LGBT向けに本当に必要なのは“不幸度”調査よりも幸福度調査(前編)

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日本では間違ったLGBTへの認識が……
日本では間違ったLGBTへの認識が……

【ゲイリーマン発 日本のリアル】

 DMMニュースをご覧の皆様、初めまして。12月より不定期で記事の執筆をさせていただくことになりました、ゲイブロガーの英司です。今、巷で何かと話題のLGBT(※)ですが、筆者はこれまでこのLGBT内のG、ゲイとしての自身の視点から主に社会や経済ネタのブログを書いて参りました。これからはDMMニュースの一員として、更に面白い記事を提供して行ければと思います。

※LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーをはじめとした性的少数者の総称のことで、筆者はこのうちのG、ゲイにあたります。

よく目にするLGBTに関する記事

 米国でオバマ大統領が同性婚容認を掲げたり、フランスでも同性婚が可能になるなど、欧米でトピックになった出来事が日本に「輸入」される形で、日本でも注目されるようになり始めたLGBTの話題。

 こうしたトピックを見かけるとき、皆さんはこんな言い回しを見たことがありませんか?

・日本のLGBTで、かつて自殺を考えたことがある人は●●%
・イジメに遭ったことのあるLGBTは●●%
・欧米に比べて法律や制度面の整備が遅れている日本は、LGBTが生きづらい国
・だから日本も欧米に見習うべし

 確かにある調査では日本のLGBTの自殺リスクは6倍という調査結果も出ており、欧米の先進諸国に比べて確かに日本は法整備等も遅れているのは事実です。

 こうした自殺リスクやイジメの経験と言った「生きづらさ」を訴えて、世の中を変えて行くことの大切さは理解しつつも、本当に「生きづら」を訴える"だけ"でいいのか?という疑念も、筆者は同時に持っています。

欧米諸国は本当にLGBTにとってパラダイスなのか

 LGBTの法整備が最も進んでいる地域は北欧や西ヨーロッパ諸国で、ほとんどの国で同性婚や結婚に準じたパートナー制度が整備され、LGBTへの差別や暴力の禁止を明文化した法律やガイドラインが存在します。現在は米国でも多くの州が法整備やLGBT当事者へのケアに取り組み初めており、州によって対応の差はあるものの、アメリカ全体の流れとしてはLGBTの権利を認めていこうという機運の高まりが伺えます。

 ただ、宗教観も国家の歴史やバックグラウンドも違ったこれら欧米諸国のLGBTへの対応のあり方と、日本のそれとを単純比較することに筆者は違和感を覚えてきました。

 法律や明文化されたルールが存在するというのは、それを破る人が非常に多かったことの裏返しでもあるからです。

ヘイトクライムが横行する欧米諸国

 欧米諸国には、宗教という社会で広く共有される価値観や行動規範が存在しています。特に戒律が厳格なカトリック系やプロテスタントの中の福音派と呼ばれる層の人たちは宗教右派と呼ばれており、長らく同性愛は神への冒涜と解釈されてきたキリスト教社会の中でも特に保守的な思想を持っており、また、彼らはいつの時代も一定の発言力を保持し、社会的コンセンサスの形成に多大な影響を与えてきました。

「神への冒涜」という、誰にも反論ができない正義によって、欧米諸国のゲイたちは様々な迫害や暴力に遭って来ました。

 同性愛者であることを理由に襲撃に遭うリスクは常につきまとい、多くの国がソドミー法という同性間の性行為を禁止する法律を制定。傷害事件や殺人事件の裁判でも、被害者が同性愛者であった際は加害者の罪が減刑される等の事例も数えきれないほどあったと聞きます。

「こんな扱いは耐えられん!」
「これじゃあ普通の生活が送れないよ!」

 現地のゲイたちが怒るのも当たり前です。彼らは様々な犠牲を払い、時には血を流しながらも政府や世の中と闘い、今の権利を獲得してきました。

 ただ、法律や制度の不備が改善されたからと言って、人々の価値観がそれに付いてくるのにはもっと長い時間がかかります。アメリカで奴隷解放令が出され、黒人差別を禁止するあらゆる法律ができても黒人への蔑視や差別的扱いが今でも解消されないことからもわかるように、価値観を変えるのは容易ではありません。

 つまり、法制度上はそれなりの権利を認められている欧米諸国の同性愛者たちは、同時に暴力や露骨な差別的扱いのリスクに今でもさらされているのが現状なのです。

日本の同性愛者を取り巻く環境は?

 では、我らが日本はどうでしょうか。法制度の遅れは否めませんし、日常的な差別的扱いもないわけではありません。

ただ、欧米諸国と日本との決定的な違いは、キリスト教のような社会一般に広く共有されている価値観や行動規範が存在していないこと。「統治原理」とでも言いましょうか。

 日本において同性愛者へ向けられる差別の視線は主に「気持ち悪い」「よく知らないから怖い」と言った類のもので、大雑把に言って、所詮個人的な感想や感覚程度のものです。ですので、明治維新の開国直後の数年を除いて、日本に同性間の性交を禁止する法律等が存在したことはありません。

 欧米諸国のような宗教の戒律に基づいた差別は、社会のあり方として存在そのものを認めないことが特徴なのに対し、日本のように個人の単なる感想や感覚に基づく差別の場合は、「なんとなく気持ち悪いけど、別に自分に関係ないところに存在すること自体は否定しない」というスタンスなのが特徴です。

 つまり、同性愛者を力でもって抹殺しようとするヘイトクライム等の暴力的リスクは欧米社会よりもずっと低い代わりに、身近にカミングアウトしつつも普通の社会生活を送っている大人があまり多くないことによって、思春期や青春期の頃に孤独感や疎外感を味わってしまうケースや、自分の将来に希望や具体的なイメージを持てないことによる不安感を味わい、自尊心がうまく保てない等と言ったことが日本のゲイが置かれている現実的な状況のような気がします。

 この差別の性質の違いを無視した、明治時代の脱亜入欧的な盲目的欧米信仰では、今の日本社会にフィットしたLGBT向けの施策を設計できないのではないかと、筆者は考えています。

(photo by Julie Missbutterflies via flickr)

LGBT向けに本当に必要なのは“不幸度”調査よりも幸福度調査(後編)

【注意】筆者はあくまで現代日本の大都市在住の男性同性愛者で、周囲にも似た基本属性の友人がたくさんいます。ですので、私の見ている世界は限定的なものであり、地方在住の方や、トランスジェンダーの方の立場に立った記事を書くことは困難です。あくまで「現在の東京に在住の一アラサーゲイの視点」として、ご理解いただければと思います。

著者プロフィール

ゲイライター

英司

東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)

筆者運営ブログ/陽のあたる場所へ ―A PLACE IN THE SUN―

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