江戸時代のツケ事情。掛け売りが一般的なお江戸の盆暮れは借金の取り立てが大忙し!
歌川広重「名所江戸百景」下谷廣小路
現在でもツケや分割払いなど便利な支払い方法がありますが、江戸時代は通常の物品の販売方法として「掛け売り」が一般的でした。もちろん身元がはっきりしており信用がおける相手であることが前提ですが、購入者はその場で品物を受け取り、代金はあとでまとめて支払う、ということが多かったのです。
店側は購入者と代金を台帳に記録しておき、決まった日にまとめて集金するという方法が取られていました。
現在では相当なじみの店でないかぎりなかなかあり得ない支払い方法ですよね。
掛け取りの集金はお盆と大晦日の年2回この「掛け売り」の代金を回収すること・その集金人を「掛け取り」と呼びますが、集金されるのは決まっていて、だいたいお盆と大晦日の年2回でした。一般的に知られるのは大晦日のほう。一年の締めくくりなので、集金する側も命がけです。
なにせたまったツケを回収しないとお金は入らないわけですから、店の運営にも関わる大問題です。
しかも、掛け取りでその年の間に集金できなければ、借金であるツケは半年先まで繰り越しできるというシステム。お盆まで引き延ばしにされては、店側からしたらたまったものではありません。
一方、ツケで購入した側も大変。もともと信用のある相手なので身元は確かなはずですが、その年の収入はいろんなことに左右されるでしょう。たとえば大工などは怪我や病気、天気にも左右される仕事です。運悪く収入が少ない年だってあるわけで、そういうときはたまったツケなど支払っている場合ではないのです。
そういうわけで、大晦日には掛け取りの攻防が繰り広げられていたというわけです。
落語や季語になるほどよくある江戸の風景だったこの掛け取りの貸した側・借りた側の攻防は江戸の大晦日の風物詩であり、冬の季語となっているほか、「掛取万歳」という落語にもなっています。
三代 歌川豊国「冬の宿 嘉例のすゝはき」
「大晦日箱提灯は怖くなし」という川柳がありますが、箱提灯とは武士が夜間外出時に携帯している提灯のこと。大晦日ばかりはこれを持っている怖い武士も怖くないよ、という川柳です。
借金を抱える人にとって、刀を持った武士よりも掛け取りのほうがよっぽど怖い存在だったことがよくわかりますね。
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