元官僚の経済評論家・高橋洋一さん中国本”盗作騒ぎ”の顛末|やまもといちろうコラム (2/2ページ)

デイリーニュースオンライン

■著者とデータマンの関係性

 実際には、この手の本の問題の一つである「売れる著者」と「データマン」の関係という話がありまして、別段それが犯罪だなんだというわけではないんですが、要するにゴーストライターに下準備から概ねの話の流れまで書いてもらい、名前を出す著者が手直しをしてお手軽に本を出す、というスタイルが一般化していることを意味します。もちろん、まえがきやあとがきにそういう取材協力した個人名が具体的に書いてあれば「なるほど」と思ったりもするわけですが、高橋洋一さんに限らず周囲を見回してみて、明らかに守備範囲外のテーマなのに著書を量産していたりとか、交通広告で名前の出るような「シリーズ累計何十万部」といっているような仕掛けにはどうしてもこういう量産体制が背景にあるようです。

 当然、そういうゴーストライターをやる人も決してその方面に知見のない人を起用するはずもなく、個人でライターをやられていたり、経済誌で特集を担当されるような書き手が、ある種の仕事の一つとしてリサーチャーやデータマン、ゴーストライターをやる、というのが定番になっています。

 しかしながら、聞き書きや対談本のような簡便な書籍ならともかく、中国経済という大きなテーマで、一時期は政権の経済ブレーンまでした人が実名で書き下ろしたという本が、実は出版社が用意したデータマンに乗っかった執筆仕事をしていたという話になるのは少し残念です。いろいろ物議を醸すことはあるにせよ、やはりこの方面では高橋洋一さんはそれなりにビッグネームですし、論客としても幅広い人気のある人物の一人ですから、どうせ書くからにはじっくりとご自身で書き上げられたほうが読者のためにも本人のためにもなるのだろう、と思うわけですよ。

 また、この本のテーマである「中国のGDPが、実はかなり怪しいものである」というのは、相場をやっている人間からすれば特に知られている話ですが、その一方で、中国の経済統計は速報値はともかく幾度となく修正がかかり、それなりの正しさを担保しようと努力してきている世界でもあります。なので、それなりの年数を振り返って中国政府の公式発表の数字を追っていくと、地味に修正されて、この本でも指摘されるようなエネルギー収支や輸出入統計との整合性のあるような数字に仕上げ直されているという指摘もまたできるわけです。

 おそらくは、高橋洋一さんに対する一般的な期待度と、出版社が「高橋洋一」を見るときの売り上げ予測の間に、悲しいレベルのズレがあるのではないかと思うわけです。データマンを使って剽窃紛いな事をしてでも高橋洋一名で本を出版するぐらいなら、もう少し物理的なページ数が薄くてもいいから彼のしっかりとした論考を読みたいと思う読者は少なくないだろうと感じるからです。

 また、ひとつの大きなテーマを取り扱うにあたっては、やはり本の執筆は重いです。それこそ、基本的な考え方からデータの取り方、分析、論考や考察、ビジョンや今後といったすべてを重厚に書き綴るぞとなれば、一年でも二年でもかかってしまうのが出版の世界でしょう。ライトに書き飛ばしても喜んで読んでもらえる世界ではないからこそ、中国事情本はしっかりした本ほど長く読まれ、評価され、売れる傾向にあるということは考えに入れておいてよいと思います。

「どうせやるなら、ちゃんとやろう」と言いたいわけですが、よく考えたら書店で衝動買いしてしまった私はデータマンのせいにされた剽窃本を買っちゃったわけですね。まあ、面白かったからいいけど。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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