高知東生55歳が語った!「薬物依存症とソーゼツ半生」

日刊大衆

高知東生
高知東生

 昨年から今年にかけて、沢尻エリカピエール瀧、そして伊勢谷友介など、芸能人の薬物に関するニュースが世間の耳目を集めた。俳優の高知東生氏は2016年6月、彼らと同じく薬物事案で逮捕された。懲役2年・執行猶予4年の判決を受け、今年9月30日に無事、執行猶予満了を迎えた。先月、自身の半生と薬物依存症との闘いを綴った『生き直す 私は一人ではない』(青志社)を刊行した高知氏に話を聞いた。

「芸能人の薬物事件は大きく報じられるため、芸能界では薬物が横行していると思われがちです。でも、実際は、一般の方々も同じような割合で検挙されているわけで、特別に芸能界が、という話ではないんです。ただ、芸能界がそういう世界であると世間に思わせてしまう、その原因の一人になってしまったことへの責任と後悔――そこに関しては、本当に申し訳ないことをした、という思いはすごくあります。だからこそ、僕は本気で薬物依存症から回復したいと思い、今、この病気と闘っているんです」

 16年6月、高知氏は愛人だった33歳の女性と宿泊していた横浜市内のホテルで逮捕された。当時の妻だった人気女優、高島礼子さんを裏切る形でのスキャンダルは、大きな騒ぎとなった。

「傷つけ、迷惑をかけてしまった元妻には、今も申し訳ない気持ちしかありません。捕まる1年くらい前から僕は芸能界の仕事を休業して、10年以上打ち込んでいた美容ビジネスを大きくしようと、本腰を入れていました。ただ、その過程で、人間関係からくるトラブルに悩まされ続けていた。赤字も重なり、もうストレスが自分の中で処理できる量を超えていました。それでも周りを見返してやりたい一心で、無理を続けていたんです」

 そんなとき、ある席で知り合った女性と深い仲になり、さらに、2人でクスリに溺れるようになる。

「次第に、この女性を、“俺のことを、こんなに理解してくれ、秘密を分かち合えて、すべてをさらけ出せる”と思うようになりました。今思えば、大間違いなんですが、お互いのグチ、不安、恐怖なども話し合える彼女との時間に救いを求めていた。クスリを通じたゆがんだ関係ですから、正しいアドバイスなんてできるはずないと、今なら分かるんですけど……。事件で彼女にも大きな迷惑をかけてしまい、申し訳なく、後悔するばかりです」

 高知氏が最初に薬物と関わりを持ったのは、20歳前後。高知県から上京し、たまたま始めたホスト時代のことだった。

「ホストの出勤前、ディスコで遊ぶようになりました。バブル時代で自分と年齢のあまり変わらない人たちが、仕事をバリバリやって金を稼ぎ、いい車、理想の女性を手に入れ、ディスコのVIPルームで派手に遊んでいる。そうした人たちがあぶって吸っている様子が、田舎者の僕には“オシャレ”に見えた。深く考えることもなく、手を出してしまったんです」

 初めて体に取り入れた薬物。だが、その感想は「こんなものか」だった。

「クスリの効果よりも、これで、この人たちの仲間に入れた、認められた満足感のほうが大きかった。逮捕前の時期を除けば、僕がクスリを使う際には“仲間に入りたい”という気持ちが、いつもありました。ただ、僕のようなケースを“拍子抜けの体験”と言うんですが、実は、これが非常に危険。“これなら、いつでもやめられる”という勘違いを起こさせて、結局、依存症に陥るからです。実際、僕もずっと勘違いしていました」

■専門医から病気と言われて

 高知氏は保釈後、専門医に「薬物依存症です」と告げられたが、否定し続けた。だが、「あなたは捕まらなければクスリをやめられなかった事実がある。だから病気です」と言われ、やっと自分が「依存症」という病気だと理解できたという。現在、高知氏は『12ステッププログラム』という依存症回復プログラムに取り組んでいる。その「ステップ4」、自分の過去と向き合い、依存症の根源を突き止める作業に大いに苦しんだ。

「高知県で生まれた僕は祖母に育てられ、両親はいないと聞かされていました。それが小学5年生のとき、たまに遊びに来る気前のいい、キレイなおばちゃんが実の母親だと突然、告げられ、一緒に暮らすことになりました。母との生活は、変わったものでした。なぜか、いつも周りにお付きの若い衆がいて、母は“姉さん”、僕は“ぼん”と呼ばれる。そんなある日、若い衆にキャバレーに連れて行かれました。そこで母に、隣に座る背広姿の男性を“明日から、この人がお父さんだよ”と紹介されました。その人は中井啓一という、四国で有名な土佐の侠客で、母は、その愛人だったんです。映画かと思うくらい、もう、めちゃくちゃな話です(笑)」

 中井啓一氏は土佐の名門組織、中井組組長である一方、高知市議を務めるなど、地元の名士としても知られる人物だった。こうした複雑な家庭環境に置かれた高知少年の心には、常に「また、ここを捨てられたら、次はどんな所に移動させられるのか?」という、居場所がなくなる恐怖があったという。

「だから、大人の顔色を見て、とにかく、いい子でいようと……必死でした。母親のことは恨んでいましたね。一度、母に連れられて組事務所のような所を訪れたとき、敵対する組織に襲撃されたんです。その際、子どもの僕を守ろうとして、母は背中に大きな刀傷を負ってしまいます。でも、僕はずっと心の中で“そんなキケンな場所に、よく息子を連れて行くよな”と母を責めていた。“でも、子どもは親を変えられない。おふくろに産んでもらわなかったら、今の俺はいないし”と自分に言い聞かせ、本当の気持ちを心にしまい込んでいました」

■母の葬儀で中井組長が

 その母は高知氏が明徳義塾高校3年のとき、トンネルの入り口に自らが運転する車で突っ込み、この世を去ってしまう。自殺だった。

「亡くなる2時間前、母が車に乗って突然、僕が暮らしていた高校の寮を訪ねてきました。車内で進路の話をした後、唐突に“私、キレイかな?”って聞いてきたんです。気恥ずかしさもあって、そのときは“おふくろ、キレイやぞ”と言ってやれなかった。フロントガラス越しに最後に見た母の顔は、泣きながら笑っていました。今も、その後悔が消えていません」

 母の葬儀で、中井組長が驚くべき行動を見せた。

「葬儀にやってきたおやじが、硬直する母親の遺体を抱えて“ちょっと、お母さんとドライブしてくるな”と走り去っていったんです。おやじはおやじなりに母を愛していたことが分かりました。男の背中を見たような気がして、“かっこいいな”と思ってしまいましたね」

 だが、母の死後、衝撃の事実を知る。中井組長は、実の父親ではなかったのだ。

「これまでずっと“中井の息子”だってことで、ケンカを売られ、売られれば周りが見ている手前、受けて立ってきた。でも、今度は息子じゃないってことがバレるのが怖い。とにかく荒れて、キレたら敵も味方もなく殴りかかっていましたね」

 “中井組長の息子”という周囲の目から逃れるように、高知氏は上京。だが東京に、来てからも、その噂には、いつも神経を尖らせていた。

「芸能界に入ってから、あるネット掲示板を見たとき、“高知は中井の息子だ”“中井の息子じゃない。おやじは徳島の××だ”と議論が二分して、勝手に炎上していたんです。自分の過去を世間に知られること以上に、当時の妻や仕事関係者に迷惑をかけてしまうことに、いつも恐怖を感じていました」

 高知氏は00年代に制作されたVシネマ作品『実録・鯨道  土佐游侠外伝』シリーズで、中井啓一組長役を演じている。

「オファーが来たときは……うれしかったですね。今思うと、母親は愛人だったけども、おやじはすごく大事にしてくれたし、僕もおやじからは大事にしてもらった。隠していながらも、おやじだけは、他人に演じてもらいたくないと思っていましたから。ただ、誤解しないでほしいんですが、任侠の世界に憧れはありません。母にも、そちらの世界に行くなと強く言われていました。まあ、芸能界で、侠客である“実父”を演じたのは、僕が最初で最後でしょうけどね(笑)」

■著名人で作る「自助グループ」

 回復のためとはいえ、自分の過去を見つめ直す作業は、つらいものだった。だが、胸の奥底に眠る秘めた感情に気づくことで、高知氏は「心の防弾チョッキ」を少しずつ脱ぐことができたという。その一助となっているのが、依存症を持った著名人で作る「自助グループ」の存在だ。

「元プロ野球選手の清原和博さんや元NHKアナウンサーの塚本健一さん、元NHKの“うたのおにいさん”の杉田あきひろさんらと、月に1〜2回のミーティングを続けています。 “秘密厳守”“言いっぱなし、聞きっぱなし”というルールで、自分の気持ちをお互いに話し、聞き合います。このグループが僕の大きな支えと居場所になっている。彼らが与えてくれた気づきの中で、55歳になって、やっと、母なりに懸命に僕を愛してくれていたんだと思えるようになりました」

 今、依存症の正しい知識を知ってもらうため、自身の経験を踏まえた講演活動や、SNSでの情報発信を積極的に行っている。

「僕自身、『ギャンブル依存症問題を考える会』代表の田中紀子さんと出会い、依存症が病気だと知り、回復への一歩を踏み出せました。依存症は家族や友人が頑張って、どうにかなるものではありません。むしろ、事態を悪化させてしまう危険すらあるので、正しい知識を持つ人とつながる必要があります。依存症は、助けた人が助けられるんです。実際、僕はツイッターで、いろいろ発言していますが、同じ悩みを持った人たちが苦しみを分かち合う、ネット上の自助グループのようになってきている。自分のことを話すことで、僕自身も救われているんです」

 今日という一日を積み重ねながら、高知氏は回復の道を歩み続けている。

高知東生(たかち・のぼる)1964年、高知県生まれ。NHK大河ドラマ『元禄繚乱』や『課長島耕作』(日本テレビ系)など、俳優として多くの映画やドラマで活躍。2016年6月24日、逮捕。現在、薬物依存の専門病院や「ギャンブル依存症問題を考える会」に関わりながら、講演活動やSNSを通じ、依存症問題の啓発に取り組んでいる。また、俳優としての活動も再開させ、ギャンブル依存症を扱ったツイッター配信ドラマ『ミセス・ロスト~インタベンショニスト・アヤコ』に出演。

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