田中角栄 日本が酔いしれた親分力(14)久々の再会から秘書へ転身 (1/2ページ)
その後、佐藤昭は田中の初めての選挙の応援弁士と結婚したものの、いつしか夫婦仲は冷えていった。
52年(昭和27年)2月23日、所用から自宅に戻ってきた昭は、不審に思った。家の脇に続く塀に、紺色の高級車ポンティアックが横づけされている。
〈誰だろう、こんなところに‥‥〉
家の近くまで来た時、ポンティアックの窓が開かれ、ひとりの男が顔を出して声をかけてきた。
「奥さん!」
何と、田中角栄ではないか。
昭は、思わず顔をひきつらせた。夫の事業が傾いてからというもの、田中と夫の仲は険悪になっていた。夫は、田中に世話になりながら不義理をしていたらしい。たびたび、田中土建の社員が押しかけていた。いよいよ、社長本人が借金を取り立てにやって来たのではないか。
昭は頭を下げた。
「本当にご無沙汰しております」
まさに3年ぶりの再会であった。田中は右手を挙げて「やあ」と昭に答えると、独特のダミ声で訊ねた。
「ご主人は?」
「不在なんです」
「そうか、ちょっと話があるんだが、車に乗って下さい」
ポンティアックは、轟音を立てて走り出した。昭はさすがに不安になった。
〈田中先生はどこに行くつもりなのだろう〉
車で連れて行かれたのは、1軒の料亭だった。
「ちょっと、ひと部屋借りるよ」
田中は出てきた女将に告げると、ずかずかと入っていった。どうやら、かなり馴染みの店らしい。
田中は、出されたおしぼりで首筋を拭いながら切り出した。
「今朝、選挙区から帰ってきた。君たち2人が離婚するという話を聞いて、あわてて訪ねたんだよ」
昭はホッとした。どうやら、夫の田中に対する不義理の話ではないらしい。やっと落ち着いた。
田中が、苦笑いしながら続けた。
「ところが、2人ともいない。仕方なく帰ろうとしたら、近くでボヤがあって道が通行止めになったというんで、解除されるまで待っていたんだ。そこに、君が帰って来たっていうわけだよ。