岸博幸が断言「アベノミクスで給料が上がることは今後もない!」

デイリーニュースオンライン

 経済をわかりやすく解説してくれることで定評ある、元官僚の岸博幸・慶應大学教授に、日本経済の現状を聞いていく短期集中連載。今回のテーマは、我々の家計に直結する雇用問題。アベノミクス下で現状に満足していては、給料も上がらず、今後の厳しい環境では生き残れない、という〝耳に痛い話〟を聞いてきた。

有効求人倍率に潜む数字の罠

――前回は、積極的に転職して収入を上げていくべきだというお話がありました。その転職市場について、変化が起こっているようにも思います。特に人手不足が言われています。岸さんは実情をどう捉えていますか?

岸 人手不足はこれから20年くらい続くと思います。ただし、よく言われているように、アベノミクスで景気が上向いたから人手不足が起こっている、わけではない点に注意が必要です。

 では真相はどうなのか? これはとても簡単な話で、1990年代後半から15歳から65歳の生産年齢人口の減少が始まっていたからなんです。加えて2000年代からは団塊の世代の退職が始まっています。だから、都市部よりも高齢化が進んでいる地方では、去年一昨年あたりから人手不足が深刻化しています。さらに、東日本大震災が起こり被災地での人手不足が加速した。その影響が、今年に入って都心にも波及した、というのが人手不足の真相です。

――そうだとしても人手不足であれば、全体的には給料が上がったり転職しやすくなったりしそうですが……。

岸 それはまったくの間違いです。というのは、現在の有効求人倍率は1.08倍です。この内訳を詳しく見ていくと、有効求人倍率が一番高いのがサービス業や土木業などの肉体労働系なんですよ。その次に高いのが弁護士や建築士など専門職の人たちです。それに対して有効求人倍率が低いのが事務職で、0.3倍くらい。求人が壊滅的に少ないですよね。あとは工場の労働者。これも有効求人倍率が1倍を切ってしまいました。問題は、今まで日本の中産階級の多くを占めていた事務職や工場で働いていた人たちの求人倍率が、激減しているということなんです。

 求人が減っている理由は、世界基準で労働環境が変化したことにあります。グローバル化が進み、工場が人件費の安い海外に移っている。コールセンターでさえ海外に行ってしまいました。さらに国内に残っている工場にしてもロボット化が進んで人がいらなくなっているし、デジタル化で事務作業が減ってしまっている。これが人手不足の実体です。

日本の労働生産性は低い

――では賃金、給料に関しては?

 賃金は生産性に比例していくものです。その生産性に関しては、日本は凄く低い。だから給料が上がるわけがないんです。それなのにマスメディアは、完全にミスリードしている。これは、ブラジルのW杯の時と同じです(笑)。

 あの時、日本は予選落ちしましたよね。当時の日本代表は、FIFAランキングでグループ最下位でした。冷静に考えれば予選を勝ち抜けるわけがなかった。でも、W杯が始まる前、多くのメディアが日本はベスト16やベスト8も狙える、なんて言っていましたよね。あれを見て、本当に日本は不思議な国だなぁと思いました。

 FIFAランキングで最下位の日本が決勝リーグに進めないのと同じで、生産性の低い日本で、給料が上がるわけがないということです。意外に感じるかもしれませんが、W杯で活躍したドイツやオランダは、とても生産性が高い。日本人が一人で1時間あたりで生み出している付加価値は4000円くらい。これだけを見れば高いように感じるかもしれませんが、ドイツやオランダは1時間60ドル、6000円くらいですよ。

 こういう生産性の差は、いろんな産業に現れるんです。一例を上げれば農業です。日本の農業の輸出額は、世界ランキングで100位よりも下。それに対して九州と同じくらいの面積しかないオランダは、アメリカに次ぐ第2位。工業国というイメージが強いドイツですら、第4位ですよ。生産性の差は、こういう形でキッチリと出てくるものです。

――こうした状況に対して政府は対策を練っているんでしょうか?

岸 これは残念ながら政府の問題というよりも、企業や働く個人が頑張らなくてはいけない問題です。だから、マスメディアが言っているような、これからも仕事があるし、給料も上がる、ということを信じて安心していたら絶対にダメなんです。ビジネススキルを上げつつ経済状況を把握して、有望な転職先を見つけていくべきです。

岸博幸(きしひろゆき)
1962年生まれ。一橋大学を卒業後に通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院にてMBAを取得した。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、第1次小泉純一郎内閣の竹中平蔵・経済財政制作担当大臣の補佐官に就任。現在は、慶應義塾大学教授やエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問。

(取材・文/河原塚英信)

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