DeNAの暴走における”ダメージコントロール”の失敗|やまもといちろうコラム

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 山本一郎(やまもといちろう)です。いろんなところで目撃証言があったようですが、私は一人しかいません。他で見かけたとしたらそれは山本太郎です。

 ところで、DeNAの件が燃えておりますが、12月7日、DeNAで会長・南場智子女史、社長・守安功さんによる記者会見が行われました。3時間ほど行われた会見の中では、経営陣がこの問題についてあまりきちんと知らされていなかったという実態について、お詫びとともに説明がありましたが、懸念や疑念は晴れることなくもうしばらくグズグズしてしまうことになりそうです。

 というのも、実はこの問題というのは構造が大きく、DeNA一社がやらかしたので謝罪して終わりというものではなく、ネットにかねてから広がっていた「引用」という剽窃文化、さらにはそれによって稼がれるページビューに依存したデジタル広告営業の実態という2つの相克があるからです。

 突き詰めれば、人間にとって有効な情報というのはそこまで多くありません。生きていくために必要な情報を適切に仕入れられれば、落ち着いて家族とともに暮らし、適度に働いて幸福に生きていけるという程度のものです。インターネットが普及し、情報化社会になったからと言って、人間が生きている間に処理できるビット数が劇的に増えたかというとそういうことでもなく、むしろ、もっとも濃いエッセンスを適度に薄めて摂取するか、人間の意識しないところで大量の情報をやり取りすることで人間社会をより便利にしていくかというあたりに情報化社会の本質があります。人間がどんなにガジェットを揃えても、目にできる液晶は一枚の一部であるということを思い致せば、どれだけの大量の情報が流れても人間の知識の獲得や学習、行動を促す情報はわずかしか取り込まれないのだと思っても良いと思います。

 したがって、元になる情報などそれほど多くないのだから、特定の疾病、例えば膵臓がんについて調べようと思えば、最新の医療百科のような定番の書物と医療系の学術論文にアクセスできれば本来は情報摂取は終わってしまいます。ステージ4bの5年生存率も、状況による予後や抗がん剤、転移の際の処置など、本当の医療情報に接することが「知の限界点」であって、それ以外のものはすべてノイズです。

■「自分たちは何もしらない」のマズさ

 しかしながら、そのような専門的な知識が分からない人は、ブレイクダウンされ分かりやすく咀嚼された情報を得ようと試みます。膵臓がんの例で言えば、今回問題となったDeNA「welq」のようなサイトだけでなく、NAVERまとめやヤフー知恵袋など、キュレーションメディアも選択肢に入ってきたとき、それらを構成している情報は既存の医療情報かガセネタの組み合わせということになります。情報の本丸にたどり着かせないことで多くのページを閲覧させ、そのページに表示される広告を踏ませることで収益化を図ることが経済的にはもっとも効用が高くなるということです。

 これは、タクシーに例えると分かりやすいでしょう。あなたは目的地にたどり着きたくてタクシーを止める、しかしタクシーは目的地に直接着くと収益性が低くなるという利益相反を起こします。だから、あなたがこの地域に土地勘がないと思えば遠回りしてメーターを回しお金を稼ぐことだってできます。一般的にそれをしないのは、バレたときにヤバいという法律の問題というよりは、タクシー運転手側の持つ「倫理」に多くの場合依存するわけです。

 DeNAが倫理観を欠いた企業であるかどうかは、一連の事件の経緯を見た読者の判断に委ねられると思いますが、今回の南場女史、守安さんの記者団質問に対する返答を読むと、かなり丁寧に「経営陣はそのような『倫理』を欠いたマニュアルの存在を知らなかった」という議論に終始しています。現場の執行役員である村田マリ女史がすべての責任者であり、情報が集約されていて任せた状態のため、自分たちは何も知らないということです。

 実際、今回問題となったMERYを運営するペロリやiemoをDeNAが総額50億円以上で買収したのかというそもそも論が問題になります。また、これらのキュレーションサイトをもてはやし、倫理観のないベンチャー企業を持ち上げ続けたキラキラして浮かれたVC界隈に対する目くばせもないわけではありません。ライブドアショック後に新興ベンチャーに対する信頼がしばらく回復しなかったように、これらの似非ベンチャーに資金を突っ込んで荒稼ぎさせ、上場して回収するスキームにはやはり慎重さを取り戻させるブレーキ役が重要になるはずです。

 それが、今回の経営陣であったとするならば、今回の「私たちは村田女史に任せていたのでマニュアルも知りませんでした」という釈明はどこまで通るのか気になるところです。何より、もしも本当に知らなかったのであれば、今回のような記者会見は必要ありません。ダメージに関わる謝罪会見は、撤退しなければならない線がはっきりしたところで一発バシッと決めて頭を下げて終わりにしなければならないはずです。

■何を持って社会への貢献とするのか

 読者に対して遠回りするタクシー運転手然としたDeNAには、彼らに対し遠回りするタクシー運転手となった戦略PR会社がいたのかもしれませんし、来週シンガポールから帰国すると見られる村田マリ女史がどういう対応するかによってもう一度、火が吹くことだって考えられます。今回の記者会見で事業責任者であるにもかかわらず同席しなかったのは健康の理由だそうですが、税金の都合で日本に帰りたくないのではないかという疑いからまずは晴らしていかなければなりません。

 同時に、それらのマニュアルは「出入り業者であるクラウドワークスなどライターを取りまとめた会社が作成した」という形で、DeNA上層部も含めた組織ぐるみの事業であったことを認めない理由も、恐らくは株主代表訴訟など別のリーガル上の判断で突っ張らざるを得ないという背景ではないかと思われます。別にそれは保身として健全だと言われればそうなのかもしれませんが、すでに述べた通り、外部の人間も多数、MERY(ペロリ)やiemoの投資の過程を知っており、カラクリは全部わかっておるわけです。

 いまでこそ、同業他社が似たようなやり方で燃えそうになって記事を大量消去したりしていますが、むしろ、個人的にはそういう事業が始まったきっかけと、そういう事業の収益の源泉であった広告会社(電通やベクトルなど)にももう少し光が当たるようになると、いろんな事象が解決されるようになるのではないかな、と感じます。

「仕入れ原価の安い記事を外注でかき集めて、SEOで大量に集客し、広告をつけて収益化を図る」というのは、確かに情報化社会における資本主義の挙動としてはまことに合理的です。ただ、そこで超えてはいけない線を自らが律して守ることができなければ、資本家は生き続けることはできません。確かに、グレーゾーンといえばそうでしょうし、法を破ったわけではない、イノベーションのためには法律をハックする必要があるのだ、と考える思想も理解はできます。そこを分かったうえで、なお強い倫理観を持ち、誰のための仕事か、何をもって社会に貢献するのかを見つめ直すことが大事だと思うのですが。

 今後、様々な情報がさらに出てくることになるでしょうが、この本質についてきちんと目線を合わせて報道に向き合いたいものです。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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