3期生が「先輩メンバーの歌い踊るさま」を継承するドラマを描いた「僕の衝動」の未来志向【乃木坂46「個人PVという実験場」第14回2/4】 (3/3ページ)

日刊大衆

山下が特定の環境にいるときに怪現象が多発することから、教師は原因を突き止めてその根を絶とうとするが、山下はポルターガイストの元凶をむしろかばうように教師のもとから逃避する。

 ごく日常的な設定を舞台に、登場人物のメンタルに連動して超常現象が引き起こされる点、そしてそれら破壊的な現象が怪奇というよりむしろほのぼのとしたテイストで描かれる点などは、前回更新分(https://taishu.jp/articles/-/83221)でとりあげた荒船にとって初めての個人PV、能條愛未主演の「アンゴルモアの大王の娘」とも通じる作風である。山下が親友のレイ(中村光里)とともに土手を駆ける終盤のシーンは、VFXが存分に用いられた本作の白眉であり、荒船の特性が現れた場面である。

 同時に、本作に忍ばされているのは、山下演じる主人公が過去の喪失体験といかに向き合うかというドラマである。

 ポルターガイストに対峙すべく教師は秘められた自らの本性を晒してまで、山下を救おうとする。ごくオーソドックスな使命感として、教師の行ないはまったく正しい。しかし、その命がけの使命感を文字通り叩き潰して、自身に取り憑く怪異との共存にとどまろうとする山下の心情もまた、間違っていると断じてしまうのはあまりにやるせない。

 逃避した先の屋上で迎えるラスト、自身から離れない怪異に対して、この先も一緒にいられるようにと願いながら山下が見せる笑顔は、たまらなく切ない哀感をたたえている。本作が収録されたシングルで、初めて乃木坂46の表題曲選抜メンバーとなった山下。一人の演技者としてさらなる進化を見せた、彼女の一つの画期であった。

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