ソーシャルゲームで再び吹き荒れる”返金仮処分”とその実情|やまもといちろうコラム
山本一郎(やまもといちろう)です。いまだにポケモンGOやってるんですが、移動しなければすることもないので、パソコンに向かっている間はサブのスマホゲームを物色しては、壁にぶち当たってアンインストールする日々であります。困ったものよ。
そんな中で、昨年騒ぎになったCygames社の看板スマホゲー「グランブルーファンタジー」の広告不実記載事件後、MCF(モバイルコンテンツフォーラム)、CESA(コンピューターエンターテイメント協会)、JOGA(オンラインゲーム協会)が各々独自のガイドラインを打ち出し、傘下企業にこれを遵守させて問題が解決した……はずでした。
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そうこうしているうちに、OURPALM社が提供していたとされるソーシャルゲーム『KOF'98』で騒動が勃発。また、スクウェア・エニックス社が提供する『星のドラゴンクエスト』でも返金訴訟が発生する一方、かねてからの定番ゲームとして長らくユーザーに愛されていたガンホー「パズル&ドラゴンズ」やCygames「グランブルーファンタジー」などでも広告による射幸心煽りで過剰にガチャを回してしまったユーザーからの返金要請が出る始末です。
もちろん、これらの返金は未成年であれば問答無用で返金されるものですが、成人してからガチャに銭突っ込んで、言われたように思ったものが出なかったから返金しろというのは自己責任じゃないかという議論はかねてからあります。しかしながら、昨今はパチンコ業界やカジノ法案(IR法)でもある通りギャンブリング障害、ギャンブル依存症対策をやりましょうという流れに消費者行政も乗っかっているため、そう一筋縄ではいかなくなっている、というのが実情なのであります。
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実際のところ、昨年来ぼちぼち起きていた返金に関する仮処分が今年に入って大型化、集団訴訟化が進んでおりまして、ゴールデンウィーク前にどうも大きな打ち上げ花火でも上がるのではないかと言われております。話として出ているのはどれも大手ソーシャルゲームで、共通しているのは過剰に煽るガチャ広告を信頼してお金を突っ込んでみたら、実は言われているような仕様ではなかったという不実記載がらみが中心です。
この仮処分申請、一般には馴染みの薄い方法かもしれませんが、裁判でいわゆる本訴を行う前に裁判所で行われる双方の短期間の話し合いで地位を保全したりすることです。返金を願い出て課金した一部を還付してもらったり、詫び石(パズル&ドラゴンズの場合)を出してもらうということもあります。世間一般に報道されないのは、この仮処分という制度自体が秘匿性の高いものであり、また仮処分で業者側が一部返金や詫び石を出したことを訴え出たユーザーに秘匿することを条件にするというバーターが行われることが背景にあります。
つまり、業者側が不実記載でガチャを煽ったことを一定の責任で認めて一部返金や詫び石を出す代わりに、そのような訴えがあって仮処分申請で合意したことそのものを外部に漏らさないことを条件にしているということでもあります。
当然、秘匿条項ですから本来は世間に知られることはないわけですけれども、ここにきて返金訴訟を起こして一部返金を勝ち取った経験のある弁護士事務所が秘匿条項に応じない訴訟を提起したり、明らかに悪質とみられるソーシャルゲームの返金案件でどこからともなく別の事例で仮処分を経験した人物がノウハウを提供し集団訴訟に発展しそうな展開となるなど、徐々に冥界への扉が開きつつあるというのが現状のようです。
■ソシャゲバブルの行く末は
いま話題となっているのが集団訴訟に発展しそうな1000万円クラスの訴訟の内容がそのまま通ると、いわゆる不実記載によるガチャ煽りとされる商法のかなりの割合が引っかかって返金相当と裁判所が判断するであろうという内容が見え隠れしている点です。もちろん、一部返金といっても伝え聞く限り最も高率な返金割合でもせいぜい25%程度だとされていますが(一番一般的なのは10%から15%程度だそう)、それでも本当に炎上して集団訴訟上等の世の中になると億単位の返金を強いられるケースも今後は出てくるかもしれませんから油断はできません。
また、大手タイトルでも資金決済法上の預託金や保険を組むことなくゲームを提供しているという告発が出たり、そろそろまたソーシャルゲーム全般に対する業界の自浄作用が働いていないのではないかという風聞が出始める時期でもあります。真面目に取り組んでいるソーシャルゲーム会社も多い中で、儲かれば何をしてもよいと思っている会社も一部にはあるようで、そういったサービスが繰り返し優良誤認を強いるようなガチャ広告でプレイヤーを煽っている背景については気にしておいてしかるべきではないかと思うわけです。
隣の中国でさえ、ガチャから出るアイテム類やキャラクターの排出割合を明示する仕組みができて、守らない業者がサービス停止に追い込まれるという事態が発生しているにもかかわらず、日本は意外とそのあたりは業者寄りというか穏便に話を進めようとして被害が広がってしまっているという状況なのかもしれません。
射幸心を煽るという点では、ソーシャルゲームもカジノ関連やぱちんこ業界と同じく今後はいろんな規制がかかってくる可能性はあります。本来であれば、稼いでいるところほど依存症にならないよう、また過剰な資金をユーザーから吸い上げる仕組みにならないよう率先して配慮するのが筋道として望ましいところなのですが、消費者金融しかりライブドア問題しかり儲かっているところが派手にいろんなことをやらかすため、眉をひそめられてしまうところはどうしてもあるなあと感じる次第です。
これがソシャゲバブルの終わりになるのか、あるいはこの問題を克服してさらに新しい遊びが出てくるのかは分かりませんが、何事も腹八分目、適量というものがあるような気はします。やはり、毎日朝起きてから全社員で壁に貼られた「持続可能性」という5文字を読み上げるような訓示をしたほうが各社においてはよろしいのではないでしょうか。
著者プロフィール
ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)
やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研