北朝鮮で相次ぐアパート崩落事故、裏に“建材ブローカー”の存在

デイリーニュースオンライン

平壌市内の様子(写真はイメージです)
平壌市内の様子(写真はイメージです)

 2014年5月、北朝鮮の首都・平壌で高層アパートが倒壊し、多数の死傷者が出た。事故は北朝鮮国営メディアで報じられ、建設担当者は謝罪するなど、北朝鮮らしくない「まともな対応」をした。

 北朝鮮当局は、めったなことで「自らの非を認めない」が、あらゆる分野でのデタラメぶりに住民の不満がたまっていたことが、謝罪に結びついたと見られる。

 ところで、アパートは何故崩壊したのだろうか。実は、崩壊事故の陰には北朝鮮の裏稼業「建材ブローカー」の存在があったのだ。

セメントを盗んで横流したのが事故原因?

 6月、中朝国境を訪れた筆者は、旅行で中国を訪れた北朝鮮の女性からこんな言葉を聞いた。 

「建設現場で現場の労働者がセメントをこっそり盗んだに違いない」

 セメントが少なくなれば、水の量が増え建物の強度は落ちる。その結果。崩壊したというわけだ。他の北朝鮮住民の口からも同様の話は聞けた。では、盗まれたセメントはどこへいくのだろうか。

「盗んだセメントは裏マーケットで売る。そして、建材ブローカーを通じて転売されるのです」(前述の北朝鮮女性)

 北朝鮮は、日増しに資本主義化しているが、2006年頃から、「建材ブローカー」が登場した。ブローカー達は、徐々に組織化され、「建材裏マーケット」を作り出した。社会主義国家・北朝鮮では、国営工場などの管理は、国家が一貫して行わなければならない。ところが、今や国営工場さえも、ブローカーから建材を購入しなければ資材を調達できない。

 もちろん、北朝鮮の法律からすれば違法だが、ブローカー達の裏ネットワークが強力なため、当局は黙認せざるをえない。「平壌マンション崩壊事故」は、ブローカー達をうまく活用できずに、無理に建設を進めたことによって起こった事故と思われる。

 平壌の「建材ブローカー」は、市内中心に流れる大同江の橋の下や公園に毎日に集まって、ダベりながら、カード遊びに興じて時間をつぶす。はたから見れば、休日をのんびり過ごす労働者にしか見えない。

 ここに建材の購買者が来れば、たちまちブローカーになって商談が開始される。地方都市では、国営企業の幹部と結託して、工場で生産された製品と資材を受け取り、購買者に高値で販売する。利益は結託した工場の幹部との折半だ。

「ブローカー」と聞けば、なんとなくいいイメージを持たれないが、彼らを通じて個人や企業は「金儲け」の仕組みを学ぶのだ。もちろん、悪質なブローカーもいるだろうが、資本主義化する北朝鮮では必要不可欠な存在だと筆者は思う。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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