだと思いますので、同じ状況で困っている作家さんはぜひご一考を。この風潮が進んで、出版社と作家の力関係がイーブンくらいにまでなると良いんですけどねー。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

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