公開処刑の自虐ネタが北朝鮮で流行中「4丁高射機関銃で撃たれたいんか?」

デイリーニュースオンライン

4月末に突然、処刑された玄永哲氏
4月末に突然、処刑された玄永哲氏

 北朝鮮で4月30日、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が処刑されたという衝撃的なニュースが明らかになった。処刑方法は、体がバラバラになるまで高射砲で撃ちまくる凄惨極まりないものだったと言われている。しかし、そんな「金正恩式恐怖政治」も若者たちにとってはどこ吹く風。はやくも公開処刑を揶揄する「自虐ネタ」が北朝鮮国内で広まっているという。

 例えば、待ち合わせに遅れた友人に向かってこんな風に言うのだという。

「4丁高射機関銃で撃たれたいんか?」

「4丁高射機関銃」とは玄永哲氏の公開処刑で使われた銃火器である。普通は敵の飛行機や軽装甲車両、コンクリート塀などの遮蔽物を破壊するのに用いられるもので、処刑で使った例など北朝鮮以外では聞いたことがない。

 北朝鮮の人々が、こうした自分の国の独特さをジョークで皮肉るのは決して珍しくない。その中には、海外と自国のギャップをネタにしたものもある。

思想統制へのブラックジョークが蔓延?

 北朝鮮の少数エリート集団は、海外で生活するケースが多い。中国でも多くの北朝鮮留学生たちが学んでいるが、その大多数は金日成総合大学をはじめとするエリート大学生だ。

 北朝鮮国外で生活していれば、当然、韓流だけでなく、西側世界の文化に触れ自然と影響を受ける。さらに留学生たちは、SNSなどを通じてひそかに自分たちのコミュニティーを築き上げている。

 そこでやりとりされる情報の大半が、最新音楽、ファッション、ドラマ、映画などに関する話題だ。こうした若いエリート層を中心に韓流が広る中で、たとえば次のようなフィクションが、笑い話として作られ、流行する。

 韓流スターの一人、アン・ジェウクの代表曲「友人:朋友」は、北朝鮮でも、ひそかに人気を博している。そんな彼が特別に平壌公演をすることになった。自分の歌が北朝鮮でも聞かれているとあらかじめ聞いていたアン・ジェウクは、平壌国際空港では、きっと花束を持った多くの北朝鮮人民たちが、今か今かと待ちわびている、そして、自分が飛行機から降り立った瞬間、多くの人民大衆が口々に「アン・ジェウク!」と叫びながら、歓喜の声で出迎える、と思い込んでいた

 ところが、飛行機から降り立ったアン・ジェウクを待ち構えていたのは、面倒くさげな表情をした数十人の国家安全保衛部(秘密警察)要員たちだった。

 慌てるアン・ジェウク。その時、遠くから花束を持った一人の女子大生が近づき、アン・ジェウクの耳に囁いた。

「オッパ(お兄さん)! 私はオッパのファンです。お会いできてとても嬉しいわ」
「なぜあなた一人だけ・・・僕のファンたちは?」
「あぁ、みんなオッパの歌を聞いたのがバレてしまったので、『親友』同士で仲良く収容所へ連れて行かれました。残ったのは私だけです」

 北朝鮮では、徹底的な思想統制が行われている。しかし、そこに住む住民たちは、それを鵜呑みにするロボットではない。彼らは彼らなりに、北朝鮮当局に対して不満を持ち、それをブラック・ジョークや自虐ネタとして表現しながら、ささやかな抵抗を試みている。

 まさにこれこそが、金正恩時代を支えていく北朝鮮少数エリート大学生たちの現実なのだ。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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