熊本地震で”不謹慎狩り”する人、先回りする紗栄子|プチ鹿島コラム

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「EPISODE 1 ~紗栄子ファースト写真集」より
「EPISODE 1 ~紗栄子ファースト写真集」より

 今回はこの話題。『謝罪のMBS山中アナ 視聴者から415件の意見、9割以上が厳しい内容』(スポニチ・4月19日)

《 熊本地震取材で現地入りしている毎日放送(大阪市)の山中真アナウンサー(39)が、自身のツイッターに被災地で調達した弁当の写真を投稿したことで批判を受け、19日までに謝罪した。》

 5年前の「3・11」のときに感じたのはツイッターの連帯感。呼びかけあったり情報を提供したり善意が発揮されていた。その一方で、非日常に多くの人の感情が「たかぶっていた」。そういうときはデマが発生しやすい。今回も「ライオンが逃げた」などの悪意が拡散された。注意したいのは、多くの人たちは善意で拡散した可能性だ。

 感情がたかぶっているときは「自分にできることは何か」という使命感に、「こんな情報知ってる?」という多少の優越感もミックスされて容易に発信しやすいのかもしれない。デマ拡散までいかなくとも、非日常のたかぶりは他にも発生する。毎日放送アナの「弁当ツイート」は以下のとおり。

《16日に現地の厳しい状況を報告した上で、弁当の写真ととともに「やっと今日の1食目。食料なかなか手に入りにくいです」などとツイート。15日にも宿泊先の前にあったラーメン屋が営業中であることをつづり「そこで夕食いただきます」などと書き込んでいた。》(スポニチ)

 おそらく現場を取材して彼も非日常にたかぶっていたのだろう。さらにたかぶったのはこのツイートに噛みついた人たちだ。

《これに対し、被災者の食料確保が困難を極めていることもあり、「不謹慎だ」などと批判する書き込みがネット上にあふれていた。》(スポニチ)

 正義にお腹を空かせた人の前に、彼はあらわれた。たしかに、取材を終えてハイテンションさが感じられるツイートは「非日常うっとり物件」である。うかつだ。でも、あそこまで怒られることか? とも正直思う。ネットだけでなく「視聴者から415件の意見」も寄せられることか? と。私はそう思う。

 こうなると、不謹慎に目を光らせる理由は「ヒマだから」だけで片づけられるだろうか。もっと他の理由もある気がする。たぶん彼、彼女らがイヤなのは「頑張っている俺、私」を見せつけられることなのではないか。もっと言えば、うっとりしていて鼻につく人を見るのがイヤ。藤原紀香が「火の国の神様、どうかどうか もうやめてください」とブログに書いて批判が殺到したと言うが同じ理由だろう。

 そう考えると「不謹慎」の意味も異なってくる。被災地のことを考えてというより「お前なんぞが目立つのは不快であり不謹慎」という意味なのだと思う。被災者がいるという絶対正義を獲得した非日常では堂々とぶつけやすい。先回りの通せんぼである。

 おそらく今後エンタメ方面ではあらゆる牽制が発生するだろう。公演があろうものなら「で、寄付するんですよね?」という「確認」。すべては「今お前なんぞが目立つのは不快」であり、その大義名分が「不謹慎」なのだ。

 もしかしたら、それをさらに先回りしたのがタレントの紗栄子なのだろうか。約500万円を寄付して振り込み明細の画像を公開した。「お前なんぞが目立つのは不快であり不謹慎」の声を最初から想定したうえで「でもあんたらにできるのか」と言っているようにみえる。

 紗栄子の先回り感、すごい。

著者プロフィール

putikashima

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)など多数。

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