超話題“タブー上等”昼ドラ『やすらぎの刻~道』Pが語る現場裏話!【前編】
現在、最も注目のドラマといえば、『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)といっても過言ではないだろう。
月曜から金曜の昼12時30分から20分間放送されている同ドラマは、往年の大スターたちが暮らす老人ホームを舞台に、石坂浩二(78)、浅丘ルリ子(79)、加賀まりこ(75)、八千草薫(88)ら、昭和を代表する大スターが一挙出演し、話題となった『やすらぎの郷』(2017年)の続編だ。
さらに、本作は、石坂演じる主人公の脚本家・菊村栄による脚本「道」編が"脳内ドラマ"として、随時挿入されるという構成となっている。
「脚本家の倉本聰さんの台本は冴えに冴え、時にテレビ界のタブーにも踏み込む。視聴率の秘密を暴露し、劣化するバラエティ番組に“鉄拳制裁”を加え、大麻の話も出てくる。倉本聰台本でしか許されない攻めまくりのドラマになっています」(テレビ誌ライター)
そんな話題作の撮影現場での貴重な話を、中込卓也プロデューサー(55)が本誌独占で語ってくれた。
■日本芸能界の『アベンジャーズ』ですよ
――出演者の方は名優、大スターばかりですが、現場はどのような雰囲気なのでしょうか。
最初は、これだけの大スターが集まるので楽屋の並びとかポスターの名前の順番をどうしよう……なんて悩んでいたんですが、それを見ていた倉本先生は、全部そのまま台本の中に入れちゃったんです(笑)。結果的にこちらの悩みもすべて、出演者の方々に見せることになって助かりました。
みなさん、キャリアが50年とか60年ですから、それぞれに共演した経験があって、同窓会みたいなもんですよ。
最初は、そうやって再会を楽しむところから始まったんですが、今作ではその作品も2年以上続いていますから、「あら、元気?」「体の調子はどう?」といった会話を週に何度か、現場で交わして。お互いを励ましあっておられます。調子が悪い方がいらっしゃると、みんなで心配したりして。和気あいあいとしていて、みなさんが期待する「バチバチ」というのは一切ないですね。
――その大スターをまとめ上げる座長が石坂浩二さんですが、現場ではどのように振る舞われているのでしょうか。
石坂さんは、いつもすごい量の差し入れを持ってきてくれたり、手書きイラスト入りのスタッフTシャツを作ってくださるなど、ドラマを力強く引っ張ってくださっています。
石坂さんは、スタジオに入ると本番直前まで、ずっと誰かとおしゃべりされていますね。20歳くらいの若いスタッフとも分け隔てなく。博識な方ですから、ありとあらゆる話題で、話が尽きないんです。
――石坂浩二さんと元ご夫婦だった浅丘ルリ子さん、交際されていた加賀まりこさんとの共演も話題になりました。
第一作目の『やすらぎの郷』のときは、石坂さんと浅丘さん、加賀さんが何十年ぶりに共演したということで、話題にもなりましたが、前作からずっと共演していますから、風吹ジュンさんとか、他の役者さんとお話しされるのと同じ、「普通の仲の良い役者さん同士」ですね。
浅丘さんと、加賀さんはプライベートでも仲が良くて先日、お2人と食事に行かせていただきましたが、そこで話されているのはドラマのことでしたね。
お2人での長いシーンがあるときは、加賀さんが浅丘さんのお宅に行って稽古をするそうです。やはりフィルムで育った世代の役者さんだからでしょうか、NGを出してスタッフに迷惑をかけないように、しっかり準備をされるんですよね。本当のプロだと思います。
――NGは少ないんでしょうか。
みなさんもNGはほぼなし。まあ、この出演者の方々に何度も「もう1度お願いします」なんて言えませんが(笑)。
言いよどんだり、妙な間が空いても、それは日常の中では当たり前のことなので、極端に変な言い間違いとかでない限りは、大概OKにしています。ただ、アドリブはほぼありません。倉本先生の脚本通りですね。
――ご高齢の方が多い現場ですが、出演者の体調面にはどのように気をつけておられますか?
他のドラマに比べると朝はゆっくり始めますし、終わるのも夕方くらい。10時から18時まで。撮影には時間がかかってしまいますね。先日なんて、あまりに暑いんで、数日間、撮影を中止しました。暑くて撮影を中止することは、これまで日本のドラマではなかったと思いますね(笑)。やはり出演者のみなさんの体調面に気をつけながら撮っています。
――出演者のみなさんは、現場ではどのようなことをお話しになっているんでしょうか
「いかにこの仕事を楽しくやるか」というお気持ちで、現場に来て、この仕事を楽しんでくださっているかなと思います。みなさん、普通のドラマに出たら、名前は最後に載る、いわゆる“トメ”の方たちばかりなんですよ。1つのドラマに1人ですから、共演することはほとんどない。
その同世代の大スターがこれだけ集まって、一緒に芝居をするというのが、楽しいんだと思います。
――大御所が集結する、まるで日本の芸能界の『アベンジャーズ』ですね。
そうそう。まさに『アベンジャーズ』だと思います。
■現実とシンクロする倉本聰先生のシナリオ
――倉本聰先生のシナリオは、1年以上前に書かれていると思いますが、ドラマの中で芸能人の麻薬事件が起こったとき、現実でも似たような事件が起こったりして、そのタイムリーさに驚かされました。
倉本先生がホン(脚本)を書かれたのは1年以上前なので、紛れもない偶然なのですが、そういうことも含めて、それが大作家、巨匠と言われる由縁なのかなと思います。視聴者は勘違いして「時事ネタをぶっこんできた。攻めてるな」とSNSで書き込んだりされていますね(笑)。
――「攻めている」といえば、テレビ界への批判をバーンとぶつけたりされていて、倉本先生しかできないことだと思います。
前作の『やすらぎの郷』の企画書を先生から受け取ったときに「『やすらぎの郷』というのはテレビ界で活躍した人だけが入れる、ただし、テレビ局の人間だけは絶対に入れない」と、1枚目に書いてあったんですね。
おそらく、この作品は倉本聰先生の、今のテレビドラマやテレビ界に対する“挑戦状”なんだと思います。先生ご自身も、これまでの名誉や実績を全部賭けて勝負をするつもりなんだというのが分かったので、受け取った時に「これを自分がやるのか」と……。同時に、先生に「お前、それをどこまで画にできるんだ?」と言われた気がして。
ですので、この作品に関しては、タブーがないんです。たとえば「テレビの視聴率に対するタブー」について、別に言ってはいけないということではなくても、テレビ業界では誰もがあえて言わなかったことを言っています。
普通の作家が書いたことなら、放送までいかないでしょう。「ふざけるな」ってどこかにお叱りを受けて、途中で止まってしまいます。でも、これだけの大作家だから、みんな耳を傾けてくれる。言えないことが言えるんです。
84歳の倉本先生がすべてをかけて“攻めてる”のに、我々が怯んだり、やめておこうと思ったりしたらダメでしょう。我々も先生がやろうとしていることを、なんとか形にしようと思って、脚本にあったいわゆる“挑発的なこと”、“業界に対する攻撃的なこと”は、ほぼ全部、ドラマの中に入れるようにしています。
社内でも「これ、本当にやるの?」という意見は、台本の段階からありましたが、ほぼ、先生がやろうとしていること、我々がやろうとしていることはやっていると思います。ものすごい労力だと思うんですよ。先生が手を抜かずに思いの丈をここまで書いてくださったんだから、それをいかに伝えていくか。
――倉本先生はご自身も演出家でいらっしゃいますが、ドラマに関してはどこまで関与されるのでしょうか。
本作に関していえば、先生が現場にいらっしゃって、口を出されることはないです。前作の最初の顔合わせの時には、全員でホン読みをしまして、その時にご意見やご感想はいただきましたが、『郷』のメンバーは、つき合いの長い方ばかりで、お芝居もこれまでの作品を通じてイメージを掴んでいらっしゃるので、みなさん自由に、という感じですね。
ただ、今回は『道』に若い人たちが多く入りましたので、クランクイン前に3日間、若い人たちを集めて倉本先生がワークショップ的な稽古をみっちりしていただいています。
――キャスティングは倉本聰先生がされたのでしょうか。
前作の脚本を書き始める前に、先生のほうから指定されたのは浅丘ルリ子さん、加賀まりこさん、八千草薫さんですね。アテ書き(俳優を想定して脚本を書くこと)するので「この人でないと困る」と。
あとは、先生とディスカッションしながら、こういう役は石坂浩二さんだな、これはミッキー・カーチスさん(81)だな、これは山本圭さん(79)だなと決めていきました。
パート2をやろうとなった時には困りました。そもそも、続編があるとは思いませんでしたので、八千草さんが演じる「姫」は作品の中で死なせてしまったし、現実では、野際陽子さんがお亡くなりになってしまったり。
今作の新メンバーは前作と違って、アテ書きではないんですね。倉本先生の脚本を元に、順次キャスティングをしていきました。
■倉本作品にある“リアル”とは
――倉本先生の作品は、“高尚”な作品だと思って見ていると、結構ぶっとんだ“漫画的”なエピソードもたくさんありますね。「公平」(風間俊介)が「しの」(清野奈菜)と殴り合いになったときに、胸を触って興奮してしまうシーンとか。
倉本作品は『北の国から』がトータルで考えると“文学作品”のような印象が強いと思うのですが、よくよく見返してみると、人間だったら誰しも感じるような“下世話さ”なども、ふんだんに描かれています。
私もそういう下世話なところが大好きなので、「下ネタかよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、でも、それが“リアル”じゃないのかと思うんですよね。しのと公平との出来事も、2人のその後に待ち受けている運命の中では、あの殴り合いは必要だった。
『郷』でも、「ロク」(橋爪功)は頻尿症で悩んでいる。年齢的には、ごく身近な話ですから、下世話ですが、それを避けずに描いていく。その下世話の先に、でっかいでっかい感動のシーンが待ち受けている。それが倉本聰作品の約束事というか。お客さんとの信頼関係なのかなと。
――主人公のシナリオライター菊村栄も、人間くさいキャラクターですが、倉本先生ご自身に近いのでしょうか?
よく、主人公のモデルは石坂さんですか、それとも倉本先生ご自身ですかと聞かれるんですが、もちろん違います。菊村栄という架空のキャラクターです。
もちろん投影する部分もあるそうですが、これがそのままご自身ではないということではないとおっしゃっていますね。
若い女性と仲良くなってドキドキしたりする人を見て、面白いと思ったり、親近感を持つってことは「人間らしい」ということだと思うんですよ。
この作品にはスーパーマンは出てこないんです。例えば、「秀さん」(藤竜也)というキャラクターは、誰もが憧れる唯一無二の大スターで、髙倉健さんのようなイメージなんですが、スーパーマンかといえば、何を言ってるのか分からなかったりする。それが人間らしくて、ユーモアになっているのかと思います。
――老いによる衰えや、認知症の症状を、悲劇としても喜劇としても描いていかれていますね。
松原智恵子さん(74)演じる「九重めぐみ」が少しずつ認知症になって、オナラをブーブーするようになるんです。もう、考えられないんですよね。これまで「お姫様」を演じてきた松原さんが。でも、倉本先生はそれをきちんと書くし、松原さんはそれをきちんと演じるわけですよ。
オナラをブーブーする、ということだけ取れば、下品だし、下卑た笑いになるのかもしれないけれども、でもそこにある、リアルな人間の苦しみとか、悲しみのようなものが、その後に感動となって帰ってくるんですから。やはり、倉本聰作品はすごいなと。
『北の国から』なんて、UFOが出てきたりしますし。倉本先生は、そういうヤンチャなところをいっぱい持っているんですよ。だから、倉本聰作品の集大成と公言されている『やすらぎ』シリーズの中にも、そういうところを全部ぶっこんでおられますよね。
――今作は、開始早々、レギュラーの「大納言」(山本圭)が亡くなり、衝撃的でした。
大納言は残念だったと思うんです。前作では石坂さんとミッキーさんとのトリオで釣りシーンが、一つのお決まりのシーンで、その「合成」も含めて話題になりました。
でも、大納言と八千草さんは、タイトルバックに、ずっと残っています。今後、ずっと見ていただければ、また大納言には会えるかもしれません。
中込卓也プロデューサーには、【後編】でもドラマの魅力を語ってもらう!
『やすらぎの刻~道』
テレビ朝日(月~金)午後12時30分~12時50分
BS朝日(月~金)午前7時40分~8時
TVerでも配信中。
『やすらぎの刻~道』シナリオ集1~2巻、双葉社より発売中