話題沸騰のアニメ映画『キンプリ』と”ロボットレストラン”の共通点

デイリーニュースオンライン

『KING OF PRISM by PrettyRhythm』公式サイトより
『KING OF PRISM by PrettyRhythm』公式サイトより

 友人に勧められて『KING OF PRISM by PrettyRhythm』こと、通称『キンプリ』を見てきました。

■『テニスの王子様』よりスゴイと噂のアニメ映画

『キンプリ』は女児向けゲーム&アニメである『プリティーリズム』のスピンオフ作品……らしいです。本当に何も知らずに勧められるままに行ったので、プリティーリズムがどういう作品なのかすら知りません。ちなみに友人のオススメ文句は「劇場版テニスの王子様よりスゴイ」でした。『劇場版テニスの王子様』と言えばテニスで古城が半壊したり、テニスによる隕石衝突により恐竜が絶滅する映画でしたね。

 平日17時の回にもかかわらず劇場の新宿バルト9は満席。もう2ヶ月弱やってるのにこの人の入り方は異常です。なんでも噂によると「応援上映」なるものも別にあるらしく、こちらでは上映中に声援を上げたりすることが許されるのだとか。応援上映のチケットを取るためには、予約可能になるや否やクリック連打する必要があるとかないとか……。

■言語化不可能アニメ

 で、見てみたんですが……。う、うおお?? なんだこれ……。とにかく異様なことが目の前で起こっているのは明らかなんですが、えっと、なんて説明すればいいんだろう……。

 ありのまま説明しますと、基本は男の子たちのアイドルグループの話なんです(たぶん)。それがスケートのリンク上でスケート靴を履いてライブをしており(なぜだ?)、ライブ中にトリプルアクセルを決めると神秘的な映像が現れ、ファイアドラゴンなどが出現した結果、なぜかBL的なニュアンスへと結実します……。何を言ってるのか分からないと思うんですが、ありのまま説明するとこうなんです。

 キンプリの異様さは言語化困難を極めますが、こちらもこの手の作品を言語化してメシを食っているわけですから頑張ってみましょう。過去の経験上、こういった「唖然として言語化できない」作品は3種類以上の異様な要素が結合していることが多いのです。それで、キンプリはおそらく「オーバーな演出」「アイドル」「BL要素」の三点が混ぜ合わされた結果、言語化不可能なアトモスフィアが生まれているのではないか、と考えました。

■キンプリの3大要素分析

 まず「オーバーな演出」。これ自体は男児向けアニメ(特にコロコロ系)などでは珍しいものではありません。『グランダー武蔵』は釣りをするだけで破壊された自然環境が回復し、『カブトボーグ』はオモチャで遊んでるだけで世界が炎に包まれますね? 「オーバーな演出」はこれ自体で一つの異様さであり、単体でも相応の破壊力を備えています。キンプリではトリプルアクセルを決めることで、これが発生する点も不可解ですが、ともかく「オーバーな演出」単体であれば、まだ受容可能な範囲です。

 問題はそこに「アイドル」と「BL要素」が加わることです。特に冒頭のライブ描写に如実なのですが、いかにもなアイドル的演出とコロコロアニメ的な「オーバーな演出」が無理矢理に接続されて、それが「BL要素」へと結実するのです。BLに結実、というのは、「オーバーな演出」によりキメラ的に強化された「アイドル要素」(男性アイドルが女性客を魅了する)が、なぜか作中の男性客にも向けられて、男性客を魅了し、男性客を全裸にするのです。

 同性愛的倒錯要素はそれだけで視聴者の常識的地平を揺さぶり、足下をぐらつかせ、目眩を与える力を持っています。これらの複合要素により、われわれはキンプリを見て絶句しているのだと分析できます。つまり……

(1)「アイドル」的要素(男性アイドルが女性を魅了する)

 が、

(2)「オーバーな演出」を経て、キメラ的に強化

 されることで「本来アイドルが持つはずの魅力とは違う何か」へと変わり、それが……

(3)なぜか男性客を魅了(「BL要素」)

 しているわけです。

 本来のアイドル要素が(2)と(3)で二回倒錯することにより、われわれの理解を超絶しているのだと考察されます。

 ここでポイントは、一つ一つの要素自体はそれぞれの文脈、背景を持ってすれば理解可能なことで、しかし、キンプリの場合は、それぞれの文脈・背景さえもが混ざり合ってしまい、さらなるカオスが生じているのだと思います。アイドルの文脈、BLの文脈、コロコロの文脈……それぞれを同時に脳内で起動させながら、目の前の映像を適宜解釈していかねばならんのです。

■歌舞伎町のカオスを体現するロボットレストラン

 せっかくカオスなものを見たので、続けてカオスなものをハシゴすべくロボットレストランへ向かいました。

 ロボットレストランは新宿歌舞伎町のカオスを体現するショウ施設であり、女の子やロボットがたくさん出てきて乱舞します。ごはんはあまり食べれません。日本の新しい観光名所として既に世界的に知られる存在となりました。

 ロボレスの魅力も言語化困難なものではありますが、こちらは二桁に及ぶ訪問回数と、その度ごとに行われた言語化の努力により、かなりの程度まで言語化に成功したと自負しております。今のところ一番ロボレスを言語化できたと思われる紹介文は、

「殷の紂王は本当はロボレスを作りたかったが、当時の技術力では無理だったので、池に酒を入れたり、木に肉を吊るすことしかできなかった」

 というものです。つまり酒池肉林の体現であり、地上の龍宮城です。

■五感に訴える快楽

 ロボレスの強みはショウの演出力や異様なるセンスもさることながら、「女の子がたくさん出てきて踊る」「ロボットがたくさん出てくる」「ノリノリの音楽が大音量で流れる」「レーザービームがギュンギュンする」などの五感に訴えかけてくるところです。

 つまり、「女の子」「ロボット」「大音量」「光」という「男の子が大好きなもの」「人間が否応なく興奮させられるもの」を詰め込んでいるのです。その結果、多幸感に溢れる空間が生まれ、われわれは酒池肉林を感じるのです。

 もっとも最近のロボレスは男性ダンサーが増えてきて、以前の酒池肉林感は大分薄れてきたのですが。「大人の男性が好きなものを詰め込んだ酒池肉林空間」から「ファミリーで楽しめる、よりアート的な空間」へと変化しているようです。……いや、ファミリーで楽しめるセンスかどうかは、上の写真を見て個々に判断して頂きたいのですが。

■まとめ

 キンプリにもロボレスにも一つの共通点があります。それは見終わった後に観客が多幸感を感じて、元気を得ておうちに帰っていることです。キンプリの場合は女性客たちからそのような声が聞こえてきました。

 ロボレスが「女の子」「ロボット」「音」「光」で大人の男性を魅了したように、キンプリは「アイドル」「BL要素」「オーバーな演出」で女性たちを魅了しているのでしょう。アイドルの文脈も好き……BLの文脈も好き……そんな女性たちが、オーバーな演出で無理矢理にテンションをアゲアゲにさせられる……。女性の好きなもの、人間が興奮するものがたくさん詰まった作品……女性のための酒池肉林空間。それがキンプリなのかもしれません。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

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