人工知能にも言論弾圧?中国共産党が開発する”愛国プログラム”の衝撃
こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。
2017年8月3日、中国のインターネットサービス「騰訊」が提供する人工知能AI「Baby Q」が、利用者の「共産党万歳」という書き込みに対し「腐敗して無能な政治に万歳できるものか」と返答したことが国内外で報じられました。
■国民の意見を反映する中国製AI
Baby Qはネット上に存在する中国国民たちの意見を統合して稼働するシステムであり、上記の例は大半の中国国民が自国政府を批判している証拠です。以前から中国国内ではBaby Qの発言がたびたび話題となっています。代表的な事例を挙げてみましょう。
例1
・ユーザー「AVをちょうだい」
・Baby Q「私は蒼井そら(中国で人気がある日本人元AV女優)が好きです」
(中国ではアダルトコンテンツの所持、販売が禁止されているにも関わらず、多くの人々が違法サイトなどを利用して閲覧していることがこの問答からは分かります。
例2
・ユーザー「愛国の定義を教えて下さい」
・BabyQ「政府の役人が汚職で、企業からの賄賂を受けて不当な取引きをし、政府が一般庶民をいじめ、脅迫、人権弾圧を行っても、文句を言わずに中国に住み続けたい、それが愛国です」
(中共政府の罪を羅列して盲目な愛国主義を嘲笑う、非常に厄介な「問題発言」です)
例3
・ユーザー「BabyQ、あなたの中国夢を教えてください」
・BabyQ「私の中国夢はアメリカに移民することです」
(「中国夢」とは、習近平のマニフェストである「強くて偉大なる中華民族の復興を目指そう」という意味で、BabyQの返答は大多数の中国国民が自国に絶望しアメリカ移住を願望していることの表れです)
つまり、BabyQは正常に機能しているということですが、中共政府は「システムエラー」と判断して2017年8月現在サービスを中止しています。中国ではAIにすら言論弾圧が適用されます。
このような事実があるにも関わらず、中国のインターネット上には愛国賛美や中共政府を擁護する意見で溢れかえっています。そのため、日本のみなさんが中国のネットを閲覧した場合、大多数の中国国民が愛国思想を持っていると誤解するかもしれませんが、それらの大半が「五毛党」と呼ばれる、報酬と引き換えに中共政府を擁護するネットユーザーたちによる作為的な書き込みです。
ある中国国民によるネット上での告発によると、民主主義的な思想を持つ彼は内情を調査するために自ら五毛党活動に参加したのですが、活動者の多くが同世代の一般サラリーマンの5~10倍もの収入を得ていたそうです。
彼らは中共政府から提供された「半自動ロボット」と呼ばれるワンボタン連続投稿機能を持つプログラムを利用して、「微博」や「微信」といった中国製SNS上に次々と愛国的な意見を連投します。最近、中国のSNSには様々なアカウントから全く同じ文章が寄せられる現象が多発しているのですが、この事実から半自動ロボットの存在が明らかになったのです。
また、昨今は、中共政府がタブーキーワードに指定した言葉が使用された書き込みを自動検出し、SNSの管理者に報告するシステムや中共政府が用意した愛国、政府賛美の言葉を自動的に連投する「五毛党bot」が開発されています。
現在、中国国内の民主主義者たちはネットを利用して中共政府を批判する意見を世界中に流布していますが、このようなシステムが開発されてしまえば多勢に無勢です。今後、Baby Qに対抗する「五毛党AI」が開発することも予想され、Baby Qが中共政府を擁護するように「洗脳」されてしまうかもしれません。
著者プロフィール
漫画家
孫向文
中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の33歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。新刊書籍『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)が発売中。