ジャンプ『Ultra Battle Satellite』の投げ技は本当に強いか…柔術チャンピオンに聞いてみた (2/2ページ)
体重差によるダメージの違い
──今回、『UBS』の主人公と相手のプロレスラーは体重差が60kgあって、その体格差のハンデを「互いの体重をかけて地面に叩きつける投げ技(デス・ゴール)」で解決してましたが、これは実際可能なんですか?
近藤「この体重差は実際は無理ですね。寝技だけならまだなんとか……。打撃と投げもあると無理ですね。相手が軽いとやっぱり投げやすいし、落としやすいし、打撃も重い分効くわけです。ボクサーは3キロ4キロ違うだけでパンチ力が全然違って危ないから、あんなに細かく階級が分かれてるんです」
──しかし、「デス・ゴール」は自分と相手の体重をかけられるから、相手の体重を利用して大ダメージを与えられた、という話なんですが、そこはどうなんです?
近藤「ウーン……、ガチで言っちゃうと、この高さから落とされてもあんまり痛くないと思うんですよね(注:主人公が投げを行う時の相手の顔の高さは膝の高さ辺り)。主人公も軽いし。相手の体重を利用するというのも、少しは効果あると思いますが、デカイ分、相手の方が頑丈じゃないですか。やっぱりデカイやつが高いところから落とした方が位置エネルギーもあるし、断然強いです」
──主人公は敵プロレスラーの巨体を持ち上げてましたが、持ち上げること自体は可能なんでしょうか?
近藤「これは持ち上げるというか転がす感じですかね。飛行機投げみたいに。相手を前傾させて、そのままコトンと落とす感じです。持ち上げるというより自分が懐に入って立つだけみたいな感じなので、そんなに力はいらないですね」
──転がす、と言われると、途端に大ダメージの投げ技って印象はなくなっちゃいますね……。
近藤「やっぱ全部真面目にやっちゃうと面白くなくなっちゃいますよね。本当に全部真面目にやるなら、そもそも体重の近い者同士でしか戦えなくなっちゃいますし」
──『UBS』にしても『火ノ丸相撲』にしてもそうですけど、小さい主人公が大きい相手を倒すところに漫画的なロマンがあるわけですから、そこにロマンを見出すためにはやっぱりどうしても色んなウソが必要になりますよね。そこまでツッコミ始めると漫画自体の否定になっちゃうか~。
打撃と投げ技はどっちが強いの?
──路上だと投げ技も威力が高いことは分かりましたが、じゃあ、打撃と投げ技だとどっちが強いとかあるんでしょうか? というか、打撃って実際どのくらい威力あるんです? みぞおちとか入るとすごく苦しいと思うんですが、例えば胸とかにパンチが当たったら?
近藤「胸は痛いだけですね。みぞおちも実は腹筋締めてればあまり効かないんです。身体は殴られ慣れたら強くなりますし、内臓も強くなるようです。殴られてヤバイのは一番はアゴで、二番はレバーです。アゴを殴られたら脳が揺れて脳震盪起こすし、レバーは地獄の苦しみですね……」
──適当に殴ってもあんまり意味がなくて、当てるべきところをピンポイントで当てる必要があるってことですか。
近藤「そうなんですけど、相手も動きますからなかなか当たらないですよ。なので『頭振れ』ってよく言われるわけです。顔面にパンチもらってもアゴに当たらなければ、顔は腫れたりしますけど、それは表面的なダメージで実はそんなでもないんです。少しは脳にもダメージいきますけどね」
──打撃でKOするのって大変なんですね。じゃあ、投げ技でKOした方がいい?
近藤「でも、投げも相手は倒れないように頑張りますから、よっぽど綺麗に投げれないとダメージはないですよ。実際のところ、大半はもつれて倒れるだけになります」
──えっ! じゃあ、結論としては、倒した後の寝技が最強、ブラジリアン柔術最強ってことに……!?
近藤「そうなりますね(笑) でもそれも1対1の話で、1対多だと、寝技している間にボコボコに蹴られて終わりです。それに、じゃあボクサー相手にパンチを貰いながら前進して組み付けるか、と言われると、正直すごく怖いです。向こうも組み付かれるの怖いだろうから、お互いに近付けなくなるんじゃないかな……」
──人間が徒手空拳で戦うのって大変なんですね……。
***
というわけで結論としては、「投げ技は実際高威力」だが、「実戦ではあんまり綺麗に決まらない」し、「むしろそこからの寝技が強い」となりました。しかし、『UBS』で「崩したー!」「そこから寝技だー!」を毎週毎週やられても困るので、漫画的には今の感じが正解なのだと思います……!
著者プロフィール
作家
架神恭介
広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)