吉田豪インタビュー:西野亮廣・後編「やっぱりヘタですね、僕…。キングコングのプロデュース」

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吉田豪インタビュー:西野亮廣・後編「やっぱりヘタですね、僕…。キングコングのプロデュース」
吉田豪インタビュー:西野亮廣・後編「やっぱりヘタですね、僕…。キングコングのプロデュース」

 プロインタビュアーの吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さんをゲストに迎えたインタビューもいよいよラスト。今回のテーマは、吉本興業という会社の独特さ、西野さんと相方の梶原雄太さんとの関係、「お金に興味ない」と語る西野さんのスタンスなどです。これを読めば、あなたも西野さんのことが好きになる!?

知られざる吉本興業と芸人の関係

──この本でおもしろいと思ったのが吉本との関係だったんですよ。クラウドファンディングだのなんだの、これだけ勝手なことやって契約的にどうなってるんだろうと思ったら、そのへんの種明かしもちゃんと書かれてたじゃないですか。

西野 そうですね、ハッキリしてるんです。この本はウチの社長にも渡して社長にもその話はしていて。そもそも吉本所属のタレントではないっていう。

──ボクも吉本の芸人さんから聞いたことあるんですけど、そこは意外と誤解されてますよね。

西野 吉本が解雇とかやるからですよね。たまに解雇みたいなのを出すから、やっぱ吉本のタレントさんって所属してるんだってなっちゃってるのかもしれないですけど、基本的には所属はしてないっていう。そこはいいんですよ。契約してないから、なんか言ってきたら、「いや、でも契約してないですよね?」っていうカードを切れるんで。

──吉本の独特さはそこですよね。芸人さんが相当好き勝手なことやっても問題にならないのは、この特殊な雇用関係があるんだなって。

西野 たしかにそうですね。おもしろいですよ。日本の芸能事務所で吉本興業が一番いいですね。所属してないのに劇場も貸してくれるし、プッシュしてくれるし、こんないい事務所ないと思うんですけど。

──こうやって、いまも吉本本社の会議室が使えたり(※取材場所は吉本興業東京本部)。

西野 そうですよね、場所を借りようと思ったらお金払わなきゃいけないじゃないですか。やっぱりいいんですよ。だから吉本とはうまいことやっていきたいなっていうのはありますね。

──愚痴をこぼす人も多いけど、うまくつき合えば。

西野 うまくつき合えば、こんないい会社ないですね。みんなときどき間違うんですよ。所属してなくて契約もしてないのに、「マネージャーが仕事を取ってきてくれない」みたいなことをボヤいたりするんですけど、契約してないんだし。だから代理店みたいなものですよね。電通とか博報堂とか、持ってきた仕事に関してはやりましょうねっていう、そういう会社だから。

──勝手に営業してくれると思っちゃいけない。

西野 そうそう、営業してくれるとは思わないんで。そもそも営業してくれることが異常なことで。でも、それって外の人もあんまりよくわかってないですし、いわゆる吉本タレントもそのかたちってあんまり理解できてないんじゃないですかね。

相方・梶原雄太との関係は?

──いまは吉本の劇場がどんどん増えて、「幕張イオンモール劇場とか行くのもしんどいしお金もろくにもらえない」みたいな愚痴をすごい聞くんですけど、西野さんはそういうのもうまくつき合ってるわけですか? 劇場にもちゃんと出てるわけですよね?

西野 やりますやります。僕、劇場むちゃくちゃやってますから。前に社長に「好きな仕事なんかやらせてやる」って言われたとき、「大阪のなんばグランド花月の週出番をください」って言って。週出番って1週間出るってことなんですけど、だから月に1週間は大阪のなんばグランド花月に出てますね。で、営業も行ってます。営業はどっちかっていったら梶原(雄太)くんの生活費ですね(笑)。

──ダハハハハ! これだけ好き勝手やってて相方のことはどれくらい考えてるんだろうっていうのも正直、疑問だったんですよ。

西野 いや、結構考えます。生活保護の件(※2012年、梶原の実母が1年3ヵ月間、生活保護を受給していたことを謝罪)あったじゃないですか。あの問題っていまはどこまで響いてるのか実際にはわからないですけど、ゼロじゃないだろうなとは思っていて。そうなったときに、板の上は受け入れてくれるので、そこの仕事はちゃんとやらないとなって。あと、梶原は子供4人いるしなっていうことで、劇場と営業は行きますね。営業はコスパ悪いんですけど。青森とか行くと丸1日取られるんで。

──これだけ自由にお金を稼ぐノウハウを学んだ人が、まだそこのレールにちゃんと乗っているんだっていうのも意外で。

西野 一応コンビですから、そこは。あとは子供も知ってるので、あいつらがひもじい思いするのは嫌だなとか、奥さんも昔から知ってるので、そこはマネージャーが営業を入れてきたらやるようにはしてますね。

──梶原さんから「コンビでもっとテレビに出たい」みたいなことは言われないんですか?

西野 ああ、コンビで仕事したいっていうのはけっこう言いますね。でも、ちょっと難しくて。それは僕にも原因があるとは思うんですけど、ちょっと悩みで。デビュー1年目のときって素性が知られてないわけじゃないですか。なので漫才のキャラクターそのままでいけたんですよ。漫才のキャラクターがキングコングの梶原くん、西野くんのキャラクターでっていうことで、梶原は漫才でポンポンポンポンとボケるんですね。一方それがテレビに出だすと、素の自分がバレるわけじゃないですか。梶原、そんなにボケないんですよ。そんなに矢面に立つようなヤツでもない。どっちかっていったらその他大勢で外野から野次を飛ばすみたいなタイプで。僕は僕でボケはしないですけど、集中攻撃を受けるタイプ。だから漫才のキャラクターと普段のキャラクターが乖離しすぎてるんですよ。それがバレてしまうと、次はコンビでどうやって動いたらいいんだろうみたいな、そこのズレは、コンビでちょっと動きにくくなったなっていう感じはあるんですよね。

──ああ、なるほど。

西野 最近、漫才やっても変な感じなんですよ。梶原がボケて僕が「やめやめ」って言うのって、これ逆じゃないかって。僕あんまりやめろとか言わないんですよ、「いっちゃえよ!」みたいなタイプで。梶原がどっちかっていうとおとなしいほうなんで。だから最初の設定と大きくズレてしまって、コンビで活動するってむずいんですよね。漫才するにしてもちょっとむずい感じになってきてるんで。ここをなんとかクリアしなきゃいけないんでしょうけど。……どうしたらいいんだろうなあ?

キングコングのプロデュースに悩む

──いろんな戦略を立てられるようになってきている西野さんですけど、そこには悩みがある。

西野 やっぱりヘタですね、僕。キングコングのプロデュース。

──これだけプロデュース論みたいなことを語ってる人が。

西野 これも僕は失敗だなと思ったんですけど、最初は梶原に「とにかくツッコむな」って言ったんですよ。テレビに出たときにツッコんだらその瞬間はパーンと笑いを取るけど、ツッコめばツッコむほど常識人になってしまうし、もっと上手にツッコめる人はたくさんいらっしゃるから、そこと勝負しなきゃいけないってなったとき、長い目で見たら仕事がなくなるから、とにかくツッコむなって言ったんです。でも3年目、4年目ぐらいからテレビに出ると「これ、おかしいじゃないですか!」とか、梶原はすげえツッコむんですよね。それがぜんぜん直らなくて。たぶん梶原の使い方ってむずいと思うんですよ。むっちゃボケる人でもないし、ツッコミの上手な人はほかにいるし。でも、矯正するのは絶対違うなと思うんですよ。「ツッコむな」って言っても、それが性格なんだから、あれはあれで活かす方向で考えなくちゃいけないんですよね。……なんかないっすか?

──ダハハハハ! なんで丸投げになってるんですか!

西野 思いつかないんですよね。やっぱり人を動かすって無理っすね。ちゃんと自分で見つけてもらわないと難しいです。だから一応、食いっぱぐれないようにだけはしておいて、あとはなんか見つけてくれへんかなってちょっと期待しちゃってるんですけど。でも、言われます、コンビでなんかやりたいみたいなことは。

──こういう発言も西野さんはいちいち正直でいいと思いますよ。

西野 ハハハハハハハハ! そうですか(笑)。

──ボクと西野さんの数少ない共通点は「嘘をつかない」ってところだと思うんですよ。

西野 ああ、嘘つかない。でも、むずいんですよね。梶原と半年にいっぺんぐらい飲みに行くんですけど、けっこうその話になるんです。「どうする?」みたいな。どうにかしないとなと思うんですけど。でも、ふたりで……こうやってきれいなこと言ってるの気持ち悪いですけど、でもふたりで漫才してるときが楽しいんですよね。あれがうまいこと続くといいんですけど。

西野亮廣は金儲けはしてない?ズルくない?

──西野さんにモヤモヤするポイントとして、最近お金の話がやたら多いっていうのもあるんですけど、西野さんがズルいのは、本なりブログなりをちゃんと読むとお金を儲けしてるわけじゃない感をちゃんと出してることなんですよ。ちゃんと寄付してたりとか。

西野 ホントに僕、お金儲けはしてないんですよ!!

──ズルいなー!

西野 いや、ズルくない!

──稼ぐけどいい方向に遣う、と。

西野 そうですいいことに、遣ってます。一応お金は稼ぎますけどちゃんと遣います。自分の懐に入れてキャバクラに行ったりだとか、そういう遣い方はしてないです。なんかおもしろいことに遣うっていうふうにはしてますね。

──そこがズルいんですよ。「あの野郎、金を稼ぎやがって!」って怒ってるような人を全部罠にハメているように見えて。

西野 してないしてない(笑)。でも、おもしろいことに遣いたいなっていうのはありますね。お金の方もずいぶん考えました。来年からは秋元康さんに通帳公開しろって言われてて。通帳を公開したらどうなるんだろうなあ。

──どのレベルまで公開していいのかってことですよね、営業ギャラとかも透明化していくのかっていう。出版だけの通帳を作るんだったらまだできるかもしれないけど。

西野 はい。でも、通帳を公開して、なんなら自分のお給料とか本の印税とか集まったお金の遣い道をみんなで決めたら、僕の活動がみんなの自分ごとになっておもしろいんじゃないかと思ったんですよ、政治みたいな感じで。こいつを応援したら自分たちの遣えるお金が増えるみたいな。それ、1回試してみたいんですよね。

──そういうことに心を動かされるタイプですよね。

西野 実験は好きです。これやったらどうなるんだろうとか、「ひな壇に出ない」って言ったらどうなるんだろうとか、そういうの試すのは非常に好きです。

好き勝手にやりつつも吉本との関係は良好?

──すごいと思ったのは、これだけ好き勝手やって、何か言われたわけでもないのにちゃんと吉本にお金を入れてるっていうことなんですよ。

西野 そうです。ちゃんとしてるんですよ、意外と。NSCがなかったら僕は梶原と会ってないし、僕が入る前の吉本のおかげで劇場があって、それがなかったら始めてないなと思ったら、ちゃんと吉本にはお金入れようって。そこはちゃんと感謝してるんですよね。

──素朴な疑問で、それこそダイノジの大谷(ノブ彦)さんとかウーマンラッシュアワーの村本(大輔)さんが個人でやった仕事の分、吉本にお金を入れてるのかって気になるんですよ。

西野 ああ、あれは入れてないでしょうね。大谷さんは入れてないです。僕がクラウドファンディングで集まりすぎたぶんは、なんらかのかたちで吉本に入れてますね。直接お金を渡すと具合が悪いので、たとえば吉本東京本社の中庭に毎年クリスマスツリーを立ててるんですけど、あれを今年は僕が立てるっていう、そういう費用を出したり。それも100万円、200万円の話なんですけど。お金を渡しちゃうのはおもしろくないから、吉本が本来使うはずだったところを自分が払うってうふうに一応してますね。

──ホント、そういうことろがズルいんですよ。

西野 いやいやズルくないズルくない(笑)。

──嫌われキャラなのにそういうところはちゃんとしてて、大人に嫌われないタイプなんですよ。

西野 ああ、大人には嫌われないかもしれないです。オヤジ転がしです、非常に。

──タモリさんから(笑福亭)鶴瓶さんから、芸能界の大物も転がして。

西野 そうなんですよね。とにかく大谷さんはちゃんと懐に入れてるけど俺は入れてない(笑)。大谷さんが吉本に入れてるとは思えないし、大谷さんはそうであってほしいですよね。

──その期待は裏切らないでほしい(笑)。

西野 そこはちゃんとやってもらわないと!

──西野さんはいけ好かないけど、やっぱりどこかいい人なんでしょうね。

西野 ホントにお金に興味ないんですよ。制作にはすごく興味あるし、映画を作るのに10億かかるならその10億は欲しいんですけど、貯金しときたいとか外車に乗りたいとかは……20代前半はちょっとありましたけど、ホントにそういうのはなくなりましたね。

──これだけ稼いだみたいな実績がほしいだけなんですよね。

西野 ああ、そうですそうです。「ね、これできるでしょ?」って証明できたら、あとはいらないですね。……ホント、大谷さんのDJイベントってどうなってるんだろう? けっこう公に言ってますもんね。

──最初は吉本に内緒でやってたんですけど、公認になってからはどうなってるのかが気になって。

西野 絶対に入れてないと思うわ。

──村本さんが突然ひとりでイベントやったりしてるのとかも気になるんですけど、入れなくてもいいわけですよね。

西野 入れなくていいんです。うまいことつき合ってるとホントにいい事務所ですね。ほかの事務所だったらたぶん会社のストップがかかるわけですけど。

──吉本は勝手にやっていい。

西野 事後報告。僕が会社を作ったときも、「作った」って事後報告で。

──ほかの事務所だったら、勝手に会社を作るだけでもアウトじゃないですか。

西野 そうなんですよ、だからいい会社なんです。

(取材・文/吉田豪)

プロフィール

西野さん3

芸人

西野亮廣

西野亮廣(にしのあきひろ):1980年、兵庫県出身。1999年に梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成し、『はねるのトびら』などに出演。独演会の開催、イベントのプロデュース、本の執筆など、個人としての活動も盛んに行なっている。2016年に発表した絵本『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)は、ネット上での無料公開などの手法が賛否両論を呼びつつ、大ヒットを記録。最新刊『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』(幻冬舎)では、そうした西野自身の体験から導き出された成功するためのノウハウが明かされている。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズなどインタビュー集を多数手がけ、コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題に。新刊『吉田豪の“最狂”全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』が発売中。

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