本好きリビドー(220) (1/2ページ)

週刊実話

快楽の1冊
『モヤモヤするあの人―常識と非常識のあいだ―』 宮崎智之 幻冬舎文庫 580円(本体価格)

★価値観の押し付けと承認欲求の時代
 先般、山口県で行方不明になった2歳男児を無事救出したボランティア、尾畠春夫氏のつもりに扮装した姿をSNSに投稿した芸人が、ネット上で袋叩きに遭い“炎上”した一件は記憶に新しいところ。

 その芸人とは全く面識もなく、ツイッターもフェイスブックもインスタグラムもライン・コサイン・タンジェントも一切やらぬ筆者だが、正直、傍で聞いているだけで息苦しい。そりゃあ個人的な感想としてはあまり似ていると思えないし面白いとも感じないが、だからといって“人としてのセンスを疑う”云々だの、ひたすら“不謹慎”の錦の御旗のもとに人間性まで全否定する必要があるのだろうか。やれやれ流行ものに早速まあ食いついちゃって、仕様がないダボハゼだね、こいつぁ…くらいで苦く笑って済ませられないものか。何も尾畠氏を侮辱したり、誹謗中傷するような行為に及んだ訳でもあるまいに。

 つくづく(筆者も含め)あらゆる素人が秒速で、森羅万象につきモノが言える時代になったと痛感するばかり。すべての事象に善悪・可不可・賛否が踏み絵のごとく迫り迫られ、一様に口ぶりが(嫌な言葉でなるべく使いたくはないが)「上から目線」の評論家のよう。昔、三波春夫は“お客様は神様です”のセリフを残したが、今や“お客様は何様ですか?”と伏し目がちに小声で尋ねたくなるのが偽らざる心境とはいえ、その世間と面会謝絶になるまでは行けぬ読者にとって、本書は正しく精神の酸素吸入器の役割を果たしてくれるだろう。

 新幹線で前席に座った客が、シートを倒すあいさつをしてきただけで仕事の邪魔するクソ野郎呼ばわりする人物のツイートに、何千人もが「いいね!」を押すご時世。心して生きよう。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 テレビでもお馴染みの脳科学者・中野信子さんが、「人はなぜ不倫するのか?」、さらに「不倫する人を、どうして他人は、あれだけ強硬にバッシングするのか?」を、科学的に立証しようという意欲的かつ興味深い本、それが『不倫』(文藝春秋/830円+税)。

「本好きリビドー(220)」のページです。デイリーニュースオンラインは、カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧