美学、意識、絶対などの言葉を日常語に。日本哲学用語の父・井上哲次郎の功績とその思想的変遷 (1/3ページ)
文学・哲学史上での実績
日本の哲学者といえば、高校の「倫理」の教科書に載っている西田幾多郎や和辻哲郎が有名です。
この二人は、特に「日本独自の哲学」を作ったすごい哲学者とされています。
しかし、明治時代以降にヨーロッパの学問がどんどん日本に入ってきて、それを日本人が「消化」するまでにも、たくさんの学者が哲学を研究していました。
今回はその代表格である、井上哲次郎(1855-1944)という人の生涯と業績をご紹介します。
まず、井上は「日本哲学用語の父」と呼んでもよい人物です。
医者の家に生まれた井上は若き日に習得した漢語・英語を駆使して大学で東西の哲学を中心に学びます。
そして1882年に『哲学字彙(てつがくじい)』を刊行して西洋哲学の用語を日本語に訳すなどの整備を行いました。
例えば、彼は自然・経験物の背後の世界についての議論を指す「メタフィジックス(metaphysics)」という言葉を「形而上学(けいじじょうがく)」と日本語で表現しています。
また「意識」「人格」「絶対」「美学」「倫理学」という言葉を日常で使われるまでになったのは井上の力によるものです。