「腐った社会」を出現させる金正恩氏の未熟な統治 (2/2ページ)

デイリーNKジャパン

薬物密売や売春など犯罪とされている行為は言うまでもなく、小さなところでは、雀の涙ほどの給料しか出ない国が決めた職場を離脱する行為や、廃坑となった鉱山での違法採掘などがあるし、大きく見れば不動産取引や中国との密輸もこれに含まれる。

こうした違法行為を安全に行うために必要なのが権力だ。権力があれば、政治問題以外のどんな問題ももみ消すことができる。

だが、庶民が保安員(警察)や保衛員(秘密警察)、軍に出せるワイロの額はたかが知れている。必然的に、権力に近い者たちや、十分なワイロを出せる富裕層(金主・トンジュ)たちが金儲けを独占することになる。上記の1%がこの層にあたるのだ。ワイロを出せない者に待つのは「死」か「最底辺の暮らし」しかない。

北朝鮮の教育で耳にタコができるほど聞かされるのが、「貧益貧、富益富」という慣用句だ。貧しいものはますます貧しくなり、富めるものはさらに富むという「無慈悲な資本主義」を批判し、自国の社会主義の優位を説く際に使われる。

それが今、北朝鮮で起きている。しかも金正恩氏は、現状に対し全くの無策であるばかりか、アベコベにがっちりと組み込まれている始末だ。

白書では「最高指導者から当局の核心幹部たち、そして地域の党と行政、経済単位の幹部に至るまで、そして一般住民のうち『トンジュ』と呼ばれる新興富裕層まで、北朝鮮全体が不正腐敗と略奪システムでつながっている」と指摘する。

金正恩氏の統治の原資が、さまざまな国家機関に分け与えた権力にあり、各機関が権力を用いて荒稼ぎした現金が「統治資金」として上納されるシステムを指している。上納金ノルマを満たせなかったり、反抗の兆しがある場合に待ち受けるのは「粛清」だ。

白書はこうした社会の姿を「(北朝鮮は)資本主義よりも激しい弱肉強食の社会になってしまった。『権力がすなわち金』であるという言葉が示す通り幹部たちの不正腐敗は最高潮に達した」と表現する。

筆者はここに、金正恩時代の未来を読み解くカギが隠されていると見る。不正腐敗の行きつく先に待ち受けるのは権力の崩壊であるというのが歴史の教訓だからだ。

北朝鮮の住民はとっくに、権力がカネを生む不公平な社会構造に気付き、不満を募らせている。金正恩氏に新年辞で述べたような殊勝な反省の意があるなら、まずは政治と経済を分離させることから始めるよう助言したい。

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