中国終焉か…住宅バブル崩壊で世界同時不況を招く恐れ|門倉貴史コラム

デイリーニュースオンライン

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 10月21日、中国国家統計局が中国のGDP(国内総生産)統計を発表した。それによると、2014年7~9月期の実質GDP成長率は前年比7.3%増にとどまり、リーマン・ショック後の2009年1~3月期(同6.6%増)以来、5年半ぶりの低い数字となった。10月に入ってからも中国経済が上向く気配はなく、中国政府が年初に示した2014年の成長率目標(前年比7.5%増)の達成は難しい情勢になってきた。

 最近の中国経済の低迷の最大の要因は住宅市場の不振である。国家統計局によると、2014年9月の新築住宅価格指数は、調査対象70都市のうち実に69都市で前月比マイナスを記録。唯一、住宅価格が横ばいだったのは福建省アモイで、その他の都市の下落幅は0.4~1.9%だった。

各都市が住宅購入規制を次々と撤廃する理由

 例年、9月から10月にかけては住宅販売が盛り上がるシーズンなのだが、中国の住宅販売に好転の兆しはみられない。

 このような住宅販売の不振は、個人消費の冷え込みにもつながっている。たとえば、2014年1~6月期に中国国内で販売されたテレビは2093万台と、前年比9%の落ち込みとなった(金額ベースでは前年比15%減)。中国では、マイホーム購入のタイミングに合わせて新しい家電製品や家具を購入するケースが多いため、住宅市場低迷の影響でテレビの販売が落ち込んだと考えられる。

 多くの都市で建売住宅の売れ残りが増えており、不動産開発業者は新規に土地を取得するよりも、在庫調整のほうに力を入れている。このため、北京や上海では土地が売り出されても成約に至らなくなっているのだ。それでも、住宅の在庫調整が完全に終了するまでには2年近くの年月がかかるとみられている。

 浙江省や江蘇省、福建省、広東省などでは住宅価格の下落に伴い、金融機関の住宅ローンが焦げ付くケースも出てくるようになった。ローン残高のほうが購入した新築住宅の評価額を上回る状態に陥ってしまった債務者の多くはローンの返済ができなくなっている。

 住宅市場の冷え込みが深刻化する中、各地方政府は危機意識を強めており、多くの地方政府が不動産購入に関する規制を緩和している(中国の46都市が2010年に住宅購入に規制を導入。同じ地域に複数の住宅を購入できないなどの規制があった)。

 中国の地方政府が住宅価格の動向に神経をとがらせるのは、それが地方財政に直結するからだ。地方政府の財政収入のうち土地譲渡金収入(地方政府が土地使用権を民間の開発業者に払い下げることによって得られる収入)は約6割を占める。不動産市場が大幅に調整することになれば、土地譲渡金収入が減少し、それによって地方政府の債務返済能力は大きく低下してしまう。

 現在も規制を維持しているのは北京や上海、広州など8都市だけである。こうした大都市でも2014年の年末までには取得規制を緩和する公算が大きい。

 ただ、リスクを取りたくない金融機関が住宅ローン金利を高めに設定するなど、地方政府単独の規制緩和策だけでは住宅市場の回復には力不足だ。

中国人の未熟な投資行動が世界不況をもたらす!?

 住宅価格の下落に歯止めをかけるには、金利の引き下げや融資の促進など中央政府・中央銀行のテコ入れ策が不可欠な情勢となっているが、高成長の実現よりも構造改革の推進を優先する習近平国家主席は、住宅市場へのテコ入れには消極的な姿勢を示している。政府は最近の経済成長の減速を受けて、景気対策を打ち出しているが、それは住宅市場の活性化を目的としたものではなく、公共投資によるインフラ整備といった限定的なものだ。

 もし、このまま中央政府・中央銀行のほうから住宅市場に対して有効な政策が打ち出されることがなければ、中国の住宅市場の冷え込みは一段と深刻化し、場合によっては住宅バブルが崩壊→中国発の世界不況という最悪のシナリオが現実味を帯びてくることになるだろう。

 中国では2000年代に入ってから不動産投資にのめりこむ投資家が増えるようになったが、投資経験の浅い投資家が多いため、他の投資家や専門家の考えに追随して投資行動をとる傾向が強く、行動経済学で言うところの「ハーディング効果」が発生しやすい。

「ハーディング」とは、群れをつくって行動するという意味で、不動産市場で一旦「ハーディング」が形成されると、群れに属する投資家がすべて同じ投資行動に出るようになる。多くの投資家が不動産価格の先行きについて同じ考えを共有するため、「将来不動産価格が上がる」という見方が形成されると、一気に不動産投資が過熱し、逆に「将来不動産価格が下がる」という見方が形成されると、一気に不動産投資が冷え込むという流れが生じやすい。

 つまり、中国では住宅バブルが発生しやすく、それが崩壊した場合には調整が長引く可能性が大きいということだ。

著者プロフィール

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エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

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