おりこうさんに理解されず?日清食品CMの”ユーモアとウィット”|プチ鹿島コラム

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日清食品CMの”ユーモアとウィット”
日清食品CMの”ユーモアとウィット”

 日清カップヌードルのCMが、視聴者からの苦情を受け放送中止された。「矢口真里の不倫ネタに苦情か? CM放送中止」(日刊スポーツ・4月8日)。問題とされたのはこの部分らしい。

《同CMは、ビートたけしが学長を務める架空の大学「OBAKA’s大学」を舞台に、教授として小林幸子、畑正憲、新垣隆、そして矢口が出演。たけしが「『おりこうさん』じゃ、時代なんか変えられねぇよ。諸君たち、『バカ』やろう!」と呼びかける内容だった。矢口の登場シーンは、教壇で「二兎追うものは、一兎をも得ず」と熱弁を振るう矢口に対し、生徒が「これ、実体験だよね?」と囁き合うという、不倫騒動をネタにしたものだった。》(同)

 日清食品と言えば「10分どん兵衛」をご存じだろうか。日清の「どん兵衛」にお湯を入れてから10分待って食べること。通常(5分)の倍だ。この「新しい食べ方」を提唱したのがマキタスポーツ。私も参加しているラジオ番組「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)で彼が話したところ大反響があり、SNSで拡散された。

 なんと、そのあと日清食品自身もネタにした。シャレていると思った。だって10分も待って食べるというのは日清食品の「公式のルール」に反している。でもネタにした。ユーモアがある。

 ここでユーモアとウィットについて考えてみたい。簡単に言うなら、自分を笑ってみせるのがユーモアで、他者をツッコんで笑いをとるのがウィットだろうか。そう解釈すると今の世の中はウィット社会かもしれない。笑いやツッコミだけならまだいいが、次第に「社会正義」などを旗印に掲げて何かをツッコミだすとウィットどころか世の中はギスギスしだす。しかも「消費者」「視聴者」という肩書を使えば誰もが絶対正義になれて気持ちがいい。そして今日も各所で何かにご意見する。

 日清食品がユーモアをみせたのが「10分どん兵衛」なら、ウィットを効かせたのが今回のカップヌードルのCMなのではないか。誰をツッコんだのか。もちろん矢口真里ではない。ツッコんだ相手は、

「『おりこうさん』じゃ、時代なんか変えられねぇよ。諸君たち、『バカ』やろう!」

だろう。

 何でも正論を主張するおりこうさんになるのではなく「バカをやろう」と提案したのだ。しかし、このCMを見て自分がツッコまれたと思ったおりこうさんたちはすぐに反撃を開始した。矢口真里の不倫を盾にして。その結果CM放送が中止になった。

 今回のネタがダメということは、誰の心にも波風が立たないものが正しいということになる。ものづくりをする人は今後は「おりこうさん」たちにはわからない行間で勝負することも必要になる。

 日清は「おわび」をホームページに出した。そういえばあのときも「日清食品は10分どん兵衛のことを知りませんでした」と「おわび」を出した。おわび続きなのである。結果的に「バカをやろう」を自ら実践してくれたようにしか見えない。だんだんこれもユーモアにみえるから不思議だ。勝手に行間を楽しんでしまう。

「OBAKA’s大学」の新作に期待する。

著者プロフィール

putikashima

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)など多数。

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