12月11日放送の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』（テレビ朝日）では、ドランクドラゴンの鈴木拓が講師役として登場。「今だからこそ明かせる炎上の裏事情」と題して、自身が起こした炎上騒動について赤裸々に語っていた。講師役としてプレゼンする立場にもかかわらず、同じ話を繰り返したり、話の順番を間違えたりと凡ミスを連発。相変わらずのポンコツ芸人ぶりを見せつけた。

　また、12月20日放送の『ゴッドタン』（テレビ東京）の「マジギライ1/5」という企画にも鈴木が出演。目の前に現れた5人の中から鈴木のことを本当に嫌っている1人を当てるという企画。鈴木の嫌なところをあげつらう相手に対して、彼はその言葉尻を捉えて、理詰めで猛然と反論して逆に追い詰めていく。鈴木の性格の悪さがにじみ出ていた。

相方曰く「テレビに出ている一般人」

　最近、バラエティ番組で「嫌われ芸人」にスポットが当てられることがあるが、その中でも鈴木は別格だ。嫌われている芸人の中には、山里亮太や村本大輔のように、嫌われていること自体をネタにしている人がいる。一方で、『アメトーーク!』（テレビ朝日）の「好感度低い芸人」に出ていた西野亮廣や品川祐のように、強すぎる個性が一部の人には受け入れられず、結果として嫌われてしまう芸人もいる。

　だが、鈴木は違う。鈴木は彼らほど嫌われてはいない。ただ、好かれているわけでもない。相手にされていない、と言った方が正しい。テレビを見ている一般視聴者の中で、誰が鈴木のことをまともに考えたことがあるだろうか。人を嫌うにはエネルギーが必要だ。そのエネルギーすら、鈴木のまわりからは微塵も感じられない。

　しかも、「鈴木は一見ダメな人間に見える。だが、実は○○というところがすごいのだ」というような物言いすら通用しない。彼は実際、テレビに出る芸人の中では全般的な能力が低いように見える。

　ネタ作りができるわけでもないし、トークもうまくない。見た目もさえないし、好感度も低い。天然キャラではあるが、ウド鈴木のような愛される天然キャラではなく、性格も悪い。テレビタレントとして鈴木をさまざまな角度から評価したとき、それぞれの要素で満遍なく点数が低いということは否定できない。

　相方の塚地は鈴木のことを、「テレビに出ている一般人」と語っていたという。言い得て妙だ。たしかに、鈴木は一般人そのものと言っていい。一般人であれば、テレビに出ても緊張してうまくしゃべれないし、当意即妙の切り返しをすることもできないし、見た目に華がなかったりもするだろう。

　鈴木に非凡なところがたった1つだけあるとすれば、テレビに出ていながら、テレビに出ていない人のような振る舞いができる、ということだ。それを天才的な才能と呼ぶべきか、致命的な欠陥と呼ぶべきかは分からない。ただ、鈴木はいつも手ぶらでそこにいる。そのこと自体がとてつもなく貴重で、珍しいことであるのは確かだ。

ミスター他力本願の実力

　テレビカメラとは一種の暴力装置だ。人はテレビカメラを向けられると、無意識のうちにテレビ的な振る舞いをしようとしてしまう。プロのタレントでもそれは同じだ。テレビには確固たる正解があり、正解のリアクションをするべきだという無言の圧力が発せられる。タレントも、一般人も、その圧力から完全に自由になることは難しい。

　だがただ1人、鈴木だけは自由だ。彼は何者にも縛られていない。恐らく、若手の頃には彼の中にもまだ、もうちょっと何とかしよう、ちゃんとしようという意志もあっただろう。だが、今の彼にはそれすらなくなってしまった。やろうとしてもうまくできない。じゃあもう、別にいいや。「いいや」と割り切った瞬間から、鈴木という芸人の第二の人生が始まった。

　彼にはもう怖いものがない。好感度もない、ファンもいない、お笑いマニアからの「実は鈴木がすごい」的な期待さえもない。何にも縛られない彼は、ガードを固めて、ただじっとしていればいい。

　ポンコツでもゲスでもクズでもいい。炎上上等、喧嘩上等。あとはまわりが何とかしてくれる。ミスター他力本願の開き直りの強さ。鈴木の鈴木たる由縁はそこにある。失うものがない男の堂々たる居直りが、時として大きな笑いを生む。それが「鈴木拓」という生き方なのだ。

ラリー遠田

東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』（キネマ旬報社）の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』（学研）、『この芸人を見よ!1・2』（サイゾー）、『M-1戦国史』（メディアファクトリー新書）がある