葬儀を背景にしている小説「葬式の名人」と「婚礼、葬礼、その他」の比較 (1/4ページ)

心に残る家族葬

葬儀を背景にしている小説「葬式の名人」と「婚礼、葬礼、その他」の比較

1968年にノーベル文学賞を受賞した日本を代表する文豪、川端康成は1922年に短編小説「葬式の名人」を発表した。また、2009年に芥川賞を受賞した人気作家、津村記久子は2008年に「婚礼、葬礼、その他」という小説を発表している。共に葬儀が物語の背景となっている小説だが、それぞれの小説が発表される間には86年もの歳月が流れており、作者の年齢差は79歳となる。異なる川端康成の「葬式の名人」時代に描かれた葬儀にまつわる二つの小説の共通点、相違点、描こうとしたものを読み解いてみよう。

■川端康成の「葬式の名人」

著者の川端康成は1899(明治32)年に大阪で生まれた。彼は物心つく前に両親と死別し、祖父母に育てられている。その祖父母も、別の親戚の元で育てられていた姉も少年期に亡くしている。15歳で全くの天涯孤独となった川端の実体験を元に書かれたと言われるのが「葬式の名人」だ。

物語は大学生の主人公「私」が遠縁の親戚の葬儀に出席するところから始まる。「私」の葬儀での振舞いをみた従兄は「あんた、葬式の名人やさかい」と冗談を言う。その言葉に戸惑った「私」は、葬儀の作法に長けてしまうほど死別続きであった少年時代を回想する。

小説の中で印象的なのは最後の肉親である祖父を亡くした時の「私」の記憶だ。「私」は病み衰えていく祖父の介護をしながら嫌悪と哀れみを感じていた。また葬儀から火葬までの間に二度も大量の鼻血をだしたが、弱さを人に見せまいと誰にもそれを悟られないよう隠している。

22歳になった「私」は顔も知らない人の葬儀であっても、葬儀という場の情景に刺激されて今は亡き親しい人との別れを思い出す。だから自分は他の故人と縁遠い人々より敬虔な気持ちでそこにいるだろうと思っている。「私」は見知らぬ人の葬儀でその場にふさわしい表情ができるが、それは決して偽りの表情ではなく、自分の背負っている寂しさが葬儀という場をかりて出てきてしまうのだと考える。そして自ら自分は「葬式の名人」だと冗談を言うに至る。

■津村記久子の「婚礼、葬礼、その他」

津村記久子は1978年(昭和53年)生まれの現代の人気作家のひとりである。

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