あの伝説のキックボクサーが、落語家の弟子になっていた!?(前編) (4/5ページ)

日刊大衆

 彼は、お稽古の一方でキックボクシングの興行など格闘技関係の仕事も忙しそうだったが、落語はなかなかやる場所はない。

 そんな時、彼が主催する後輩格闘家の激励会の際、いい雰囲気で一同が陽気で盛り上がっていたので、ここだ!と思ったらしく、そこで一席やったと聞いた。

「どうだった?」と尋ねると、目をキラキラさせ「シーンとしてました!」。心は折れてない。

 よく考えてみると、彼は決して古典落語をやりたいわけではない。ひとりで座布団の上から何か伝えたいことがあるだけなのでは。ひとつ提案してみた。登場人物をキックボクサーにしてみたらどう?と。

「はい!いいですねぇ」となった。この言葉はちゃんと届いていたようだ。

 それからはキックボクサーが必ず出てくる語り手「小林家」が誕生した。粗忽者が出てくるナンセンス落語「粗忽長屋」ではなく「粗忽ジム」。あくびを教える「あくび指南」ではなく「フェイント指南」。「寿限無」でなく「ゲノム」。八百長相撲を描いた古典落語「花筏」にいたってはムエタイ選手と八百長試合をすることになる「パナイッカダー」。など11席キックボクサー噺を手掛けている。

 とはいえ主に創作するのは僕である。大変だが面白いからいい。

 彼はいつの間にか浅草東洋館にてプロの合間に混ざって出演している。彼の凄いのは、元キックボクシングの王者が今度落語やりますという会を開催するのではなく、やるんだったらオープニングファイトから闘いたいというところだ。

 実はまだそんなに上手くはないのだが、熱量があり、折れない、諦めない。

 ある時本番終わりで電話がかかってきたので「どうだった?」と聞くと「いやぁすごいウケました」。

「よかったね」と伝えると「それが、どうして笑ってるのかわからないんです」。どこまでもこっちが見習いたい気持ちにもなる。

 この10年間諦めることなくきちんと定期的にやってくる。それもこっちのスケジュールはあまり気にしない。そして、必ずペットボトルのお茶を1本持参して僕に手渡す。いつの間にか彼が作ったルール。それでいい。

「あの伝説のキックボクサーが、落語家の弟子になっていた!?(前編)」のページです。デイリーニュースオンラインは、落語aiko林家木久扇格闘技キックボクシングエンタメなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る