話題の1冊 著者インタビュー 釣崎清隆 『原子力戦争の犬たち』 東京キララ社 1,600円(本体価格)

週刊実話

 ――死体写真家として著名な釣崎さんが、なぜ福島第一原発で放射線測定作業員になろうと?

 釣崎 3・11は僕の中でも大きなターニングポイントなんです。海外を20年以上飛び回って死体を撮り続けてきて、常に危険地帯や紛争地域に身を置いてきたわけですが、そこは自分の中の位置付けとしては「戦場」ではあるけれど、あくまでも「他人の戦場」だったんですね。ところが、祖国で3・11が起こった。3日後にはボランティアチームに同行するかたちで宮城、福島の被災地に入りました。ボランティア活動の傍ら、死体写真を撮りました。「自分の戦場」がここにある、と思いましたね。
 3・11以降、今もこの国は戦闘状態にあり、その中心が福島第一原発です。ここに飛び込みたい、そして、見てきたままを本にしたいと思ったんです。

 ――実際の仕事内容は?

 釣崎 ハードではなかった、という意味でイメージとは違いましたね。僕が携わった作業は主に二つ。一つは福島第一原発(通称・いちえふ)の構内外を出入りする工事車両の線量を測る「車両サーベイ」という事業で、汚染物質を管理区域から外に出さないことが使命となる、言ってみれば国境警備みたいな現場です。低線量エリアなのでその分、長期間働ける環境でした。
 もう一つは3号機の原子炉建屋内でする作業。人が入れない場所なので、そこで作業するロボットの介助をするんです。セッティングや撤収ですね。ここでの作業内容は最小限で、1日の実働は1時間程度。あとは待機。日当で比較するなら、車両サーベイで8000円、ロボットの世話は3万円でした。ただし、こちらは2〜3カ月で法定の被ばく限度(1年で50ミリシーベルトの職業被ばく限度が定められている)に達してしまうので、「来年まで来るな」となってしまうんです。そんなわけで、僕の月収は手取りで20万円ちょっとでしたね。

 ――本の終わりに「原子力で負った借りは原子力で返すのが筋。だから福島に第三原発の誘致を」と提唱しています。これが一番言いたかったことですか?

 釣崎 そればかりではありません。僕は元々、原発推進派ではないけれど、「反原発」みたいな後ろ向きな考えも嫌いなんですよ。原発を止めることによって、日本の未来を信じて長年培ってきた膨大な知恵の蓄積をドブに捨てることになるじゃないですか。夢の新しい科学技術に対する可能性、門戸を閉ざすことも、我が国にとっては命取りになりますよね。旧来の原発技術なんて、黙っていてもじきに終わっていくんですから。

釣崎清隆(つりさき・きよたか)
1966年生まれ。富山県出身。慶應義塾大学文学部卒。AVメーカー「シネマジック」の監督を経て死体写真家となる。

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