吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSはスクールカーストの最下層系で一般ピープルの星」(1)

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吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSはスクールカーストの最下層系で一般ピープルの星」(1)
吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSはスクールカーストの最下層系で一般ピープルの星」(1)

 プロインタビュアー吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。今回のゲストは“全裸PV”などの数々の過激な活動で知られるアイドルグループ・BiSの仕掛け人であり、現在は、BiSHなどのグループを手がけている渡辺淳之介さん。最近ではその半生を追った本『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』が出版されたばかり。その独自のアイドルプロデュース論に迫ります!

■アイドルの運営側の人生を掘り下げた、まさかの本

渡辺 清原和博さんとかが登場するようなインタビュー連載で、なんで僕がゲストなんですか? てっきりデスブログ的な意味合いかと思ったんですけど(笑)。

──渡辺さんも今回の本で学生時代にキノコをやってた話を書いてましたからね(笑)。

渡辺 もうやってないんで大丈夫です! でも、あの頃は……(以下、大人の事情で大幅削除)。

──さあ、使える話をしますよ!

渡辺 はい!

──そんなわけで渡辺さんの本『渡辺淳之介』が出たわけですけど、画期的でしたよね。アイドルグループの運営がグループをどうやって成功させたのかを掘り下げる本や、アイドルグループの作り方を掘り下げた実用書とかはありますけど、運営の人生を掘り下げた本ってこれまで存在しないじゃないですか。

渡辺 いや僕も頭が狂ってるのかと思って。吉田豪さんに『AERA』の書評に書いていただいたとおりで、なぜこんなことを書いてるんだ、みたいな(笑)。

──しかも、根本的な情報が抜け落ちすぎてるんですよね。まず渡辺さんはBiSというグループを成功させた人で、BiSがどういう活動をしてきたのかっていう説明があってから渡辺さんの話にくるべきなのに、ひたすら渡辺さんの生い立ちを掘り下げまくって、BiSの説明がごっそり抜けているという(笑)。読者がみんなBiSの細かいエピソードを知ってる前提で書かれているんですよね。

渡辺 そうですね。どんだけクローズドな話なんだ、みたいな感じだったんですけど。最初に版元から言われたのが「高校生に勇気を与えたい」と。で、図書館とかにも置かれるっぽいから、とりあえず渡辺さんの人生を語ってもらう、みたいな話で。

──ドロップアウトした人でも社会で成功できますよ、みたいな勇気を与える感じの。

渡辺 そうです、そういう話だったんですけど、僕もよくよく考えたら会社を立ち上げて2年目だし、まだ何も成功してないのにどうしようかなみたいな感じだったんですけど、僕も出たがりなんで人生で1回ぐらい本を出す経験してもいいかなって。

──ましてやこんな本のタイトルありえないですからね、『渡辺淳之介』って(笑)。

渡辺 ハハハハハ! ホントおもしろいですよね。僕っぽいなーと思いながら。

──なので、この本で抜け落ちているところを今日は聞けたらなって感じです。

■結果は出したが、やったことは誉められたものでは……

渡辺 なるほど。僕、自分でこの本を読んでて思うんですけど、ちょっとメンヘラなヤツらとか、いわゆる大槻ケンヂさんの『グミ・チョコレート・パイン』的な読み方をすれば自信になるかな、みたいな。『グミチョコ』と同じように、「俺は人と違うものがあって、いつか大物になるんだ」的な感じではあるんですけど。でも、大槻ケンヂさんだとちょっと成功しすぎじゃないですか。

──プラス、もうちょっと文学的だったり知的だったりする部分もあるし。

渡辺 そこでいうと僕がちょうどいいかもなって。僕ぐらいだったら、なんかイケそうじゃないですか。わけわかんねえヤツだけど、これぐらいなのに偉そうなこと語ってるから俺でもイケるんじゃねえか、ぐらいの感じにはなるかなって自分で読んでて思いました。

──オーケンさんとの決定的な違いは、渡辺さんはクラスの弱者ではないってことですよね。

渡辺 ああ、僕はクラスの弱者じゃなかったと思います、すり抜ける処世術があったんでしょうね。でも、小学校のときのこととか全然覚えてないんで。いじめられてたかもしれないです。

──生い立ちから掘り下げる本なのに、そこが何も出てこないという(笑)。

渡辺 なんなんだろうな? 嫌な記憶はだいたい消すんですよ。それこそBiS時代もホントにつらかった時期って、たぶん寺嶋由芙とかワキサカユリカって子がいた時代なんですけど。

──グループ内の人間関係が一番ひどいことになってたとき。

渡辺 人間関係がヤバかったときがあるんですけど、それもほとんど覚えてなくて。

──本を読んだら、その頃のエピソードがなさすぎて驚きました。

渡辺 そうなんですよ(笑)。

──由芙さんの名前も全然出てこないし。

渡辺 それは宗像(明将)さん(本の著者)がいろいろあるのかなっていう気はするんですけど。

──由芙さんとも関係が深い人だから、気を遣って削ったんでしょうかね。

渡辺 僕も寺嶋の話はかなりしたはずなんですけど、最初から相当ごっそり抜けてましたね。寺嶋由芙とはなかなか分かり合えなくて……。

──当時から、それぐらいの噂は聞いてました。

渡辺 でも僕、たぶん寺嶋にツイッターでブロックされてないんですよね。ブロックする価値すらない、ブロックに値しない人間だっていう感じかもしれないですけど。仲良くしたいんですけどね。でも、それは空気を読めない人間特有の、なぜこいつは怒ってるんだっていうのが僕はわからないっていう(笑)。

──だからボク、渡辺さんに対しては複雑な感情があるんですよ。アイドル運営としてはものすごい尊敬に値する人だと思ってるし、ただBiS時代にメンバーが精神崩壊してボロボロになってるのを見るとやりすぎだろとも正直思ったしで、複雑なんですよ。素直に全肯定はできないけれども、結果としてはすごいし、おもしろいことをやってきた人っていう感じで。

渡辺 そうなんですよね、やってきたことは誉められたもんじゃないので。

──結果オーライにしてきた感じですよね。

渡辺 はい。一応BiSというものに関してはホントに僕も素人みたいなところから始めるんですけど、3年で武道館に行こうっていうわけのわからない絵空事をまず実現させようとして。

──アイドルグループって、よく「目標は武道館!」みたいな目標設定するじゃないですか。大手事務所所属でもないのにそれが実現できたっていうのは、本当にすごいと思いますよ。

渡辺 すごいですよねー。ホントにラッキーだったんですけど。そこでいうと、ある種BiSっていうものは一般ピープルの星っていうか。ホントにスクールカーストの最下層系の雰囲気を持ったヤツらが目標を実現させた、『がんばれ!ベアーズ』みたいなもんですよね。

──メンバーも正直言ってズバ抜けてるような子はいないし。

渡辺 まったくいないし。武道館が横浜アリーナになったとはいえ、その約束がうまく守れちゃったんでなんとかなったんですけど、ふつうにBiSっていう流れを読み解いていくと、どう考えても成功する話じゃないんですよね。

──ボクもデビュー当時に仕事した時点で、曲もいいしメンバーのキャラも面白いとは思いましたけど、成功するとは思わなかったですからね。

渡辺 だから、ホントにいろんなものがうまく重なったんでしょうね。

■なあなあの70点より緊張感のあるマイナス20点

──由芙さん加入後、BiSがネイキッドロフトで初めてトークイベントを開催したときボクが司会として呼ばれたんですけど、その時点でボクは渡辺さんに対する疑問がすでに出てきてたんですよ。渡辺さんがボクをブッキングした理由が「吉田さんの毒舌で彼女たちを潰してほしい」みたいなことで、でもボクはそういうキャラじゃないんですよ。

渡辺 ハハハハハ! そうでした(笑)。

──その発想も凶悪だと思ったし、BiSのメンバーと同じ控室に案内されたらメンバーが異常にピリピリしてて、みんな会話もせずひたすら携帯いじったり鏡を見たりしてる感じで、正直どうかと思ったんですよね。

渡辺 ピリピリでしたね。僕もピリピリしてたんですけど。あのときホントに仲が悪くて。そもそも僕、仲悪くさせるのすごく得意なんですよ。

──ダハハハハ! それは得意そうですよね(笑)。

渡辺 いろんなヤツにいろんなことを言って、ちょっとした心理戦みたいなのはじつはすごく得意なほうで。

──それって、なあなあな関係になるより緊張感がある関係にしたほうがいいって理由で、あえて仲悪くさせたりするわけですか?

渡辺 そうですね。なあなあでやって70点取りにいこうみたいな、赤点を取らなきゃいいやみたいな状況になるよりは、ピリピリして赤点取ったほうがまだおもしろい結果になるとは思ってますね。っていうのも僕が手掛けていたメンバーには正攻法で行ったら成功する才能がないので、才能がない人間がどう頑張っても80点は取れないんですよ。そうすると、むしろマイナス20点を取ったほうが人に感動を与えられるっていう、それだけですね。

──そうやって説明されると理解できるんですけどね。

渡辺 だから、そこが結構ぶつかったところだったんですね。それこそ寺嶋由芙にもずっと言われてたのが、「もっと練習をしてボイストレーニングをしてダンスのレッスンをすれば、こんなことしなくても武道館に行ける」ってことだったんですけど。

──一見、正しそうな意見ではあるんですけど、それだけじゃ武道館までは行けないですよね。もっと外に向けてアピール出来る何かがないと。

渡辺 そうなんですよね。だから完全に真っ向対立で。

──渡辺さんは外に向けて仕掛けたい人ですからね。

渡辺 はい。だから、そこまでは言えなかったですけど、練習なんかしたって無理だよみたいな、そういう感じだったんですよ。

──うわー! ……フォローすると、要は大きな事務所の選ばれたエリートみたいなアイドルと比べたら、どう考えたってポテンシャルが違うんだから、普通にやって勝負になるわけがないってことですよね。

渡辺 それをできないから、BiSっていうものに入ってしまって数奇な運命になってるわけで、もはやあきらめろって俺は思ってたんですけど、彼女にはその感じがなくて。リキッドルームとかでライブやって、ちょっとずつ大きくなってはいたし、全然ガラガラでしたけど両国国技館でやったりして、「ちゃんとやればできる」って、ちょっと勘違いしちゃうところがあったと思うんですよ。

■追い込まれたときに生きている実感を覚える

──BiSはトップクラスのアイドルのポテンシャルじゃないからこそ、渡辺さんはひたすらメンバーを追い込んで、感情を引き出すようなことをさせてきたと思うんですよ。

渡辺 そうですね。だから成功したんだと思うんです。何も知らない事務所から横浜アリーナまでなんとか行ったっていう、かなりのウルトラCを。

──ホント、アイドルの歴史に残るレベルのことをやってるんですよ。ただ、その過程で精神崩壊しちゃう人が何人か出るぐらいにメンバーを追い込んだから、素直に評価しにくいってだけで。

渡辺 精神崩壊しましたね、ホントに。プー・ルイも病気になっちゃったし。

──まあ、メンバーが病みまくるアイドル運営にはあこがれないですよね。

渡辺 あこがれない! 俺がわざわざ引っかき回して精神崩壊させてるところとか、誰も聞きたくないってのはたしかにあるな、みたいな。

──よくBiSはエモーショナルだって言われてたじゃないですか。それは強制的にエモーショナルな状態にしているからだとはずっと思ってて。

渡辺 ふつうの人間だったら……俺もふつうだと思いたいんですけど、ふつうの人間だったらそこの状況に追い込むこと自体にものすごいストレスを感じるんだと思うんですけど、僕はそこに生きてる実感があるんですよね。「うわ、かわいそう……」みたいな。

──自分でやっておいて(笑)。

渡辺 電話でキレられてめっちゃ怒ってるのとか聞きながら、これをどう切り抜けるかが生きてる実感を手にするチャンスだなとか思って。

──それはメンバーに怒られてるときの話ですか?

渡辺 メンバーも、ほかの大人も含め。人生なんてゲームみたいなもんなんで、ダメになったらダメになったでリセットも利くだろうし。

──そういうスリリングな状況のほうが生きてる実感は湧きますよね。

渡辺 そうなんですよねー。世渡りがうまい人たちってすごいいっぱいいて、いまはいろいろ大人が僕の周りにも増えてきちゃったんで、大人の顔を立てなきゃいけない部分とかいろいろあるんですけど、意外と意見が通りやすくてラッキーだなって思ってますけどね。「とりあえず渡辺が言ってるからそのままにしとこう」みたいな。

──BiSで実績を作っちゃいましたからね。

渡辺 そこは結構ラッキーなんですけど、難しい問題が少なくなってきちゃったなっていう気はしてますね。

──生きてる実感を得づらくなってる。

渡辺 そうです。最近ホントになくて。逆に言うと、僕がこれまで無視してきた大人の関係をちゃんとするとか、そっちのほうに最近はシフトしてますね。

<次回に続く>

プロフィール


音楽プロデューサー

渡辺淳之介

渡辺淳之介(わたなべじゅんのすけ):1984年、東京都出身。高校を中退した後に大検を取得して早稲田大学に入学。大学卒業後、音楽業界へ。数々の過激な活動で知られるアイドルグループBiSを手がけて大きな話題を獲得する。BiS解散後は、自身の会社である株式会社WACKを設立。アイドルグループBiSHやGANG PARADEなどをプロデュースしている。今年の4月にはその半生を追った書籍『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(宗像明将・著 河出書房新社)が刊行された。また、このインタビュー後の7月8日に新メンバーを募集し元リーダーのプールイと共にBiSを再始動させることを発表してファンを驚かせた。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

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