五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(9)「人間の身体もエサ」輪廻転生食物連鎖 (2/3ページ)

アサ芸プラス

後の人から褒められるような死に方をする必要もないと思いますよ。

椎名 そうですね。ぼくはお葬式に出たくないですね。だから自分のときもそうだといいなと思ってます。

五木 昔、旧満州の奉天とかハルビンでアヘン窟を見たことがあるんだけども、高級なアヘン窟はものすごく贅沢です。アヘンを吸う手続きというのはけっこう面倒くさいんだ。パイプがあってその煙をくゆらせて、横になって吸うわけだけど。うんとお金持ちの老人は、アヘン窟に行って羽化登仙の陶酔境の中で、食欲がなくなり、枯れるように死んでいく。それから貧しい人たちには、ほんとに最低のアヘン窟やモルヒネの店がある。そこでごろ寝しながら陶酔しながら死んでいく。アヘン窟は、あれは人間が去っていくときの、ひとつの中国五千年の智恵かもしれないと思いますね。死ぬときぐらい気持ちよく死にたいですから。

──尊厳死などは、どういうふうにお考えですか?

五木 生命倫理とかいろんな意見があるのはわかるけども、もうこの辺でいいと思った人は、自ら退場してもいいと思います。1月に西部邁さんの自死があったけど、もっと大きな論議の対象になるかと思っていたんですが、案外さっとパスしてしまったのは納得がいかない。

椎名 自殺も自分の意思で選べる死に方ですから悪くはないと思いますけどね。象の死に方じゃないけど、人知れずどこかにフェードアウトしちゃうというのは憧れますね。

五木 それは悪くないな。ぼくなんかシベリアの雪のなかで‥‥なんて考える。昔から旅で死ぬのは、文人の理想なんですよね。トルストイもそうだし。

五木寛之(いつき・ひろゆき):1932(昭和7)年、福岡県生まれ。作家。北朝鮮からの引き揚げを体験。早稲田大学露文科中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞。76年『青春の門 筑豊編』ほかで吉川英治文学賞。

「五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(9)「人間の身体もエサ」輪廻転生食物連鎖」のページです。デイリーニュースオンラインは、週刊アサヒ芸能 2018年 12/27号椎名誠五木寛之作家カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
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