東京都が制定急ぐ受動喫煙防止条例に杉並区長が異論 「一律規制の方針が果たして賢いやり方なのか」

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東京都が制定急ぐ受動喫煙防止条例に杉並区長が異論 「一律規制の方針が果たして賢いやり方なのか」
東京都が制定急ぐ受動喫煙防止条例に杉並区長が異論 「一律規制の方針が果たして賢いやり方なのか」

意図せず他人のタバコの煙を吸わされる“望まない受動喫煙”対策は、厚生労働省の示した罰則付きの健康増進法改正法案が3月9日に閣議決定され、いよいよ国レベルで規制強化の動きが慌ただしくなってきた。学校や病院、客席面積が100平方メートル以上の飲食店などを屋内禁煙に定めたものだ。違反者個人には最大で30万円、事業者には最大で50万円の過料が科される。

そんな中、4月20日に東京都も独自の受動喫煙防止条例の骨子案を出したことで、中身の整合性やダブル規制の是非をめぐって混乱が広がっている。何よりも小池百合子都知事が連携を呼びかける23区の首長からも疑問の声が挙がり、“オール東京”の足並みは揃っているとは言い難い。

「私は目標として受動喫煙の防止を徹底させることには大賛成。ただ、その実行にあたっては、単に施設のカテゴリー別に、『ここは禁煙』『ここは喫煙室設置は可』と画一的に規制するのはどうしても無理があると思います。

東京でも大手町と小笠原村の施設とでは立地環境が違いますし、喫煙室を設置するにしてもデパート、大きな居酒屋、国会などには認められて、なぜ区役所のような行政機関は認められないのか。合理性のある説明はまったくありませんでした」

こう異を唱えたのは、杉並区長の田中良氏。5月15日、小池都知事が都条例の骨子案を23区長に説明した「特別区長会総会」。詳しいやり取りはオープンにされていないが、関係者によると、田中区長を含め5、6人の区長が都の方針に注文をつけたという。

小池都知事は区長会で様々な意見が出されたことを認めながらも、「(受動喫煙防止対策を)一歩でも前に進めさせていかなければならないことは、オリンピック招致のころから分かっていたこと」と話し、最後のチャンスという表現で条例制定への意欲を滲ませた。

●東京都のやり方はワイズスペンディングといえるのか

じつは小池都知事の“スタンドプレー”は今回が初めてではない。

昨年9月には、「国がやらないなら都は独自にやる」と、民業圧迫の理由から国でも二転三転していた飲食店の分煙条件について、「店舗面積30平方メートルを超える飲食店は罰則付きで原則全面禁煙にする」などとぶち上げ、国より厳しい条例案を強引に都議会で通そうとした。

その際も、都にとって欠かせない存在であるはずの23区とは何の事前相談や協議をせず、多くの区・市議会から〈各自治体と十分協議を行うこと〉〈各種業界や都民の意見も十分踏まえて慎重な検討を行うこと〉などの意見書が出されていた。

今年2月1日に都庁で開かれた小池都知事と23区長の意見交換会では、

「路上喫煙のパトロール、人件費だけで年間1億円ぐらいかかっている。このうえ屋内も禁煙になると大変な負担、労務が出てくるので財政措置も含めて検討してほしい」(吉住健一・新宿区長)

などの要望も。前出の田中・杉並区長も、受動喫煙防止を徹底していくためには一定の喫煙場所の確保は欠かせない課題──としたうえで、「こういうやり方が果たして賢いのか」と小池知事に詰め寄ったという。しかし、「発言時間はたった2分しか割り当てられていなかった」(田中氏)と憤りを隠せない様子だった。

そこで、2月中旬、杉並区役所で改めて田中氏にインタビューを行ったところ、こう持論を展開した。

「小池さんはとにかく屋内を一律禁煙にして、喫煙者は外に締め出せばいいという考え方ですが、かえって屋外のほうが受動喫煙のリスクを高めるエリアもあります。

例えば、人の行き来が多い割に喫煙スペースが狭かったり確保できなかったりする駅前エリアは、駅構内など鉄道事業者の所有地を一部提供してもらえるよう、都が協力義務を課すなどわれわれ基礎自治体の個別計画を支援してもらえると助かります。こうした狭いエリアでは、屋外よりむしろ屋内の喫煙所を設けたほうが、受動喫煙も防げますしね。

杉並区役所内にも数か所の喫煙室がありますが、こちらは都条例が施行されれば行政機関の『敷地内禁煙(屋外喫煙所設置は可)』に該当し、喫煙室はすべて撤去しなければなりません。でも、屋外に移すにも保育園や中学校などが隣接していますし、そもそも役所が地下鉄駅の真上にあって日常的に大勢の人が往来しています。

いま、わざわざお金をかけて喫煙室を撤去し、外にタバコの煙を追い出すことになれば、苦情がたくさんくることは火を見るより明らか。われわれの自助努力で何も問題がなかったところに新たな問題を惹起させるやり方が、果たして小池都知事がよく言う“ワイズスペンディング(賢い支出)”といえるのか。私は大変疑問に思っています」

すでに各区で定めた路上喫煙ルールや自助努力で行なってきた屋内施設の分煙策などを尊重し、広域自治体の都はむしろ基礎自治体を支援すべき立場だと訴えているのだ。

●自助努力で歩きたばこ9割減の杉並区

事実、杉並区では2004年に施行された安全美化条例により、区内全域の歩きたばこと吸い殻のポイ捨て禁止の徹底を目指してきた。JR阿佐ヶ谷駅や高円寺駅など主要6駅の周辺は「路上禁煙地区」に指定し、巡回パトロールによる違反者への指導を行っている。

その代わり、JRの3駅には南北の出口に1か所ずつ計6か所の喫煙所を設置しており、「条例制定後の13年間で歩きたばこは9割減った」(杉並区環境部の担当者)という。

だが、近年の受動喫煙問題の高まりもあり、分煙環境の整備が難しくなっているのは確かだ。

「駅周辺は多くの人が行き交うため、喫煙所を植栽やパーテーションで囲う改修をするなど、できるだけ非喫煙者に配慮しているのですが、たばこを吸わない人は煙に敏感で、苦情に繋がってしまいます。荻窪駅の北口などはバスの乗降口に近いため、特に苦情が多い場所です。

もちろん、駅前広場が広ければ喫煙所を端に寄せますし、近所に移設できるならばそうしますが、現在そのようなスペースはありません。かといって、喫煙所自体を撤去すれば間違いなく歩きたばこやポイ捨ては増えます。

屋外でも分煙の考え方を浸透させるためには、禁止エリアを設けるだけでなく、たばこを吸う人のためのスペースを作ることがセットなんです──と区民の皆さんには説明しています」(前出・環境部担当者)

田中区長もこうした個別事案には頭を悩ませているが、区民と身近な関係にある自治体だからこそ、それぞれの状況に応じた合理的な受動喫煙防止策が取れるはずだと考えている。

●「望まない受動喫煙」を防ぐ立法範囲とは

東京都はその後、飲食業界などからの強い反発や、パブリックコメント(意見募集)で反対意見が多数を占めたこともあり、より実効性のある受動喫煙防止対策とするためにも、「国の考え方と整合を図る」「区市町村との連携・協力が不可欠」(小池知事のコメント)と一度は条例案を取り下げたものの、結局、新たな骨子案で再び条例制定を急いでいる。

いま東京で出されている骨子案は、教育機関や行政機関、病院、児童福祉施設などを「敷地内禁煙」の対象に挙げるほか、ホテルや鉄道、事務所など多数が利用する施設等は「原則屋内禁煙」で喫煙専用室内のみ喫煙可とする方向だ。懸案となっている飲食店については、従業員を使用している飲食店は、店舗面積にかかわらず「原則屋内禁煙」とする厳しい内容となっている。

かつて神奈川県の受動喫煙防止条例の制定等に携わった東海大学名誉教授の玉巻弘光氏(行政法)は、東京都のこうした方針に疑問を呈する。

「受動喫煙をなくすことと、望まない受動喫煙を防ぐこととでは喫煙規制が必要となる場所の範囲が異なりますし、タバコ煙が人の健康に悪影響を生ずることが明らかであっても、法規制によってそれらを一切排除しなければならないかというと、そうではありません。法によって保護される自由、喫煙者が他人を害することなしに喫煙する自由も尊重されなければなりません。その区別を無視して議論をしているのが現状です。

国の改正法案も都条例案も立法目的が『望まない受動喫煙』であるとしている以上、健康への違法な侵害を排除するに足りる規制に止めるべきであって、その限度を超える規制は原則として不必要・不適切といえます。

そういった意味では、都が原則屋内禁煙となる飲食店かどうかを『従業員』の有無によって区別しているのは理解に苦しみます。従業員の定義が明らかになっていないのではっきりしたことは言えませんが、経営者一人で営業している飲食店はほとんど存在していないのではないでしょうか。経営者の家族であっても、共同経営者でなければ従業員です。

さらに、経営者、従業員、顧客の全員が愛煙家である飲食店を“望まない受動喫煙防止”を根拠に禁煙にできるのでしょうか。そこには望まない受動喫煙を強いられる者は存在せず、こうした喫煙規制方法は、明らかに立法目的達成に必要な範囲を逸脱していると言えます」

昨年12月、杉並区の田中区長は無作為抽出で選んだ20代~80代の9人の区民らと、たばこのルールをテーマとした対話集会を開いたという。

〈飲食店の前に禁煙・分煙・喫煙可の表示をはっきりすれば受動喫煙はある程度カットできる〉

〈路上喫煙だと絶対に臭ってくるので、ちゃんと施設の中に場所をつくれば、吸っている人も吸わない人も快適な気分で過ごせる〉

〈たばこを吸う人、吸わない人のルールというものがあると思う〉

といった意見が飛び交う中、田中区長は「住民も一律規制ではなく分煙の徹底を求めている」と感じたという。いくら厳しい喫煙規制を敷いても、それをきちんと管理運用できる土壌や環境が整っていなければ、無用の長物となってしまうのではないか。

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