「頭が高すぎる集金人」嫌われJASRACの一生|やまもといちろうコラム
山本一郎(やまもといちろう)です。しばらく家族がダウンしていて雑用が津波のように押し寄せておりますが、私の原発は元気です。
ところで、先日YAMAHA音楽学院や河合楽器などスクールにJASRAC管理楽曲を使っているかどうかで著作権料を払うの払わないので盛大に揉めている事案が勃発し、耳目を集めていました。もともと10年以上JASRACは両社に対して支払いを求めてきたものの支払いを拒否されているところで、いきなり問題を表に出されて訴訟沙汰前夜というのは穏やかな話ではありません。
そこへ、JASRACの理事で東京大学の教授にして知財法マスターである玉井克哉せんせが敢然と登板、湧いて出るクソリプをバタバタと切り伏せながらJASRACの請求に関する正当性を高らかに論じ上げるという勇名を馳せておられました。
※JASRACの外部理事を務める東大・玉井克哉教授(知的財産法)による大手音楽教室から著作権料徴収についてのQ&A - Togetterまとめ
https://togetter.com/li/1077579
一方、JASRACにこんなクソな対応をされたという告発がTwitter上に溢れ、これはこれで読むものの目頭を熱くさせる何かがあります。確かに「JASRAC管理楽曲を使わないコンサートをやるのにJASRACから『使わない証明を書面で出せ』と言われた」とか「150名以下しか客を呼ばない零細イベントにはJASRAC登録がなされても利用料の支払いは無し」など、いわゆる普通のサービス業とは隔絶した中世の徴税人みたいな世界が広がっていて、これはこれで涙を誘います。
しまいには宇多田ヒカル(34)まで出てきて「教育目的なら私の曲は自由に使って」と大見得を切るツイートをしたのですが、「そもそもお前の楽曲はJASRAC管理じゃないだろ」というツッコミも業界から多数で、いかに著作権をめぐる事情が複雑怪奇かということを改めて教えてくれるように思います。
この問題はまあそのぐらい法的にむつかしく、ややこしいことこの上ないのですが、いわゆるカラオケ法理と呼ばれる微妙な判例も含めて、そもそも音楽教室で指導する音楽は「公衆に対する演奏」とされ演奏権の範疇となるかは論点となります。
基本的な解説については、ヤフーニュース個人でこの問題に詳しい栗原潔さんが説明したものがコンセンサスの取れているものなので、ご参照いただければと存じます。
※JASRAC vs 音楽教室:法廷で争った場合の論点を考える - Y!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20170206-00067411/
※JASRACが音楽教室からも著作権使用料を徴収しようとする法的根拠は何か? - Y!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20170202-00067263/
■JASRACの嫌われっぷりも大問題
そのような問題はなぜ起きているのかというと、今回の騒動の代表格であるYAMAHA音楽教室は特にそうなのですが、それなりに音楽スクールで売り上げがあって、J-POPのようなJASRAC管理曲を使って運営しているにもかかわらず、財団法人の運営であるから、教育目的だとして演奏権には入らないと言い切っている点にあります。ダンススクールやカルチャーセンターについては、欧米と同じく著作権料は支払うのが通常ですし、これらの音楽教室は学校教育法で利用料を免除されるものでもないため「J-POPなどで生徒を集めて営業しているなら金払えよ」ぐらいのことは言われても仕方がないだろうと思うわけです。
しかも、YAMAHA音楽教室自身が、公式に「法的な意味における『学校法人』には該当しません」としたうえで「専門学校、各種学校にあたらないため、学校教育法において認められる学校へ通学するための奨学金や、交通費の学割の対象にはなりません」と明記しています。YAMAHAの音楽文化への貢献は間違いなく多大なものがあると思うのですが、学校法人ではなく商売としてやっているからには、包括契約かどうかはともかく幾らかは権利者に利用料位払った方が良いんじゃないの、という気もします。
※ヤマハ音楽教室
http://www.yamaha-mf.or.jp/ongakuin/admission/fee.html
しかしながら、ネットでは「JASRACが悪い」一色になっていて、どうにも旗色が悪そうです。これが例えばAdobeやMicrosoftのソフトをスクールが正規の製品として使わずにコピーしてたら裁判所に真っ二つにされる案件です。
やはりこの辺は、冒頭でも述べた通り、お金を集めるJASRACが嫌われ過ぎていてどうしようもないってことなんじゃないかと感じます。人からお金を出してもらうにあたって、本音や権利関係はともかく頭を下げたり、恐縮です的スタイルがきちんと見られなければそりゃ反発買うよなあと。私たちのNHKだって聴取料を取られるときとっても腹立つのは事実だけど、でもよく考えたらNHKには随分お世話になっているし、払うか、となるわけですから、JASRACならなおさらです。
突き詰めれば、YAMAHA音楽教室やその他これらのスクールが著作権料・利用料を払うかどうかを判断するのはもちろん、法廷でやってもらうのが一番なんでしょう。また良く分からん判決が出ることはあるかもしれないけど。ただ、その過程として、いまの交渉が包括契約で2.5%というのが妥当なのかどうか、教室で教練用に使う楽曲なら全量報告できるはずだから交渉しろとか、本当に音楽文化に貢献している自負があるなら税制面や管理面で多少持ち出しがあっても学校法人資格を取って堂々と著作権料免除を勝ち取るとか、そういう方法が検討されてしかるべきなのではないかと思うわけです。
「なんかすっきりしない」というよりは、いまの法律の下ではそこまで酷いことを言っているわけでもないJASRACが叩かれるという嫌われっぷりを、先にどうにかしたほうが良いのではないか、と強く感じる次第です。
著者プロフィール
ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)
やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研