セカイカメラの井口尊仁氏インタビュー「日本人を一番ディスっているのが日本人」

デイリーニュースオンライン

井口尊仁氏が“脱Google”戦略を語る
井口尊仁氏が“脱Google”戦略を語る

 Googleに戦いを挑む起業家——井口尊仁は、そのビッグマウスからメディアなどで批判にさらされることも多かった。しかし、スマホ向け拡張現実ソフトウェア「セカイカメラ」を手掛け、今年1月にはグーグル・グラスの対抗馬と呼び声高い「テレパシー・ワン」を発表して話題を呼ぶなど、実績は確かだ。そんな井口氏がDMMニュースに登場。今後の脱Google戦略を語ってもらった。

“脱検索”の発想から生まれた『セカイカメラ』

――一般メディアへのご登場は久々ということですが、本日はよろしくお願いいたします。

「週刊誌的なメディアには、よく書かれた記憶がないもので(笑)。よろしくお願いします」

――読者の中には井口さんをご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、まずはこれまでのご経歴をお願いできますでしょうか?

「はい、もともとは15年くらいソフトウェア会社でサラリーマンをやっていました。銀行のインフラ開発などいくつかの会社を経て、最後の会社の時に、自分の作りたかった漫画創作共有アプリを2年くらいかけて作ったところ、会社が倒産しそうになり、事業自体がリストラになってしまって。四国にある本社へ出向いて『これをやらずにどうするんだ!』と社長に直談判してみましたが、そもそも原資がない、と。それを言われたら仕方がないので、自分でやろうと起業しました」

――無い袖は振れないですよね。

「1999年に起業して、最初に手掛けたのが、個人が意見を発表する場としてのブログシステムでした。人間が日々日記を書く上で、その書かれた情報には商業的な価値があるなと。あるカフェのことを書かれたら、それ自体が宣伝になる。そんな形でキーワードのオークションいずれ始まるだろうと。いわゆるキーワードマッチ広告ですよね。でもその頃は誰も理解できなかった。大手企業の社長にもプレゼンしましたけど、『は? 何それ?』という感じでしたね」

――いわゆる“早すぎた”わけですか?

「それは全然自慢にはならないですけどね(笑)。mixiなどが出てきた2004年あたりが日本のソーシャル元年で、同じ頃にアドワーズの世界観も登場しました。それより前に十分自分の考えを意識的に出す事が出来なかったし、多くの人を巻き込んで共有できなかった。Googleやはてなの活躍は悔しかったですね」

――なるほど。その後、どのような経緯でセカイカメラに至ったのでしょうか。

「しばらくブログのオンデマンド出版事業を続けていたなかで、“脱検索”というキーワードにたどり着きました。要は誰も本当は検索なんてしたくないんじゃないかと。それに検索は自分の知っている物事を調べるわけだから、未知の世界の発見には繋がらないじゃない。そうした未知との繋がりをタグで表現するのがセカイカメラのコンセプトで、キーワードは『タギングザワールド』。要は、世の中の全てのものにタグをつけて、関連性のあるものを結びつけてしまおうというものです。頓智ドットという新しい会社を作って、2007年から開発に着手して、世界的リリースが2009年。ちょうどiPhoneが出てやりやすくなった部分もありますが、全世界で400万ダウンロードされて、その頃は世界中から投資のオファーが来ましたね。通信会社やチップメーカーとか」

――脱検索という考え方は後のテレパシーにも引き継がれていそうですね。

「そうですね。もっと言えば脱Googleです。Googleを超えた世界観に、われわれが進化できるかどうか。僕にとっての進化とは、人間同士がお互いを透明的に理解できるか、という部分に係ってくるんですね。コミュニケーションや相互理解を行う上で、脱言語化を図っていこうよと。それを推し進めるうえで、ソフトウェアだけではなくハードウェアもあったほうがいいよねということで始めたのがテレパシーでした。こうした基本的な世界観は、今手がけているビジネスにも共通していますね」

さまざまなガジェットが机上に並ぶ。中央の赤い円形の物体が並ぶボタン型コンピュータ

ボタン型コンピュータで脱Googleを目指す

――現在のビジネスと言えば、ボタン型のコンピュータを作られていらっしゃる、と。こちらについても詳しくお伺いできますか?

「今考えているのはIoT(編集部注:Internet of Things:モノのインターネット)のフロントエンドとなるボタン型コンピュータですが、実はその裏で企業が作っている色んなものを結びつけるオープンなプログラム言語の構想も走っています。この言語をHTMLと同じような標準規格にすることで、各企業が作るデバイス同士がよりフラットな形で結びつくようになる。例えばソニーのカメラとヤマハのオーディオを積んだ日産の自動車を作るとして、今だと各メーカーがゴリゴリに協業しなければいけないですけれども、オープンな言語を介することでそれがより容易になるわけです」

――オープン化は今後のモノづくりの鍵になりそうですね。

「そうですね。加えてそうしたデバイスを統一的に操作するのが、現在試作中のボタン型コンピュータです。どこにでも置けて、かつウェアラブルであるという点でボタン型を選びました。オープン化とフラットな連携が、メーカーの間で共通認識になるためのきっかけにうちがなれたらいいなと。とりあえず行動すること、そしてロールモデルを作ることが重要だと思っています。そしてそれをコンシューマが買ってくれるようになれば、元々モノづくりに長けた日本のメーカーにも勝ち目が出てくるのではないかな、と」

――今はサンフランシスコに拠点を置かれていますが、日本のモノづくりにも興味を持たれていらっしゃるんですか?

「海外に出てみる事で自由になって、思考のフレームワークのかせが外れるというようなことはあったと思います。例えば今回の日本滞在でヤマハに行って色々と話をしてきたんですが、テクノロジーやモノづくりの技術が本当にすごい。超世界級です。微妙な成形をトンカチでやったり、クルミの粉や蜂蜜を使って表面を磨いたり、手と目でミクロの世界を表現する技術はちょっと他にはありません。日本人を一番ディスっているのが日本人であるという、そういう局面からは早く脱却しないといけないなと。我々の考える世界観が日本の良さを引き出すという、その一翼を担えればと思っています。

井口尊仁氏(いぐちたかひと)
2008年に頓智ドット株式会社を設立し、翌2009年に「セカイカメラ」をリリース。全世界400万ダウンロードを実現する。そして、2013年にウェアラブルデバイス「テレパシー・ワン」を発表するなど世界がもっとも注目するIT起業家の一人

(取材・文・撮影/DMMニュース編集部)

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