閉館間際! シュールでハイセンスな「鬼怒川秘宝殿」誕生の謎に迫る

デイリーニュースオンライン

33年間の歴史に幕をおろす秘宝殿
33年間の歴史に幕をおろす秘宝殿

 かつて温泉街などの観光地に存在していた秘宝館。性に関するさまざまな展示物を集めたセックス・ミュージアムである秘宝館も、時流に押され次々と閉館していき、「鬼怒川秘宝殿」も今年の年内いっぱいでの営業終了が決まりました。

 筆者もその名と存在こそ知っていたものの実際に秘宝館を体験したことはなく、これを機会に鬼怒川へと足を運びました。どのようなスポットかは何となく知っているものの、なぜこのようなものを作ろうと思ったのか、どうして秘宝館運営を終生の生業に選んだのかなど疑問は尽きません。さあ、答えはそこにあるのでしょうか?

 秘宝館に入ってまず目にすることになるのが、陰茎を模した鼻を持つ天狗面と、女陰を模した唇を持つおかめ面を飾った二つの神輿です。

 説明書きによると、この卑猥な神輿は「竜王祭」なる地元の祭りにおいて用いられるもので、鬼怒川温泉を出発した天狗の神輿と、川治温泉を出発したおかめの神輿は、秘宝館の地、龍王峡において合体するのだそうです。……おお。

 秘宝館の誕生にはそんな歴史的、民族的背景があったんですね! 意外! てっきり伊達や酔狂で作られたものかと思っていたので、骨太な宗教的バックボーンにびっくりです。地域の共同や発展を願う地元民たちの心意気の現れだったんですね!

 そして、さらに驚くべきは、以下の本館誕生の経緯です。

「竜王峡の景観を彩る奇岩怪石の中のあるものに触れると、心身の病が治るという不思議な言い伝えが当地にありました。一方当主人は、数年前一時ガンの宣告を受けて、意気消沈し古老に励まされてワラをもつかむ思いでこの伝説にすがり、峡谷の奇岩に身を置いて、必死の水行をおこない、その結願の早朝夢うつつの間に、左手に霊石を持つ秀麗の観音の出現を感得し、『我は龍王峡の主である、長く苦海に沈んでいたが妙縁により、日蓮大聖人の法力に接して苦悩を脱した。そのお礼に衆人の疾患を救ってきた。汝の願いもきき届けて、この石を授与しよう。世人のために役立てよ』との霊言をきき、ハッとして醒めると観音様の姿はなくて石のみが残っていました。以来主人の病状好転し、数旬で全快しました。感激した主人が夢告のご利益を世人にも伝えようとして諸人歓喜の秘宝殿を営みこの一角に観音様をおまつりしたものです」

(要約:ガンで死にかけていたが、水行した結果、夢の中に観音さまが出てきて石を貰った。ガンも治ったので感激して秘宝殿を建てた)

 思った以上に真面目なスポットじゃないですか!! 探偵ナイトスクープに出てくるような珍スポットだとばかり思い込んでいましたが、実際は現地の風俗や伝統に根ざした、真剣な宗教的感情の現れだったんですね! 

ちょっと「ガンが治った」「なので秘宝殿を作った」の間に論理の飛躍がある気がするけど、とにかく真剣な情熱ゆえなんですね!!

近隣住民に聞き込み取材をしてみたら…

 現在の館長さんは、三年ほど前からこちらを運営しているとのことで、秘宝殿の始まりについて詳しいことは分からないと言われ、近隣住民に尋ねてみました。

筆者「秘宝殿見てきたんですが、すごいですね! 癌が治ったことに感激して秘宝館を始めたって! 良かったら当時の詳しいことを……」

住民「えっ!? ……いや、私が知る限り、闘病の末に癌で亡くなっていたような」

筆者「えっ? で、でも、この地には天狗とおかめの神輿が合体する祭りがあって、その宗教的風土が下敷きに……」

住民「祭りはありますけど、そんなことはしてなかったような……」

筆者「えっ?!」

住民「えっ!?」

 なんだか胡乱な話になってきたぞ……。

 しかし、この胡乱さも温泉地エンターテイメントならではと言えるでしょう。よく考えたら、他の展示物も全部胡乱だったぜ! 

 たとえば、ギミック付き蝋人形展示を通して下野国の歴史を学んでいく学術コーナー。坂東武者が出征を前に、前夜、夫婦の営みを交わす場面が展示されています。死地に向かう夫に対して、「行かないで……」と声をかける妻(音声が流れる)。しかし、行為が進んでいくと、妻の台詞が変化していき……、

「行かないで……行かないで……。あっ! い、行くっ! 行く!」

 あなた、これやりたかっただけですよね!!!?

 そう、こんな感じで、なんとなく学術っぽい博物館っぽい体裁を取ってるだけで、やってることはシュールギャグなんですよ。むしろそれっぽい体裁を取っていること自体がギャグの前フリになっています。

 となると、祭の縁起だの癌治し秘話だのも全部それに類したものと捉えるべきでしょう。常識的に考えて、神仏への感謝の気持ちが上記のシュールギャグとして現れることはないもんな。

 というわけで、何を思ってこんなものを作ったのか、という当初の疑問は全く解消されませんでしたが、思った以上にハイセンスなスポットであることは分かりました。こんなおかしなものが日本からまた一つなくなっちゃうなんて本当に残念な話です。

 現館長さんいわく、「震災で一部設備が壊れたけど、直せなくって……」。東日本大震災は鬼怒川の珍スポットにまでダメージを与えていたんですね。

 ちなみに、「どうして秘宝館を終生の生業に選んだのか」については、現館長さんから回答を頂きました。

「主人が突然秘宝殿を買ってきたんですよ。まるでデパートで買い物してきたみたいに、急に。だから、老後はここを運営して過ごそうと思ってたんですけどね……」

 しょ、衝動買いですか……。そ、それだけの衝動を起こさせる素敵な施設だということですね……!

■鬼怒川秘宝殿
〒321-2521 栃木県日光市藤原935
0288-77-0564

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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