おむつをダシにコンビニのエロ本を攻撃する微妙なジェンダー論|やまもといちろうコラム

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Photo by photo AC(写真はイメージです)
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 山本一郎(やまもといちろう)です。昔の日記を読み返していて、酒をガバガバ飲んでいたころ「ビールなんてお茶みたいなもの」という記述がありまして。十数年の時を経て、家族ができて健康を気にするようになってから酒量を10分の1に減らしたいま読み返すと、うわああああああああという気分になるわけであります。人間変わるもんだし、若いって恐ろしいなあと感じるわけでありますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 ネットで微妙なフェミ系論述を繰り返しているライターの長谷川君子女史という人が、「コンビニはエロ本を売らずにおむつを売れ」というハッシュタグをツイッター上で展開、コピーライティングが秀逸だったためか、それなりに拡散していろんなところで記事になっているようです。

コンビニは「エロ本ではなくおむつ売って」ツイートに賛否

 この問題に対する私個人のツッコミとしては、「おむつを売れ」と「エロ本売るな」という全く違う2つのイシューを繋げることの無意味さと、この長谷川君子女史はエロ本が売れる地域のコンビニのユーザーであり、エロ本砂漠地帯の私ら千代田区住民からすると全くピンとこないことです。昔はエロ本売ってたように記憶しているところが軒並みイートインコーナーになってて、コンビニもトレンドや地域柄があるんだよなあと思うわけです。

 何より、長谷川君子女史のツイートを見ているとエロ本ヘイト待ったなしな感じのジェンダー論が展開されていたので、おむつなど子育て世代をダシにしてエロ本販売批判をしたいだけなんじゃないかと三兄弟を育てる私は思うわけであります。

 実際、おむつ利用全盛期である山本家にとっても、お出かけの際のおむつは大問題なわけですけれども、記憶の限りにおいて子育て7年間を振り返っても、コンビニに走っておむつを調達しなければならなかったのは2回だけ。1回が預け荷物の中にほとんど紙おむつを入れてしまって手持ちのおむつを使い果たした空港で急遽おむつを探したときと、行楽地で連泊している際に持ち込んだおむつを使い果たしたときだけです。ほかのご家庭では頻繁にコンビニでおむつを買わなければならない状況もあるのかもしれませんが、個人的にはまとめ買いして買い置きしたおむつを費消するほうが最終的には楽なので、コンビニはほとんど使いません。

 で、たまたまですがFacebookで大学時代にお世話なった人たちが大手コンビニエンスストアの偉い人になっておられ、ほかの本部事情も含めて「コンビニのエロ本やおむつってどういう感じなんですかね」と伺ったところ、結構コンビニも奥が深いなということが良く分かります。複数のコンビニ本部の話をまとめると、だいたい次のような内容になります。

■コンビニ本部の本音

──基本的には店側で売るものを判断する

 本部がキャンペーンもの以外で「エロ本を置け」とか言うことはありません。キャンペーンものというのは恵方巻とか店舗がデータ持ってなくて仕入れたくないものを指しますが、たまに外れて大変なことになります。恵方巻とか。

──エロ本が売れる地域にエロ本を、おむつが必要なところでおむつを

 当たり前ですが、エロ本が売れる地域ははっきりしています。住宅街や学生街、ローカル駅やロードサイド店など生活に密着していて独居男性が多いところで売れます。

 おむつもコンビニ用製品を卸してくれている2社(別の本部は三社)の製品取り扱いはありますが、マーケティング上売れないと判断されたり、店側が置きたがらないケースが多いため、取り扱いが少ないというのが現状です。また、おむつを置いてほしいという声自体がほとんどありません。住宅街ではニーズがないと判断されます。

 また、一部ネットでは「おむつは場所をとるから置かない」という指摘がありますが、棚面積当たりのおむつの単価は高いほうで、そういう理由は特にありません。量が売れないだけです。

──エロ本の代わりにおむつを置く選択肢はあるのでしょうか

 エロ本に限らず書籍類は、コンビニ経営において来客習慣を形成していただく大事な商材という位置づけです。曜日感覚をお伝えしたり、雑誌の表紙経由での最新情報の伝播、店舗によっては立ち読みによる防犯効果があるというケースさえもあります。

 最近では、この雑誌や特殊書籍をお買い上げの方にはこういう購買傾向があるのでは、というマーケティング上の手がかりもありますので、書籍は売れるかどうかの判断だけでなくバラエティ性も重視される棚になります。

 一方、おむつを欲しがる人は子育て世代で、この子育て世代を日常的にコンビニ利用者に育てたいというショップオーナーがいらっしゃれば、売れないのを承知で棚を取ることもあるでしょう。実際、タワーマンションに併設している店舗では仕事帰りの時間帯におむつが売れるので仕入れているケースもありますが、だいたいは所得のある共働き世帯の利用に限られているように見えます。

 また、空港や地方のターミナル駅、観光地、休日の大型遊園地ではニーズがあるため、おむつを置くことがあります。いずれにせよ、ゾーニングに配慮しながら需要を見て店舗ごとに判断するのが基本です。

──本部として考えることは

 これは仕事から離れた一個人の意見ですが、書籍とおむつでは購買層がそもそも異なり、比較することがもっとも難しいタイプの商材です。コンビニが比較的弱い客層のひとつはコストパフォーマンスを重視するまとめ買いユーザーですが、おむつはその典型的な商材の一つですから、コンビニが強い雑誌・書籍と比べて置く置かないを考えることは基本的にありません。

 ただ、おむつと清涼飲料水、ビールなどの需要がマッチする、いわゆる「併せ買い」動向というものは一応あります。また、おむつに限らずニーズがコアな製品は、特定の店に特定のリピーターがつく傾向があったり、買われる方の時間帯が共通していたりします。配送や陳列の時間帯次第では、置くほうが有利と考える店舗はないわけではありません。

 また「本は返品できるから置かれる」という意見もありましたが、目先の売上だけ考えれば、売れないかもしれない、陳列にコストもかかる雑誌や書籍を置くよりも、企画ものの販促や、スナック・軽食類、雑貨、プリペイドカード各種などのほうが有利です。それをしないのは、コンビニを訪れるそれなりの割合のお客様が、「コンビニに行って雑誌を買う」という行動がどの時間帯でも定着しているからなんです。

──ほかに言いたいことは

 今後ともよろしくお願い申し上げます。

 ということで、ほかの大手本部の人もだいたい同じような意見だということを考えると、そもそも「エロ本の代わりにおむつをコンビニは置け」というのは、エロ本が嫌いな人が子育て世代を煽ってるだけというツイッター特有の文化なのかなと思うわけであります。

 まあ、子育てしていて紙おむつが無くなることほど心が寒くなる現象もないんですけどね。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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