病魔と闘う荒ぶる役者たちの不屈秘話 「第1回・松方弘樹」(1)松方弘樹という役者の特異性 (2/2ページ)
〈おやじさん、あんたは初めからわしらが担いどる神輿じゃないの。神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみないや、のう!〉
この当時、松方は30歳になったばかり。文太と向かい合う表情がアップになると、シワひとつない自分の若さが腹立たしい。
「冷たい水と熱いお湯をそれぞれ洗面器に入れて、交互に顔を突っ込むとシワができる‥‥迷信なのかもしれないけど、必死に繰り返したよ」
役への意欲はもちろん、アイデアが泉のようにあふれてきた時期だった。全5作のシリーズで、松方は違う役で3度登場し、3度とも銃弾に倒れる。
そのため、メイクやセリフ回しに趣向を凝らす。目の下に朱をにじませたり、ピラニア軍団と飲んでいた時にひらめいた「ササラモサラ」という出所不明の方言を「むちゃくちゃ」の意味代わりにアドリブで口にする。
「完結篇」のシナリオを書いた脚本家・高田宏治は、松方弘樹という役者の特異性を指摘する。
「高倉健も菅原文太も役者としては“陰”のほう。ところが、弘樹だけは登場しただけで画面が明るくなる“陽”の持ち主。陽のキャラでスターになった役者は、実は珍しいんだ」