アヘン戦争!メタ推理!騎兵隊!過去の「必殺スペシャル」を振り返ってみた (3/3ページ)

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第1位「必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜」

あらすじ:笹川繁蔵、飯岡助五郎の地元二大ヤクザの闘争に巻き込まれて祖母を殺された一家は、江戸へ出て仕事人を探し、ヤクザたちの暗殺を求める。だが、一家はヤクザたちに襲われて死亡。一人、娘だけが船で逃げ出すが、火を放たれて船は燃えてしまう。娘の恋人であった二郎衛門は仕事人たちと共に小舟に乗って利根川を下り、ヤクザたちを狙うが、途上、月蝕が発生。

 一行は時空間を超越し近未来のアメリカへ飛んだ。そこでインディアンのスウ族とカスター将軍率いる第七騎兵隊の抗争を目撃する。かつて船で逃げ出した娘が、海を超えてスウ族の酋長婦人となっていたことを知り、衝撃を受ける二郎衛門。だが、第七騎兵隊に襲われ、娘も今度こそ殺されてしまう。第七騎兵隊を倒し、娘の仇を討った仕事人たちは、再び船に乗り込むと、なんとなく元の時代に戻り、気を取り直してヤクザたちを暗殺し恨みを晴らした。一方、アメリカに残った二郎衛門はジェロニモとなっていた。

 もはやタイトルからして頭が悪すぎる。元の世界でのヤクザ暗殺と、アメリカでの騎兵隊暗殺の二つのエピソードの接続がムチャクチャなのですが、大オチの「二郎衛門はジェロニモになったし、トーテムポールは実は仕事人の顔なんだよ」という脱力ギャグのせいで全てを許したくなります。

 しかし、「小船に乗ったら時空間を超越し近未来のアメリカに飛んだ」の理由説明を、「マリー・セレスト号の乗員消失はタイムスリップとしか考えられない」→「だから小船に乗った主水たちもアメリカへ飛んだのだ」で解決とする強引さは凄まじい。しかも、アメリカには酋長婦人となった娘や、それとは別に何故か日本人女性がいたりして、彼女たちがどうやってアメリカへ渡ったのかは何の説明もなし。どういうことなんだ。

 時空間超越描写が甚だしすぎるせいで本来の時代劇パートの方が霞みがちになりますが、笹川繁蔵、飯岡助五郎の抗争も実は有名な史実でして。「天保水滸伝」の題材としても知られ、また、『座頭市物語』の舞台でもあります。『座頭市物語』は、笹川繁蔵側の用心棒、平手造酒と座頭市の物語でしたね。なお、本作でも平手造酒は平田深喜の名で登場しており、最後は主水と戦って戦死しています。

 おそらく、アメリカパートがあまりに荒唐無稽なので、本来の時代劇パートだけでも有名な題材でやらないと視聴者が混乱する……との配慮があったのでしょう。まあ、そんな甲斐もなく混乱はするのですが……。平手造酒は本当に有名なキャラクターでして、どのくらい有名かと言うと、本作の五年後の作品「必殺スペシャル・秋! 仕事人vsオール江戸警察」では平手造酒が仕事人となって中村主水と共闘するくらいです。殺したキャラと五年後に仲間になっちゃったよ……。

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 こんな具合で、かつての必殺スペシャルは、恐ろしく荒唐無稽、恐ろしく軽佻浮薄、極めて挑戦的で挑発的な作風だったわけです。「視聴者が付いて来れない? 知るか!」「面白いこと思いついたからやるぞ! 時代考証? 知るか!」といった、良い意味での勢いがあったのですが、最近はどうも小さくまとまっている気がします。たまーにでいいから、また昔みたいに盛大にはっちゃけて欲しいなあ……。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

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