日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その6】

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日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その6】

今まで“江戸を生きる人々の1日のタイムスケジュールはどうなっていたか”についてご紹介しています。今回は“午後5時~午後7時頃”についてです。

前回までの記事はこちらを御覧下さい。

日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その1】

日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その1】

日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その3】

日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その4】

日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その5】

暮れ六つ(午後5時頃から午後7時頃) 座鋪八景 行燈の夕照 画:鈴木春信 シカゴ美術館所蔵

座鋪八景 行燈の夕照 画:鈴木春信 シカゴ美術館所蔵

仕事が終わり帰途につく人々 富嶽三十六景 御厩川岸より両國橋夕陽見 画:葛飾北斎 シカゴ美術館所蔵

富嶽三十六景 御厩川岸より両國橋夕陽見 画:葛飾北斎 シカゴ美術館所蔵

この絵では、夕陽は沈み遠くの富士山も濃紺のシルエットで描かれ、向こう岸の建物の影が暗く見えて、夕闇が迫っているのを感じさせます。

「御厩の渡し」は墨田区横網と台東区蔵前を結んでいました。両岸に幕府の御米倉がある倉庫街です。向こう岸の台東区蔵前には、米問屋などの金融業のお店が多くあり賑わいのある場所です。

舳先に座る人には疲れたのか頭を膝に載せて居眠りでもしているかのようです。足元にある桶は空っぽ。棒手振りの商品は全て売り切れたようですが、どれだけ歩きまわったことでしょう。手前にいる人は少しぼんやりと、手ぬぐいを川の流れにまかせて浸しています。

中央に立つ商人風情の人の背中に見える風呂敷にはどこかの店の紋が染め抜かれています。これが店の宣伝にもなったのです。

また何やらひそひそと話す二人の男もいます。客の一番後ろに座る男も遠くを眺めているようで、船の乗客からは“一日の疲れ”と“仕事からの開放感”が垣間見えるようです。

銭湯で一日の疲れを洗い流す 賢愚湊銭湯新話 画:山東京伝

賢愚湊銭湯新話 画:山東京伝 国会図書館デジタルコレクション

仕事が終わればまず銭湯に行って1日の汗と疲れを流します。江戸の人々はお風呂が大好きで、時間があれば日に3度4度と銭湯に行ったとも言われています。

江戸の銭湯は基本的には男女混浴でした。幕府は何度も“風紀を乱す”ということで男女混浴を禁止しました。

時間帯によって男性だけが入れる・女性だけが入れると分けたりしたようですが、いつのまにかまた“男女混浴”に戻ってしまうことが何度もあったようです。現代よりはずっとおおらかだったのですね。

日が暮れて涼しくなったら夕涼み 東都両国夕凉之図 画:歌川貞房

東都両国夕凉之図 画:歌川貞房 国会図書館デジタルコレクション

夏の暑さも日が沈み、涼しい風が吹いてきたら外へ出て夕涼みでもしたいというのが人情というものです。江戸時代もそれは同じで両国橋あたりで夕涼みをする人が大勢いました。

この絵で大勢の人ではちきれそうになっている橋は「両国橋」といいます。1657年、江戸で起きた明暦の大火の際に、大勢の町人が火事を逃れて隅田川を越えようとしたとき、そこには江戸の防衛のために橋は「千住大橋」しか無かったので沢山の犠牲者を生み出すことになりました。

そのため新しく武蔵国と下総国にまたがる「両国橋」を架けられました。橋の両側に火除地として広小路が設けられ、江戸随一の盛り場として賑わいました。

旧暦5月28日は両国の川開きが行われます。川開きの日に打ち上げられる花火を人々は心待ちにするようになりました。

川開きの日から、料亭の桟敷が川岸に組み立てられ、川沿いの道端には夜店が並び、川には小舟を繰り出して夕涼みをして遊ぼうという人達で賑わいました。この日をはじめとして、旧暦5月28日から8月28日までの間、連日見物の人や涼み舟でにぎわいます。

つきの百姿(夕顔の夕涼)画:月岡芳年 国会図書館デジタルコレクション

つきの百姿(夕顔の夕涼)画:月岡芳年 国会図書館デジタルコレクション

こちらの絵でも夕涼みが描かれています。涼みに出かけたはずなのに人混みで疲れるよりも、この絵のように気心の知れた者同士ゆったりとお酒でも飲みながら、月や夕顔の花を眺めて風に吹かれ寛ぐのもとても贅沢な時間だと思います。

宵の楽しみ 「料理屋」 作者不詳 都立中央図書館所蔵

「料理屋」 作者不詳 都立中央図書館所蔵

江戸初期、外食産業は棒手振りから食べ物を買って食すことから始まって、やがて屋台が生まれ、その後“煮売り茶屋”という煮物などを売る店でつまみを食べながら店の椅子に座ってお酒を飲むというスタイルが広まり、その後お座敷へと形態も多様化していきました。

この絵は“小料理屋”を描いたものです。畳を敷いた小上がりに上がってお酒と料理を注文します。個室はなく座敷を“屏風”で仕切る程度でした。この“小料理屋”は江戸の人々にとても好まれるようになりました。

外食料理の爛熟から生まれた料理茶屋

やがて「小料理屋」よりも高級な「料理茶屋」が生まれます。これは現在でいう“高級割烹”のようなもので、建物や食器はもちろんのこと料理も高級と言われるものを提供しました。

「料理茶屋」には個室があるので、幕府の役人や各藩の交渉役人などが常時寄合を開き、相互の情報交換を行なうするなど重宝に利用しました。また文人墨客も歌会などを催すことも度々ありました。

「御料理献立競」東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

「御料理献立競」東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

これは江戸にあった料理茶屋の見立番付です。江戸時代にはこのように色々な物について番付をすることが流行りました。これは現在のグルメランキングの原型のようなものですね。

「御料理献立競」(部分) 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

「御料理献立競」(部分) 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

中央下にひときわ大きく「八百善」の名があります。八百善は江戸では徳川将軍家代々の御成りも仰ぎ、ペリー来航の際の饗応料理も担う最上級の料理茶屋として名を馳せていました。

お茶漬だけでも十数万円!?もてなしも値段も最高峰、江戸時代の三つ星料理店「八百善」

今更ランク付けするまでもないとされていたのでしょう。三百年続く老舗として、現在も伝統の味を守っています。

ここではその八百善の両隣に書かれている向島の「武蔵屋」と今戸の「金波楼」についてご紹介します。

■向島「武蔵屋」 江戸高名会亭尽 牛嶋 武蔵屋 メトロポリタン美術館所蔵

江戸高名会亭尽 牛嶋 武蔵屋 画:歌川広重 メトロポリタン美術館所蔵

隅田川東側の向島にあった「武蔵屋」は川魚料理で有名でした。贅を凝らした庭園の美しさはよく知られていており、庭の様子が絵の半分以上を割いて描かれています。絵の奥には庭を眺める人がいます。

庭から料理を運ぶ中居の女性や、三味線をそばに置いて客人とお酒を交えて遊び興じる芸者の賑やかさとは対照的な風情が描かれています。

■今戸「金波楼」

江戸高名会亭尽 今戸橋之図 金波楼 画:歌川広重 メトロポリタン美術館所蔵

江戸高名会亭尽 今戸橋之図 金波楼 画:歌川広重 メトロポリタン美術館所蔵

隅田川西岸の、浅草今戸橋のあたりにあった「金波楼」。会席料理の味はもちろんのこと、文人であり御家人である大田南畝によると、“墨水(隅田川のこと)に臨む金波楼での宴で、あいにく今宵は月は出なかったが、「一曲三絃消宿酔」、絃歌を楽しむことは出来た”と言わしめたほどの風情ある料理茶屋でした。

隅田川に面した金波楼では船を出し、船中で宴を催したりという優雅な遊びが出来たり、数多くの離れの個室があるなど、豪華な「金波楼」の様子が描かれています。

吉原夜見世はじまる 夜見世の図 画:喜多川歌麿 ニューヨーク公共図書館所蔵

夜見世の図 画:喜多川歌麿 ニューヨーク公共図書館所蔵

暮れ六つの鐘がなると清掻き(すががき)と呼ばれる客寄せの三味線が鳴り夜見世が始まります。吉原の籬(まがき)の中で格に応じた場所に遊女達が座り、商品としての自分の顔や姿を身せて客の指名を待つのです。

この様子を描いた狂言があります。

“暮六つの鐘に廓の夜は明けて うかれ烏の騒ぐ見世先”

ところで思い出していただきたいのは、“明け六つ”の始まる時間は“現在の時刻”で言えば約2時間違います。

例えば冬、夕方5時はもう暗いですね。そして夏の夕方5時はまだ明るい。

江戸時代は太陽の昇り沈みを基本に時間を決めていたので、「明け六つ」の始まりは現在の時間で考えれば“午後5時から午後7時の間”ですが、江戸時代は「明け六つ」の始まりは一年中午後5時頃で日が沈む時間だったのです。

このように伸び縮みする時間を江戸時代の人々は自然に受け入れ生活していたのです。

次に続きます。

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