死亡者が毎年続出?明るみになった中国の”軍事的教育”の実態

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中国の時代錯誤な軍事教育について考える (C)孫向文/大洋図書
中国の時代錯誤な軍事教育について考える (C)孫向文/大洋図書

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。

 2016年8月17日、中国・陝西省の高校内で行なわれた軍事訓練中に、参加した16才の男子高校生が熱中症で死亡するという事態が発生しました。当日の現地は猛暑日となっており、中国の気象庁から高温注意報が発令されていました。

■子供たちの命を奪う軍事訓練

 日本と同じく、中国も夏季に入ると各地で30℃を軽く越す真夏日となります。死亡した男子高校生が残した日記によると、軍事訓練は炎天下の最中に行なわれ、学校のグラウンドからはプラスチックが焼け焦げるような匂いが漂っていたそうです。真夏の太陽は学生たちの体力を容赦なく奪い、体調不良を訴える者が続出したそうですが、訓練は中止とならなかったのです。

 中国では中学、高校、大学への進学時に、男女を問わず必ず模擬的な軍事訓練を一週間程度体験させられます。その際、体罰を盛り込んだ過酷な指導が行なわれるため、毎年のように死亡事故が発生していますが、人民解放軍のイメージ低下を恐れる中共政府の情報規制により、この事実は国内で公に報道されません。

 僕が実際に体験した軍事訓練の内容を紹介すると、まず参加者は全員迷彩服を着て早朝4時半頃に市内の軍事施設に集合します。施設内に到着すると教官が吹く笛の音を合図にして、5分以内に全員整列することを指示され、遅刻した者は全員が見ている前でお尻を叩かれます。そして、1時間半程度「気をつけ」、「休め」、「回転」、「パレート(整列)」といったパターン化された運動を反復練習した後、ようやく朝食にありつけます。ちなみにこの時は屋内ではなく、野外で座り込みながら食事をとります。

 そして昼ごろまで同じようなルーティーンワークを数度行った後、夕方の16時からは中国共産党の成立や抗日戦争、そして毛沢東の偉大さを語る「愛国洗脳教育」が行なわれ、18時から再び野外で夕食を食べます。そして20時から共産党賛美歌の「紅歌」を練習するなど再び愛国洗脳教育が行なわれ、21時に消灯します。

 水分をとらずに1時間行進し続けるなど訓練内容は過酷なものばかりです。しかも猛暑日の最中行なわれたため、僕は訓練中に何度も倒れそうになりました。教官のほぼ全員が暴力的な人物で、少しでも規律違反をおかした者には容赦なく体罰がふるわれていました。

■明るみに出た死亡事故

 死亡した高校生の日記はメディアにより公開され、国内で大きな話題となりました。ネット上には「私の子供も現在、軍事訓練を受けています」と子供の健康を不安視する声や、「高温注意報を無視する学校側に責任がある」、「軍事訓練クソ食らえ!」「実は私の学校からも死者が出ました」などと現在の中国の教育体制を批判したり、「私たちの命は安かった」、「軍事訓練は洗脳教育だ」と、過去に体験した軍事訓練の苛烈さを訴える声が寄せられました。今まで中国社会に根付いていた問題がようやく明るみになりました。

 今回の記事を記述するにあたり、日本の知人から伺ったところ、日中戦争〜太平洋戦争下の日本では学生たちに軍事的な愛国主義を植え付けるために、体罰などを用いた過酷な指導が学校内で行なわれていたそうです。そして同じような教育が中国では現在進行形で行なわれています。

 戦術の知人によると、戦前の軍事教育に対する反動、または政府主導の「ゆとり教育」の影響から、現在の日本の学校では教育者による体罰や恫喝といったあらゆる高圧的な指導方法が禁止されているそうです。体罰や恫喝を肯定するわけではありませんが、あまりにも行き過ぎた過保護な教育は、学生たちのモラルの低下や愛国心の欠如につながると僕は思います。

 日本の左派・リベラル層は「軍国主義」、「戦前回帰」をかかげ、平和的なゆとり教育を推進し続けました。しかし、彼らが否定する時代錯誤な軍事教育は中国でこそ行われていること、標的は「日本」に向けられていることを左派・リベラル層の人たちには知ってもらいたいと思います。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。

(構成/亀谷哲弘)

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