直木賞作家から作家志望者へのアドバイス (2/3ページ)
――その悩みからはどうやって抜け出しましたか?
恩田:何とかそのまま書いていたのですが、三作目か四作目を書いている時に、ふと「そうか、自分が好きだったものについて書けばいいんだ」と思えたんです。
「子どもの頃に読んで好きだった、ああいう雰囲気の本を書きたい」とか「ああいう読後感のものを書きたい」という風に考えるようになってからは、割と書くネタには苦労しなくなった気がします。
――『蜜蜂と遠雷』でいうと嵯峨三枝子のように、恩田さんは小説を書くだけではなく、文学賞の選考委員として新しい作家を発掘する立場でもあります。若い作家に期待することはありますか?恩田:心から「これを書きたい!」と思えるものを書いてほしい、ということです。
最近は新人賞であればみんなその賞の傾向を調べて、その賞に合うように対策を練って書いてきますし、テクニック的に上手な人も増えたんですけど、その反面「これは!」という作品が出にくくなっているように思います。
選考委員をやっている身としては「傾向と対策」で受賞しても長くは続かないというということは言いたいですね。
――小説を書く人の裾野が広がって、レベルも上がったけど……というところですね。恩田:そうですね。でも、裾野が広がったからすごい人がたくさん出るかというと、おそらくそんなことはないですよね。
あるプログラマーの本に書かれていたのですが、パソコンが普及して、デジタルネイティブの人が増えても、優秀なプログラマーはやはりひと握りしかいないそうです。小説もそれと似ているのかもしれません。
――恩田さんが人生に影響を受けた本がありましたら3冊ほどご紹介いただきたいです。恩田:小説家という職業を意識したきっかけということで、先ほどの『チョコレート工場の秘密』は最初にきます。
二冊目は谷崎潤一郎の『細雪』です。何の筋もなくて、何が起こるわけでもないのに、どうしてこんなにもおもしろいんだろうと思ったのを覚えています。