吉田豪インタビュー 清原和博「仰木監督みたいに、パンチパーマが似合う男になりたい」(3)
日本最強のプロインタビュアー吉田豪が、いま注目の人物にじっくり徹底的に話を聞くロングインタビューコーナー! 清原和博氏登場の最後を締めくくる今回は、スポーツ新聞を騒がせたプロレス参戦の噂、少年野球や自身の子供たちに向けた熱い思い、野球選手のファッション、本人を直撃したまさかの死亡説などなどをたっぷりと聞き出した!
「電流爆破マッチ」は痛そうだから(笑)
──正直、最近の清原さんを見て思い出したのは梶原一騎さんだったんですよね。梶原さんが離婚後、薬物疑惑とかあって別件逮捕された時期に、じつは飲みすぎで肝臓が悪くて、飲み屋のトイレで肝臓の痛みを抑える薬を飲んで、出てくると元気になってたのが、「あいつおかしい。クスリやってるんじゃないか」みたいに思われて、別件で捕まえてみたらなんでもなかったっていうことがあって。
清原 今回、僕が初めて病気で入院してる最中にそういうことがあったじゃないですか。僕は病気で滅入ってるときに……。
──糖尿がキツいときにですね。
清原 いまはだいぶ数値が下がって元気になりましたけど、インスリン2本ずつ打ってるようなときでしたから。そういうときにボーンとああいう報道がこられたんで。でも、どれもこれもプラスに変えていくしかないなと思ってね。済んだことはしょうがないし、あれこれ言い訳してもしょうがないし。これからの自分はどうやって生きていくかっていうものにしていこうっていうね。
──4番打者だった清原さんが5番打者になってから考え方を変えたのと同じですよね。いったんは仕事減ったけども、ここからどう持ち直していくかっていう。
清原 そうですね。過去を振り返って言い訳したりすることよりも、これからどうしていくか。そういうことでいろんな人の意見も素直に入ってくるような気がしたし。
──このタイミングで大仁田厚さんが「俺と電流爆破マッチをやろう」とか言ってきましたけど(笑)。
清原 あれはちょっと痛そうなんでね(笑)。
──まあやらないだろうとは思いましたけど。
清原 膝がたぶんもうダメですよね。
──大仁田さんも膝を壊してからのプロレス復帰だったんですけどね。
清原 僕はプロスポーツで復帰した初めての例ですから。
──それぐらいのレベルだった。
清原 ええ、アメリカでも前例がなくて。神戸のドクターに聞いたら、「日常生活を取り戻すための手術であって、野球をするための手術じゃないよ」って言われて。もちろん手術してからも痛みは残ってますし。
──いまだに。
清原 あります。だから不便ですよ。
──当然プロレスなんかとんでもない。
清原 もう人工関節に替えたほうがいいかもしれないぐらいですから。昨日テレビでやってましたけど、人工関節の寿命が15年から20年で、そのときにもう人工関節入れてくれって言ったんですけど、自分の年齢からしたら、50歳過ぎてから人工関節入れたほうがいいんじゃないかってドクターには言われたんですけどね。いまでも月に1~2回は膝に注射打って、痛み止めも打って。そういう生活してますからね。
──気軽にプロレスとか誘ってくるけど、そういう状態じゃないんだってことですね。
清原 それよりも、子供たちにプロのスイングはこれだけすごいんだよっていうのを見せてあげられないことが一番歯がゆいですね。
──膝のせいで。
清原 ええ。やっぱり子供たちって話を聞くよりも実際に自分のスイングをバンッと見せるほうが衝撃が大きいでしょうし。飛んでいくボールの速さだったり音だったりスイングの迫力だったり。そういうものをもう一回見せてあげたいな、ひとりでも多くの子供たちに見てもらいたいなっていう気持ちでまた膝のリハビリ始めようかなって思ってます。
自分探しの旅に「四国の八十八ヶ所巡礼」を考えている
──一時は糖尿の治療もやめて、ゆるやかな自決をしようと思っていたけれど。
清原 そういう時期もありましたね、去年は。でも、もう年も変わりましたしね。時間がある程度、自分の心を落ち着かせてくれたというか。マネージャーもそうですけど、僕を信じて待っててくれた人間も、友達含めていたんで、自分がもう一回立ち上がらないと。恩返しもしたいなっていう気持ちもありますし。せっかく去年我慢して待っててくれた方々に、新しい清原を見せるために、また自分探しの旅に出ようかなと思って。もうだいぶ衣装が揃ってきたんですけど、四国の八十八ヶ所巡礼をやってみようかなっていう感じで。
──まずは衣装を揃えるところから。
清原 やっぱりサイズないもんですから(笑)。
──なるほど! そういうことですか(笑)。
清原 全部オーダーで作ってもらってるんです。今年もどういう仕事の状況になるかわからないんで、休んでる時間をじっと部屋で暮らすんだったら、そういうとこに行って歩くのもリハビリになりますし、両親の体調もあんまりよくないんで。僕の家が高野山なんで真言宗でもありますから、1回周ってみようかなって。そこでいろんな本も読んで勉強して、違う清原で世間に出て行きたいなって考えてるんですよね。
──ちなみに梶原一騎さんの場合、入院後に奥さんが帰ってきて再婚、みたいないい着地になったんですよね。ボクは結婚もしてないのでアレですけど、離婚した人に話を聞くとみんなダメージが相当大きいみたいで。
清原 やっぱり、いまでも雑誌に僕と離婚して奥さんがどうだったああだったっていうことをほじくり返されるよりも、いまは僕より活躍してますから、それはそれでうれしいことですし。息子たちにとっても自慢の母親でしょうから。いつか大きくなった息子ふたりと一緒に酒を飲めたらいいなって。あと10年以上ありますけど、それまでにきちっとした親父としての姿を見せないといけないなって思ってます。
──こうして話してると、本当に野球が好きな人なんだなってことがわかりますよね。
清原 そうですね、ちょっと少年野球でも熱くなりすぎて注意されましたけど(笑)。
──ダハハハハ! そうなんですか(笑)。
清原 それから少年野球を冷静に見るようになったんですけど、いざ野球になると子供も大人も関係なくなって。
──野次でも飛ばしてたんですか?
清原 いや、相手の野次に反応してしまって。やっぱり子供を成長させていくうえで、言ってはいけないタイミングで言葉をかけるとイップスになってしまったりとかするのに、メンタルを壊すような野次を飛ばす人間がいたんですよ。それが許せなかったんで、ちょっと問題になってしまって。
──何をしたんですか?
清原 ちょっと暴言吐いてしまって……。
──でも、そういう行動がいちいち期待を裏切らないからいいですよ。
清原 相手コーチがそういうことを言ったのが許せなくてね。それで僕が言ったことが大問題になってしまって。僕が動くとなんでも問題になるんですけど……。
──まあ、問題になっても基本的に大体のことは「清原さんらしい」で片付く気がしますよ(笑)。
清原 でも、モンスターペアレンツはホントにいるんだなっていうのは少年野球を見てるとわかりますね。少年野球に行くといろんな父兄がいるなかで、ビックリするようなことを言う親はいますから。
──「なんでウチの子をレギュラーにしないんですか!」みたいな。
清原 「いま機嫌がいいんで怒ってください」とか、聞いてて「えっ?」みたいな。だから、いま少年野球を教えてる全国の監督、コーチはたいへんだと思いますよ、指導するのも。
──クレームも相当入れられるでしょうしね。
清原 ましてや野球人口が減ってるなかで、今回PL学園もああいうかたちになってしまいましたしね。
──新入部員の受け入れ廃止で廃部危機でしたっけ?
清原 ええ。10年ひと昔っていいますけど、10年前には考えられなかったことがいま起こってるわけで。まさか自分の母校の野球部がああいう形になると思ってませんし。ホントに寂しい思いと、あとこれから野球界を背負っていく子供たちが、枠にハマりすぎず、長所を伸ばしていってほしいなって。
パンチパーマが似合う男になりたい
──清原さん、少年野球の仕事やりたそうですよね。
清原 いまはプロ野球見てるよりも少年野球を見てるほうが楽しいんで。プロ野球見てても、あんまり見たいなって思う選手がいないんで。中田翔君が全日本の4番だって自分で言ってますけど、それは自分で言うんではなくて周りが言うことで(笑)。なんか変にサッカー選手を意識して、サッカー選手みたいにカッコよくなりきれてない野球選手、みたいなのが多いじゃないですか。昔はパンチパーマに金のロレックスみたいなね。
──野球選手は絶対、金のネックレスにセカンドバッグですよね! ああいう昭和の野球感が大好きなんですよ!
清原 サッカー選手ってイタリアに行ったり、ファッションも本物のとこに行って、そこでファッションを磨いて帰ってくるわけで。帰ってきた日本人のサッカー選手を見て、そういう服装を真似してるプロ野球選手が、なんかどんくさいなと思って。だから、僕もいつかパンチでも当てたろうかなと思って。
──ダハハハハ! 絶対やったほうがいいですよ!
清原 仰木監督がずっとパンチパーマだったんで、やっぱりパンチパーマが似合う男になりたいなと思って。
──昭和の野球の何がいいって、みんな顔とファッションがいいんですよね。
清原 そうですね。いまは選手それぞれがスマートになりすぎてるっていうか。これも時代が変わったっていうひと言で片づけられるんでしょうけど、もうちょっと……。
──そこはもの足りないですよ。
清原 僕からしたらね。だから実際、僕は子供たちと接するときも、そういうふうに接してるつもりなんですよ。「人と同じことしてちゃダメだよ」みたいな。
──やってほしいですけどね、個性重視の少年野球チーム。マスコミからは叩かれるかもしれないけど、おもしろいっていう。
清原 やっぱりプロ野球選手を見ても、大阪出身とか関西出身が多いですよね。東京都出身のプロ野球選手って少ないんじゃないでしょうか。ダルビッシュにしても羽曳野だし、まーくん(田中将大)も大阪でしょ。巨人の巨人の坂本(勇人)は大阪でまーくんとバッテリー組んでましたからね。前田健太なんかは僕の岸和田の隣町ですからね。
父親からの電話で知った「死亡説」
──そういえば、いま『モーニング』でPL学園をテーマにした漫画が始まりましたね。
清原 そうなんですか! 僕、基本的に漫画雑誌読まないんですよ。特に去年は雑誌恐怖症になるぐらいやったし。
──それぐらいだったんですか!
清原 最近では死亡説まで出たりして。
──だから取材なんかできないと思いましたもん。この取材が決まったって聞いた翌日ぐらいに死亡説が流れて。
清原 前に健康診断行ったんですよ。そしたら糖尿の数値がブワーッと下がって、もうインスリンも打たなくていいってなってそれまで。お酒も控えてたんですけど、これはうれしいと思って飲んで、次の日は二日酔いで倒れてたんですよ。で、携帯があまりにも鳴るんでマナーモードにしてほっといて、夕方ぐらいに着信見たら「お父さん」って入ってたんで、お母さんが死んだのかなと思ったんですよ。お父さんはめったに電話してこないんで。それで電話して「どないしたん? なんかあったん?」って言ったら、「おまえ死んだって取材が来たぞ」って言われて。
──うわー! しかも取材に行ってるんですね。
清原 それであちこちから電話かかってきて。「ご心配かけてすみません」っていう電話で往生しましたもん。そんな噂が立つぐらいやから、まだまだ俺も捨てたもんじゃないなと思いましたよ。
──ポジティブ! 実際、そんな噂が立つ人ってそういないですよね。マイケル・ジャクソンぐらいですよ。
清原 ハハハハ!
──死亡説は流れましたけど、いまは健康ですよね。
清原 ええ、健康です。
──ホントに今日は会えてよかったです。
清原 ありがとうございます。
──最近の報道で驚いたのが、長渕さんと殴り合いした、みたいな。のもあって
清原 えっ、うそっ!!
──ネットで調べたら元のニュース自体が消されてて、これはただのデマだったんだろうなっていう。
清原 そうなの!?
──こんな噂が流れるのも清原さんぐらいですよ!
清原 ……(苦笑)。
プロフィール
元プロ野球選手
清原和博
清原和博(きよはらかずひろ):1967年、大阪府出身。PL学園野球部員として甲子園で旋風を巻き起こした後、1985年にドラフト1位指名で西武ライオンズに入団。1996年に読売巨人軍へ移籍し、2005年にはオリックスに入団。2008年に引退するまでの通算成績は、2338試合出場、525本塁打、1530打点、打率272、2122安打、1346四球、196死球、オールスター出場19回。
プロフィール
プロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。
(取材・文/吉田豪)