プーチン大統領と面倒くさいロシアの現実|やまもといちろうコラム

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 山本一郎(やまもといちろう)です。年賀状書いてたら、今年は身近な人が何人も亡くなったことが分かり、しんみりするわけです。来年44歳になるんですが、そろそろ同級生や後輩の訃報も増えてきて、歳合い的にそんな状況なのかなと感じ入ったりもします。

 ところで、遅刻してやってきて早退で帰っていったロシア大統領プーチンさんとの外交がイマイチな結果のため、日本国内全体が「なんだかな」という雰囲気になっております。

 私自身も今年年初ぐらいまではかなりロシアでのビジネスもあり、極東にパートナーもいるため2012年のウラジオストックAPEC以降、投資の呼び込みに積極的なロシアの政策には関心をもって見ていたんですけど、結局は報道の通り領土問題はゼロ回答、彼らの言うところのオホーツク経済圏(日本ではどういうわけか北方領土の共同経済開発事案となってますが)に3,000億円ぐらいのお金が日本から突っ込まれてto be continuedであります。

 一言で言うならば、プーチン大統領は安倍晋三首相(というか安倍家)や森喜朗さんなど日本のキーマンを信頼してはいるが、領土問題に応じる気は全くない、ということでしょう。

 日本側が領土問題の解決に「前のめり」なのに、ロシア側はモスクワも極東もまったく風が吹いているように見えず、気運も特にないのに期待だけ日本国内だけ煽られたというのは、やはり日本に何が足りないのかを改めて思い知らされる気分でございます。

 余り日本国内で本件日露外交の旗色が良くないことは報じられなかった一方、大事な真相として今回の日露外交は経済産業省の主導であったとロシア側が思っていた、領土問題をちらつかせながら経済協力を引き出す腹積もりであることは、ロシアの親大統領系メディアや、たびたび日露で行われた知識人シンポジウムでも繰り返し指摘されてきたことです。日本側が外交窓口であったと見込んでいたロシア側の重要閣僚が日露交渉の途上で政治問題を引き起こし失脚したり、ロシアとの関係改善を目指すとみられる人事を繰り出しているアメリカ次期大統領トランプさんの動きを見ると、相対的にロシアにおいて日本の重要度が下がってきていることは誰の目から見ても明らかです。

 日本にとってロシアとの関係で一番重要なことは、軍事的な膨張が脅威になっている中国への対抗の枠組みをロシアと作りたいことである一方、ロシアの当面の外交課題はシリア・アサド政権支援など人道的に批判の高まる中東政策への包囲網を突破したいことにあります。副次的に、経済協力があるぐらいで、必ずしも日露間の利害は一致するものではありません。

■対露外交の情けなさ

 一方で、民間の立場で言えば、ロシア経済の低迷は資源輸出に依存している生産性の低い状況から脱するどころか、むしろ酷くなっている現実はあります。ロシアも経済対策は頑張っているのでしょうが、産業の集積が少ないというよりは経済を上手く回す「民族の知恵」というレベルで、商売下手で即物的なところが尾を引いているように思います。

 その結果が、ロシアは広い領土に豊富な天然資源の恵みを持ちながら、日本を上回る1億4,000万人の人口でGDP1兆3,000億ドルと日本の三分の一の経済規模でしかありません。二国間関係で言えば、日露間の貿易額は日本の輸入が170億ドル、輸出が50億ドルと、日中間の輸入1,730億ドル、輸出1,200億ドルに比べれば10倍以上の関係しか気づけていません。ここに、北方領土問題の解決のために3,000億円(30億ドル)の資金を日本が打ち込むことにどれだけの意味があるのか、日本の民間企業が一番理解していることなのではないでしょうか。

 日本の現状が不幸なのは、ロシアの現状を見るととても領土問題が進むとは言えない状況であるのに、いかにも進展がありそうだというぬか喜びをさせてはゼロ回答を突き付けられて戸惑うという、日本外交と報道の間で繰り返される「お約束」にあります。もちろん、それ以外にも日露間で語られたことが多くあっても、世間には報じられないものはあるのでしょう。

 もしも、本当に日本がロシアとの外交を進展させたければ、領土問題を棚上げし、極東での経済協力についてもっと日本がコミットしなければなりません。ロシア極東経済において、日本の存在なしに立ち行かないのだというぐらいに踏み込んでいかないと、70年以上前の戦争で領土を取った取られたという外交上の口先の話にロシアが乗る必要はないのでしょう。あるいは、ポスト・プーチン大統領に期待をかけるかどうかというところです。

 日本国内の政治だけにおいては、領土問題こそが大事だけど、日露間を俯瞰的に見たとき、日本もロシアもそれどころではないということは分かるでしょう。むしろ、極東の安全保障やサイバーセキュリティ、LNGや希少資源の確保、オホーツク近海の海洋資源を日露で手を取り合って助け合えるようにするための呼び水を作ることです。すでにポスト冷戦ですらなく、大きくなる中国の脅威についてどう考えるのか、極東経済をどう育てるかを考えながら、百年二百年付き合って今後を見定めるしかないのではないでしょうか。

 そういう日本の対露外交の情けなさを見たくなかったのか、ソ連時代の外交を担われた外務省の丹波さんが日露首脳会談直前に亡くなられました。心より、お悔やみ申し上げます。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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