岸博幸が語る原発再稼働「電気料金が倍で本当にいいのか」

デイリーニュースオンライン

 経済をわかりやすく解説してくれることで定評ある、元官僚の岸博幸・慶應大学教授に、日本経済の現状を聞いていく短期集中連載。今回は、経済的な観点から見た原発再稼働問題について聞いた。

すでに41%の世帯が年収300万円以下

――東日本大震災以降、日本の原発は止まったままです。元資源エネルギー庁で働かれていた岸さんから見ると、原発は再稼働すべきなんでしょうか?

岸 原発に関しては、経済的な観点で見れば短期的には絶対に必要です。反対する意見に惑わされてはいけないですよね。

 原発に反対する人の理由は、「原発は危ないから」というもの。それは分かりますが、じゃあ交通事故で人が亡くなるから、クルマは使うのをやめましょうということになるのか? そういうこともありますが、何よりも大事なポイントは、原発を再稼働しないと国民皆が貧しくなっていくということなんです。原発が停まり始めた震災から3年で、企業向けの電力料金は3割、家庭向けは2割も上がっています。もし原発を再稼働しなければ、もっと料金を上げざるを得ないというのが事実です。

 もちろん原発を新設することに反対する気持ちはわかるのですが、少なくとも既存の原発については、安全が確認されたものは使うべきです。それだけでも電力料金はある程度抑えられます。逆に、それすら動かせないと電力料金が今後更に上がっていきますから、企業からすればコストが増します。利益が減るということ。それは家計に置き換えてみても同じです。家計の電気代が上がる分、支出が高くなるので、実質的な収入が減るということです。

 つまり企業も家庭もますます貧しくなっていきます。今、国税庁の数字で言えば、2013年末で勤労者の年間所得の平均は414万円ですが、実は勤労者全体の41%の世帯が年収300万円以下なんです。この年収300万円以下というのは、社会保障や税金を差し引くと、月の手取りが20万円を割るんですよ。これで奥さんと子どもがいる家庭は大変ですよね。今、こういう家庭が多いからこそ、国全体の消費動向が悪いという結果になっているんです。

 重要なのは、原発を動かさなければ電力料金が上がり、こうした低所得層がダイレクトな影響を受けるということです。なので、個人的にまず大事だと思うのは、低所得の家庭を守らなければいけない。そのためには、安全が担保された既存の原発については再稼働を急ぐべきだと考えています。

 もちろん、原子力という狭い世界だけで考えると、危険なものは使わない方が良いに決まっているんですよ。でもエネルギー全体を俯瞰して考えると、日本みたいに資源がない国、輸入に頼っている国は、資源の輸入元も多様化しなければいけない。エネルギー政策は常に多様化を追求していますから、多様化の観点から言えば、原発は必要なんです

原発を動かさず電気代が2倍になってもいいのか?

――日本において原発は最低限持っていなければいけないオプションということですよね。

岸 そうですね。そうした多面的な見方を示さずに、原子力の危険性ばかりを報道するメディアがあります。それは間違っていると思いますね。そうしたメディアの言うことを主婦の人ほど鵜呑みにして、反対する人が多いのですが……。

ーー子どもを守らなければいけないという本能が、そうさせるのではないでしょうか?

岸 そうした気持ちはもちろんわかります。でも、主婦の人に聞きいてみたい。「原発はやめましょう、その代わり電気代は近い将来2倍になっても、給料が増えなくてもいいですか。もしくは既存の原発を動かします。その代わり電気代は下がります。どっちがいいですか?」と。

 このように原子力だけの話で聞いたら、みんなが反対するに決まっているんですよ。原発反対と言っている人たちには、もう少し経済全体のことを考えてどうするかっていう議論をしてほしいし、そうした反対派の世論を恐れて、原発をゼロにした場合の現実を提示しない政府の対応も問題が大きいと思いますよ。

――短期的に既存原発の再稼働は必要ということですが、長期的にはなくせるものなんでしょうか?

岸 それは技術進歩の度合いによって決まりますから、正直、予想するのは難しい。ただ、個人的には将来もある程度は必要だろうと思っています。もし技術が飛躍的に進歩して再生可能エネルギーの発電効率や蓄電池の性能が凄く良くなって、太陽光で発電した電気を溜めていつでも使えるようになれば別ですけど、なかなかそうはならないと思います。そうであれば、原発は将来的にも必要ですよね。

東電ばかりが電力会社じゃない! 電力会社の強い使命感

――もう一つ再稼働するに際して心配なのが、原発の運用上の不安があると思います。今までと同じやり方だと心配という人が多いのも事実なのでは?

岸 東京電力は確かにダメな会社でした。でもそれが電力業界のすべてだと考えるのも違うと思います。例えば東日本大震災の時、福島原発よりも震源地に近かった東北電力の女川原発は無事だった。ここはちゃんと津波の高さを想定して、原発の敷地の高さを15mにし、非常用電源も高いところに設置するという安全面を意識した対応がされていました。その結果、無事だったわけです。震災から3ヶ月の間は被災者の避難所として開放していたほどですからね。

 先日、その女川原発を見学に行ったんですけど、東日本大震災を踏まえて、防潮堤の高さをこれまでの海抜17mから29mにまでかさ上げしようとしています。こうした現場を見ていると、東電の福島原発は確かにいい加減だったけれど、電力会社全体はそんなことはないと思っています。

 基本的に電力会社の人たちは、生活に必要な電気を途絶えさせてはいけない、という使命感が強い。だから、キチンと安全性を高めている原発については、国民生活の安全性を守るためにも再稼働していくべきなんです。

岸博幸(きしひろゆき)
1962年生まれ。一橋大学を卒業後に通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院にてMBAを取得した。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、第1次小泉純一郎内閣の竹中平蔵・経済財政制作担当大臣の補佐官に就任。現在は、慶應義塾大学教授やエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問。

(取材・文/河原塚英信)

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