若者の血を輸血し老化を防ぐ治療法「アンブロシア」は既に行われていた。本当に有効なのか?
輸血は、命を救うためにずっと使われてきた治療方法だ。だが現代では、この輸血という医療処置をアンチエイジングに利用しようとする人がいる。
若者の血を輸血することによって、老化を防ごうというのだ。
この治療法は、食べると不老不死になると言われている、ギリシャの神々の食物の名をとって、アンブロージアと呼ばれている。
・たった2時間若者の血液を輸血するだけで若返る?
アンブロシア・メディカルの創設者、ジェシー・カルマジンによると、たった2時間、16歳から25歳の若者の血漿2リットルを体内に取り込めば、まさに奇跡と言えるほどの劇的な結果が得られるという。
彼はかつてこの処置を、"内側からの美容整形手術"と呼んでいた。
もちろん、この輸血は不死を保証するものではないが、極めてそれに近く、一回の輸血でも、見た目、記憶力、体力などの面で劇的な改善が見られるという。
・ただしエビデンスは不明瞭
アンブロシア・メディカルが行っていたこの若返りの臨床研究は、公式には2018年1月に終了したというが、良い結果が得られたと自慢しているにもかかわらず、その結果はまだ公表していない。
それは、多くの医療専門家たちの目には、この治療法は問題が多いと議論されているがせいだ。その効果について、誰も確固たる証拠を提供できていないのだ。
・若者の血液を飲むと老化防止になるという研究結果は本当なのか? : カラパイア
・動物実験からヒントを得る
34歳のカラマジンは、スタンフォード医学校を卒業した後、2016年にアンブロシア・メディカルを創設した。
若いネズミと年老いたネズミを外科的に結合させ、両者の血液が混合するとどうなるか、その影響を観察したいくつかの研究論文を読んで、彼は若者の血を高齢者に輸血すれば、老化をストップ、少なくとも遅らせることができるのではないかと考えた。
ネズミを使った実験では、年老いたネズミが一時的に強くなり、健康状態もわずかだが改善したのだという。カラマジンは、同じことが人間にも応用できると自信をもった。
2016年夏、カラマジンは8000ドル以上の参加費を負担した35人の被験者を対象に、臨床試験を行うと発表した。
この実験で、被験者たちに若者の血漿2リットルを注射して、その経過をみた。信じられないことだが、この実験に際して、食品医薬品局(FDA)の認可を受ける必要はなかったという。
というのは、これは定着した医療処置として長いこと行われている単なる輸血技術だからだ。ただひとつ違うのは、その目的だけだ。
アンブロシア・メデイカルの輸血は、危機的な体の状態を治療するためのものではなく、アンチエイジング治療としての輸血なのだ。
・すでに患者に輸血を行っている
「全米、ヨーロッパ、オーストラリアなどから、たくさんの人が、この治療を受けにやってくる」カラマジンは語るが、若者の大量の血を喜んで提供してくれる血液バンクを探すのは難しい。
血液バンクは年齢で血液を分けていないし、若返り目的で血を売ることはないからだ。しかし、カラマジンはなんとか協力者を探し出し、これまで150件以上の輸血を行ったという。
患者の中には、リピーターもいるらしい。臨床研究は去年の1月に終わっているはずだが、その結果はまだ公表されていない。
カラマジンは、結果を早く世界と共有したいので、最終的には論文審査のある専門誌に発表するつもりだと言っているが、いまだ実現していない。
・診療所はまだ開設されず
アンブロシアは、この2年以上、マスコミの注目を集めてきた。
去年の秋に出された最新の論文では、カラマジンはニューヨークに診療所を開いて、もっとたくさんの人たちにこの治療を体験してもらえるようにする予定だと発表したが、診療所はまだオープンしていない。
しかも、アンブロシア・メディカルは、サンフランシスコやタンパでは若い人の血を輸血しているわけではない。対象年齢制限は、35歳から30歳に引き下げられたが、1回の輸血料金は8000ドルから1万2000ドルに引き上げられている。
カラマジンは、自社が提供する若者の血の輸血について、だんだん慎重にものを言うようになったが、この治療は人々にとって真に最良な医療費の使い方で、特定の症状をもつ患者は、すぐにでもこの治療を受けるべきだと、相変わらず言い張っている。
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・専門家は警鐘を鳴らす
しかし、多くの専門家は、アンブロシアの効果について懐疑的で、潜在的に危険な影響をはらんでいると警告している。
「この治療が本当に有益かどうかについて、臨床的な証拠はなにもない。人々の信用や世間の異様な関心を悪用しているにすぎない」スタンフォード大学の神経科学者、トミー・ヴィース=コライは言う。
「輸血をすると、免疫反応が極めて強くなります。命にかかわる危機的状態のときにやむなく輸血する信頼できる医師なら、その危険性をよく理解しています」カリフォルニア大学バークリー校のマイケル・コンボイは、輸血の副作用についてこう語る。
「医療業界ではこれはよく知られています。だから、わたしたちはやたらと輸血したりはしないのです。輸血をした50%の患者が、重篤な副作用に陥っているのです。誰かの血を輸血してもらって命が助かったはいいが、それがあなたに合わなければ、たちまち免疫システムが働いて、強い拒否反応を起こすからです」
References:philadelphia / sciencemag / nationalpost/ written by konohazuku / edited by parumo