妖怪ウォッチにトーマス…子供をターゲットにした鉄道各社の新戦略

デイリーニュースオンライン

大井川鐵道株式会社 公式ホームページより
大井川鐵道株式会社 公式ホームページより

 昨年7月から10月まで、静岡県の大井川鉄道は子供たちを中心に人気になっているアニメ『きかんしゃトーマス』が実際に列車を牽引するフェアを開催した。同イベントは、親子連れ・鉄道ファンを中心に大盛況を博した。

 大井川鉄道は従来からSLを集客戦略の目玉に据えており、土日祝日やゴールデンウィーク、夏休みといった休みの日ばかりではなく、平日にもSLを運行している。

 SLの迫力ある走行風景はチビッコを魅了するが、それよりも年配者の方がファンは多いと言われる。SLは高度経済成長期から姿を消し始めた。団塊の世代にとって、SLは自分たちの輝かしい時代を想起させてくれる列車といえる。それだけに、これまでの大井川鉄道は年配者をターゲットにした集客戦略を重視しており、実際に年配者のグループ旅行が目立っていた。

 トーマスの運行はその見た目の斬新さもあり、マスコミが殺到。話題を集めた。大好評だったこともあり、大井川鉄道は2015年も運行を決定。今年は、昨年よりも運行期間を約1カ月拡大。6月から運行することを発表している。

 SLの運行をやめるわけではないが、子供たちに人気の『きかんしゃトーマス』に力を入れる方針は、上客の高齢者層離れを起こすデメリットもある。

 年配者に比べれば鉄道好きな子供は多いが、鉄道会社にとって高齢者をターゲットにした方が経済効果は高いはず。それにも関わらず、大井川鉄道が子供をターゲットにしたのはどういった意図があるのだろうか?

「孫と楽しむ鉄道」で利用客拡大を目指す

 実のところ、子供たちをターゲットに据えて、利用客の拡大を狙っているのは大井川鉄道だけではない。鉄道業界全体のトレンドになっている。某鉄道雑誌編集者は解説する。

「すでに団塊の世代と呼ばれる厚い層が定年退職を迎え、通勤需要は一気に減少しました。これが鉄道会社にとって痛手です。団塊の世代は郊外に家を購入しているケースが多く、定年退職後の移動手段はもっぱら自動車。鉄道には乗らない。鉄道業界では売上減少が深刻な問題です。そこで、鉄道会社は売上をカバーするのにはどうしたらいいのか? を考えました。そこで出てきたのが、JR九州の豪華寝台列車のような単価の高いビジネス。もうひとつが、お孫さんと一緒に電車に乗ってもらうというアイデアです」

 年配者に鉄道を利用してもらう戦略は、以前なら夫婦で旅行というのが一般的だった。JRは「大人の休日倶楽部」といった高齢者向けの割引サービスを展開しているが、高齢者だけで行動するとどうしても消費行動は鈍くなりがちだ。また、豪華寝台列車には製造からメンテナンスといったコストも高くつくので、そう簡単には運行できない。そこで「孫と楽しむ鉄道」が積極的に進められることになった。

 JR東日本は20年間にわたってポケモンスタンプラリーを実施しているが、小学生では一人で遠くまで行くのは危険がつきまとう。両親も心配するだろう。しかし祖父母同伴なら、その心配は低減する。

 定年退職した団塊の世代にとって、孫と一緒に鉄道を乗ることは、楽しいひとときである。孫にとってはレアキャラを手に入れたい。団塊の世代が孫と一緒に列車で移動してくれれば、途中で食事をしたりお土産を買ったりする経済効果も見込める。孫と楽しむ鉄道は、3者にメリットのあるのだ。

 こうした子供をターゲットに据えた鉄道会社の戦略は広がりを見せている。2014年、西武鉄道が『妖怪ウォッチ』のスタンプラリーを開催。西武鉄道に小学生たちが殺到した。JR東日本も負けてなるものかと、山手線で妖怪ウォッチのラッピングトレインの運行を開始。鉄道業界にもポケモン旋風が吹き荒れている。

 これまで、子供をターゲットにした鉄道会社の集客戦略は経済効果が薄いと言われ続けてきたが、妖怪ウォッチによって大きく変わった。

 ポケモン、妖怪ウォッチ、トーマス――今年、鉄道会社が新しく打ち出す新戦略はあるのだろうか。 

(文/小川裕夫)

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