本当は怖かった 金本監督の「笑顔会見」に隠された強さとは
阪神・金本知憲監督(49)が坂井信也オーナーらにシーズン終了の報告を行ったのは、クライマックスシリーズ・ファーストステージに敗れた翌日の10月18日だった。その後、四藤慶一郎球団社長と並んで会見に臨んでいる。終始、笑顔だったが、真意は違った。関係者は「現場とフロントの分裂」も恐れるほど、緊張させられたという。
「外国人選手の話を切り出したときは、ドキッとさせられましたよ」(関係者)
借金12の4位から貯金17の2位躍進。CSに敗れたとはいえ、チームの成長は指揮官も実感していた。金本監督も「選手は本当によく頑張った」と繰り返し語っており、その言葉にウソはないが、「シーズンの誤算は?」の質問を受けたときだった。不振に終わった藤浪(3勝)、岩貞(5勝)の名前を挙げた後、こう切り出した。
「外国人のバッターですかね。ほぼ日本人選手、国産で戦ってきましたから。もう少し打ってくれる選手がいたらというのが、誤算と言えば誤算」
クリーンアップを予定して獲得した外国人野手が活躍しなかったのは今さらだが、「まあ、言っていいのか分からないですけど」と“前置き”してからまくし立てている。
「目下、外国人選手の獲得に関してはフロントの全主導で行われています。その外国人選手が誤算と言うのは、フロント批判をしたのと同じなんです」(前出・同)
選挙の街頭演説ではないが、『間』をおいてから喋る、“前置き”をしてから話すのは、聴取者の関心効果や注目を高める狙いもあるそうだ。金本監督は聞く人が聞けば分かる「外国人野手の批評」で、フロントをガツンと一撃したのだ。
金本監督の気持ちも分かる…。
初采配の昨季だが、ゴメス、ヘイグの2人で稼いだ本塁打数は29本。今季はキャンベル、途中加入のロジャースがいたが、合わせて6本。ここにFA補強した糸井嘉男の17本塁打を足して、ようやく“互角”というわけだから、「もうちょっとマシな外国人選手を連れてきてくれよ〜」の心境だろう。会見終了後のぶら下がりでも、
「(長距離バッターは)欲しいですよ、そりゃ! ホームランというのは試合の流れが一発で変わるから。最高、(満塁なら)4点入りますからね。1球で」
と話していた。金本監督は笑っていたが、同席した四藤球団社長がすでに退場したのを知っていたからだろうか。助っ人の機能しない野手陣の打線を組んできた今季の苦労も口にしていた。
会見に戻るが、金本監督はドラフト会議(10月26日)の話題についても聞かれ、清宮幸太郎(早実)へのラブコールを改めて送り直した。
「ウチはもう、清宮(で1位入札する)と決めていますから」
複数球団による入札重複は覚悟の上。抽選クジで運命を決めることになるが、金本監督は「(クジを)引けといわれれば引きますが、社長が引いてくれるんじゃないですか?」とも話していた。四藤球団社長は慌てて、「いえ、いえ。お願いします」と返していた。
同社長の表情がくずれたのは、そのときだけ。聞く人が聞けば分かる“公開批判”は、金本監督の圧勝に終わった。
関西地区で活動しているプロ野球解説者がこう続ける。
「阪神の編成スタッフ、スカウトは清宮の指名に失敗したら、投手中心の補強を行うと決めています。そうなると、金本監督の求めるホームランバッターはやはり外国人選手で補うことになり、渉外担当の責任は重大です」
昨年の阪神のドラフトが思い出される。先発タイプの即戦力投手の1位指名を決めていたフロントに対し、金本監督は「どうしても!」と訴え、大山悠輔(22)に変更させた。フロントがシーズン途中に緊急で獲得したロジャースよりも、終盤戦で活躍したのは大山のほうだ。CS3試合で脅威の打率5割3分8厘をマークし、レギュラーシーズンも後半戦での合流ながら、本塁打7、打点38を稼いでいる。その大山をシーズン最終戦でセカンドを守らせたのは、『一塁のポジション』を開けておくためである。
「ロジャースよりも大山のほうが戦力になりました。金本監督の見る眼は間違っていません」(在阪記者)
一塁を守るのは清宮か、フロントの連れてくる新外国人選手か、それとも、今季不振だった原口文仁が巻き返すのか…。一連の金本監督の言動を考えると、清宮の指名に成功したとしても、ドラフトリストにも『喝』を入れてきそうだ。