三億円事件46年目の真実「背後に防衛産業の利権」(後編)

デイリーニュースオンライン

事件直後の現場の様子
事件直後の現場の様子

「三億円事件」から46年目が経った。前編(「三億円事件から46年目にしてわかった事件の真相」)では、東芝―信託銀行―田中角栄という事件の背後にある“接点”が浮き彫りになった。この接点の背後には、防衛産業をめぐるある動きと連動していた! 前編に続き衝撃の新事実が明らかになる!(DMMニュース編集部)

後藤田正晴がこぼした意味深な発言

 三億円事件は、複数の目撃者や前述した150点以上の遺留品があったことから、早期解決の空気が捜査陣には漂っていた。だが、事件は早期解決どころか、迷宮入りという憂き目をみる結果となった。では、なぜ、犯人を逮捕できなかったのか?

 前出の元公安幹部A氏は次のように証言する。

「組織に入ったころ(昭和50年代)はすでに、捜査も下火になっていた。内部で話を聞いた限りでは、捕まえられない事件だったということだ。上層部は全容を把握していた気がする……」

 捕まえられない事件――この言葉で想起されるのが、容疑者とされ、後に服毒自殺を図った警察官の息子の存在だ。だが、A氏はこの警察官の息子の件と事件が未解決になったことは関係ないと言い切る。

「息子のために未解決にするようなことはない。その息子は何かに関与した可能性もあるが、未解決の理由はそれではないと思う」

 三億円事件は何かしらの政治的配慮で解決できなかった事件だったのだろうか。詳細を明かすことはできないが、筆者はある人物とコンタクトすることができた。

 三億円事件発生当時、現場から至近の距離にあった府中競馬場周辺に住んでおり、警察から事件の“重要人物”としてマークされた経歴を持つ人物だ。現在70歳を超えたB氏は当時の状況を次のように語る。

「執拗に公安や警察に尾行されて、妻までも疑われた。当時、貿易や不動産で金回りも良く、派手なアメ車に乗っていたからかもしれない」

 B氏は犯人ではもちろんない。だが、事件から20年ほど経過したある日のことだった。 政界と縁があったB氏は、警察官僚出身で“カミソリ”や“日本のアンドロポフ”の異名をとった後藤田正晴(故人)の関係者と会談していた。そのとき、三億円事件が話題になったという。

「“アメリカ”とか“米軍が”とか、そんな話を聞いたけど……」

自殺者まで出した三菱vs三井の兵器受注戦争

 “アメリカ”“米軍”というキーワードから想起されるのは、三億円事件が起こる8年前の1960年(昭和35)前後から噴出した、防衛庁(当時)の利権をめぐる暗闘である。

「アメリカは緊張の度合いを増した対中・ソに対する防共の基地として、日本の核軍備強化を急いでいた。三菱、東芝、石川島播磨(IHI)などの軍需企業や丸紅、伊藤忠などの輸入商社が躍起になって利権の獲得に動いていた」(元公安幹部・A氏)

 防衛庁の幹部の軍需企業への天下りや情報漏洩、兵器発注の便宜供与が次々と発覚。なかには、謎の自殺を遂げた幹部もいた。

 そうした最中で、三菱VS三井(東芝)の受注戦争が勃発した。ナイキ(ミサイル)は三菱、ホーク(同)は東芝が当初受注予定だったが、“三菱ミッション”と呼ばれる裏部隊がアメリカの軍需企業「レイセオン社」に30万ドル、関連会社「ノースロップ社」に5万ドルの計35万ドル(当時の邦貨換算で1億5000万円)を渡し、三菱が逆転。だが、最終的には日米政府高官が動き、ホークは7(三菱)対3(東芝)で決着した。

 当事、後のロッキード事件で田中角栄とともに主役の一人となる児玉誉士夫は秘密代理人としてこの軍需利権で莫大な金を動かしていた。

 とくに三億円事件が発生した1968年(昭和43)12月、防衛庁の次期戦闘機が「グラマン社」に決定すると、ロッキード社から報酬を得ていた児玉は、首相だった佐藤栄作に猛烈な攻撃を仕掛けた。

「政財界から暴力団まで、すべてを巻き込んで、カネがばら撒かれた。収集がつかず、日米両政府が事態収拾に走った。三菱が取りまとめ役となって、戦闘機などは三菱、原子力は東芝と大雑把な棲みわけができた」(政界関係者)

 そんな最中に起きたのが、不可解な事件「三億円事件」だったのである。

3億円は防衛利権の工作資金として消えた?

『三億円事件』(一橋文哉/新潮社)によれば、実行犯は不良・暴走族集団「立川グループ」で、奪った金は米軍基地に隠した後、海外に持ち出したとある。だが、これは現実に可能なのだろうか。

「昔、警察も米軍基地ラインは密かに調べたらしい。でも、海外にカネが行った可能性は絶対にない。金は国内で消えたはずだ」(前出・A氏)

 3億円は、防衛利権の渦中で“工作資金”として消えた――これが筆者の推測である。 防衛利権に絡む“黒い霧”の渦中で、現在の価値で換算すると10億円もの巨額の金を表立って供与できない状況があった。そこで、3億円事件という“架空の事件”を演出することで、巨額の金を“造り”、そして裏へと流した。

 ジュラルミンの中身は空、工作資金は損害保険で賄われ、国内では損害を被った者はいない――前代未聞の強奪事件と裏金工作を同時に行なう緻密にして大胆な謀略。この壮大な謀略を実行できる人間は政財界で隠然たる影響力・権力をもっていたはずだ。

「上層部は全容を把握していた気がする……」

 A氏の言葉にあるように、警察が手出しすることなどできなかった。事件はこうして迷宮入りした――。

 余談だが、マンガ『サザエさん』に興味深い4コマ漫画がある、バッグを買いに出かけたサザエさんが店頭で大きな四角い鞄を開け(ジュラルミンケースに見立てて)、空っぽであることにハッとしてしまうという三億円事件のパロディ的な内容だ。サザエさんと言えば、1998年までアニメの単独スポンサーは「東芝」だった……これは、単なる偶然だろうが……。

(取材・文/中村透)

「三億円事件46年目の真実「背後に防衛産業の利権」(後編)」のページです。デイリーニュースオンラインは、歴史銀行犯罪警察裏社会社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧