副業・兼業は認めるべきか…に見る働き方改革のゆくえ|やまもといちろうコラム

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Photo by PHOTO AC(写真はイメージです)
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 目下、政府が推し進める「働き方改革」なる話の流れ上、どうしても既存の企業に勤める個人がその企業以外に仕事を持つ副業を認めるかどうかのつばぜり合いになってしまうのは仕方のないことなのでしょうか。

働き方改革:兼業・副業の指針作成へ…政府 - 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20170214/k00/00m/010/109000c

政府は副業推進。それでも広がらない理由 副業で過労死したら、どうなるのか:PRESIDENT Online - プレジデント http://president.jp/articles/-/22489

 顧客の高度な情報を扱う職種であるほど、副業はおろか証券口座の開設自体が認められないのは国際的にも普通のことですし、一方で副業が本当に禁じられてしまうとうっかり父親が運営していたアパートの賃貸収入を管理する仕事も副業禁止の規則に抵触するという事態になり奥さんが名ばかりの代表取締役になって余計に税金を払わなければならなくなる事例も多々あります。

 働き方改革では副業を推奨すると言いつつも、副業を社の規則として認めるかどうかは各企業の判断ということになりそうで、まあそれは当たり前なのですが、政府が就業時間以外の副業に前のめりなのも経済成長や労働力不足を補うため、あるいは世帯所得が引き上げられるのではないかという期待感があるからだと明言しておるわけですね。

 ただ、個人的に思うのはいまの日本は労働力不足は少子高齢化に伴う勤労人口の減少局面でも経済規模を維持しようと無理をしているからであって、また証券や不動産など金融界隈は完全にバブル状態になりつつあるため、いかにも副業が世間的に広く求められているかのような錯覚に陥るからなんじゃないかとすら思います。というのも、私が社会に出た1990年代は失われた十年と呼ばれる長い経済低迷の時期でありまして、そのころは非常に不景気であったがゆえに止むにやまれず副業に手を出す人が少なからずいました。

 それも、一般職で何とか就職した女性社員が薄給で暮らしていくことができず仕方なく夜のスナックなどでバイトをしているケースや、大学などの勤務医ではとても暮らしていけないので平日は当直も含めたハードな勤務をこなしたうえで土曜日曜は一般開業のクリニックで高額のアルバイトをして何とか生活を維持するというケースばかりが身の回りにありました。何というか、頑張って生きていくために仕方なくやるのが副業であって、いまのようにあっけらかんと副業OKっていいじゃんみたいな話とは縁遠かった記憶が蘇ります。

 もちろん、いまでも医師が置かれている過酷な臨床の現場は引き続き疲弊を強いる状況にありますし、私の界隈でも腕のある人がサンデープログラミングで稼ぐ仕組みはいまでも変わっていません。ようやく政府や大企業がお墨付きを与える副業の是非が論じられ始めましたが、以前から副業は潜っていて、残業と並んで働く人がお金を得るオプションであり続けました。

 しかしながら、日本の経済団体の総本山である経団連は、会長自らが副業は推奨しないと言い切り、これはこれで物議を醸しております。一義的には古い体質を引きずる日本の大企業が経済改革の流れに逆行するようなことを平気で言う「抵抗勢力」のようにも感じられる発言ですので、そりゃ反発も生むだろうなあと思います。

「「副業・兼業は推奨できない」経団連会長 | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20171218/k10011262931000.html

 労働者の側からすれば、企業との雇用契約の中で何時から何時までが拘束時間と決まっているならば、それ以外の時間に働いたところで本来は問題ないだろうと感じるのが普通です。いまやネットで証券取引や不動産管理をして投資業務に身を投じればそれは立派な収入源となり副業の最たるものですし、勤務時間以外は寝ていようが働こうが本人の自由だろうというのもまた動かぬ権利であることは言うまでもありません。

 一方で、雇用している企業側からすれば、副業で例えば企業が抱える顧客や技術を勝手に第三者のために対価をもらって社員が働くというのはクライアントの情報を守れないという一点において大きなリスクを抱え込むことになります。先にも述べた証券取引の禁止も含めた個人的な営利活動の制限は、顧客の情報を扱う職種であれば概ね善良管理義務のなかで企業に義務付けられている以上、コンプライアンスとして競合他社への仕事をする可能性が否定できない副業を認めるわけにもいかない、というのは経団連の立場としては言わざるを得ないことだとも感じます。

 実際、例えば私が投資家として証券会社に特別口座を持つにあたって担当社員が別の名刺を出してきて「実は僕、証券以外でもこういう活動をしているんです」と営業されることは少なくない数経験しますが、顔では笑うものの、やはり気持ちの良いものではありません。職業倫理上いかんだろうというだけでなく、本来であればその証券会社と付き合っているつもりだったのに別のところで自分の情報が使われてしまうのではないかと思うと、これ以上この担当者とどこまで話をしていいのか分からなくなるというのが正直なところです。

 突き詰めれば、副業を本格的にやる被雇用者というのは、たいして顧客の情報も持っていない、自分の能力や財産ではまだ勝負をかけることができない発展途上の若者たちがメインの話であって、そうでなければせいぜいマンション投資やインターネットで完結するような時間のかからない仕事に限定されるであろうと思います。それも、マイナンバーですべての所得が補足できるようになることを前提に、企業だけがその人の所得を捕捉しているわけではないという世の中の流れに対応してきているだけかもしれません。

 働き方改革は、ライフワークバランスも含めて大事な課題であり、世帯所得が上がらなければ子供を儲けることができない夫婦が煮詰まるだけだと考えれば、政府としても積極的に取り組まなければならない分野であることは言うまでもありません。そのうえで、いまのように一定の経済政策に効果が出て有効求人倍率が1倍以上に高まるような状況を大前提として労働改革を行うのは「万一、景気が悪くなったときに大変なことになるんじゃないか?」というそこはかとない不安も覚えます。

 そうであるならば、正社員ような正規雇用と非正規雇用のギャップを埋めたり、解雇しやすい代わりにブラック企業には大きな制裁が加えられるような仕組みにしたり、全国一斉の就職活動を大学生や採用窓口に強いるような採用慣行を見直したり、いろんなものを同時並行で進めていく必要が出てきてしまいます。もちろん、これらの問題は誰もが指摘し、実感していることなのに、先に手を付けるのが副業解禁であるべきかというところも含めて、いろいろとウォッチしていくべき分野なのだろうな、と思います。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

文・やまもといちろう

※慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数。

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