齋藤飛鳥「乃木坂46の海外進出」にとって重要な位置を占めた功績【アイドルセンター論】
なぜ彼女たちは「センター」に立ったのか⁉
アイドルセンター論
乃木坂46 齋藤飛鳥(後編)
西野七瀬、白石麻衣の後を継ぐ形で乃木坂46の新エースになった齋藤飛鳥。彼女が初めてセンターになったのは2016年6月リリースの15thシングル『裸足でSummer』だが、この時点では深川麻衣という最年長メンバーの卒業を受けてリリースされたシングルであり、まだまだ次世代としての期待という意味合いが強く残っていた。
だが、そこから1年後の2017年にリリースされた19thシングル『いつかできるから今日できる』で当時のエース西野とのWセンターに選ばれたことで、乃木坂46での齋藤の立ち位置がはっきりしてくる。つまりは一過性のセンター起用ではなく、将来的には齋藤を中心にグループが構成されていくことを意味していたのだ。すでに国内ではトップアイドルに上り詰めた乃木坂46は齋藤をセンターに起用し、アジアでの活動を目指した。ここからは近年の乃木坂46の海外進出と齋藤との関係を考えていきたい。
乃木坂46が本格的に海外展開を始めたのは2017年のこと。同年6月に乃木坂46がタイの観光大使に任命されると、11月にはシンガポールで行われた『C3 Anime Festival Asia Singapore』に出演し、グループとして初めてアジアに進出を果たした。
さらに英語圏、中華圏に向けた情報発信のためにFacebookとWeiboのアカウントを開設し、乃木坂46の公式YouTubeチャンネルのMVが全世界向けに配信(一部地域を除く)されることも決定。
2018年からはセブン-イレブン台湾のCMへの起用やモバイルゲーム『乃木恋』の台湾・香港・マカオでのリリースなど本格的に海外への展開を進めていくことになる(2019年からABEMAで放送が始まった『#乃木坂世界旅 今野さんほっといてよ!』も広義の意味ではその一環と考えられる)。
これら乃木坂46の海外に向けた活動と齋藤のセンター起用という2つの事柄は時期的に重なっていることからも決して無関係ではあるまい。
このような背景のなかで齋藤は2018年8月リリースの21stシングル『ジコチューで行こう!』で3度目のセンターに選ばれている。中でも同年10月に台湾で大人気の映画を日本向けにリメイクした映画『あの頃、君を追いかけた』でヒロインを熱演したことは大きなインパクトを与えている。同作は台湾と香港でも公開され、すでにセブン-イレブンのCM露出でも人気となっていた齋藤の中華圏における知名度はさらに高まった。
さらに2018年12月に上海で初の海外単独公演「NOGIZAKA46 LIVE in Shanghai 2018」、2019年1月には台湾の台北アリーナ「NOGIZAKA46 LIVE in Taipei 2019」と怒涛の海外公演を開催。ミャンマーと日本のハーフというバックグラウンドを持つ齋藤が両公演で座長を務めたことは、海外における彼女の重要性を示す結果となった。
そして2019年5月にリリースされた23thシングル『Sing Out!』において、齋藤の重要性はさらに高まっていく。同曲は乃木坂46の様式美が表現されたダンスに加えて、クラップを取り入れたシンプルなリズムや英語詞が特徴となっており、乃木坂46の楽曲のなかでも極めて海外志向性の高い楽曲だ。
齋藤は同曲について「日本だけとは言わずに世界中で『Sing Out!』ブームが巻き起こったらいいなという願望はあります」(『マイナビニュース』乃木坂46齋藤飛鳥、新曲「Sing Out!」で涙「チームであることの良さ」)と海外を意識した楽曲であるという旨の発言を残している。
実際に「真夏の全国ツアー2019」では『Sing Out!』における演出でパリのファンと生中継が行われていることからも、海外を睨んだ楽曲であることが分かる。海外指向性の高い同曲において4度目となるセンターを齋藤が務めたというのはこれまでの文脈を踏まえても重要なことのように思われる。
乃木坂46が2017年から推し進めてきたアジアへの進出。齋藤は「定期的に開催させていただいている海外公演は、さらに良くしたいという思いがあります。『個人のキャラクターは伝わっているけど、乃木坂46全体としての良さは表現しきれていないんじゃないか』と感じていて。具体的な方法は難しいですが、これからの新たな課題かもしれませんね」(『日経エンタテインメント!』乃木坂46 Special 2020)と海外展開における自分の立ち位置を理解しつつ、冷静にグループ課題を指摘している。
内向的でグループの末っ子的な存在だった齋藤が、乃木坂46のセンターとして成長を見せているというだけで感慨深い。海外展開における重要な存在として齋藤をセンターに据えた乃木坂46。海外においても国内同様の成功を収めることができるのか、期待していきたい。
(文=川崎龍也)