吉田豪インタビュー企画:爆笑問題・太田光「逆に言うと、いまネットがなくなったら俺は生きていけない」(2)

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吉田豪インタビュー企画:爆笑問題・太田光「逆に言うと、いまネットがなくなったら俺は生きていけない」(2)

 日本最強のプロインタビュアー吉田豪が注目の人物にじっくり話を聞くロングインタビュー。爆笑問題の太田光さん登場の第2回目の今回は、ネットというメディアをどう捉えているか、そしてビートたけし、萩本欽一といった大先輩に対する思いを聞いた![前回はこちら]

ネットは便利だけど、こんなに面倒なものもない

太田 でも心の底を言えば、そういうふうに言ってるヤツとネットを挟まないで会いたいよね。これは難しいんだけど、俺もやっぱり守られてるから。

──会社単位になっちゃうとまた難しいけども、個人としてはそういう思いがあるってことですよね。

太田 そう、個人としては、文句あるなら直接来てよって思うんだよね。

──直接話をしてみたい。

太田 話してみたいし。

──それくらいの思いがあるんですか?

太田 うん、思うよ。それは2ちゃんねるの頃からずっと思ってる。受け止めたい。

──まあ、実際に刺しに来られたら迷惑する人が多数出てくるからアレなんでしょうけど、その思いを受け止める気はあるってことですね。

太田 うん、直接。

──すごいカッコいい話じゃないですか!

太田 いやカッコよくはないんだけど(苦笑)。だって気持ち悪いでしょ。

──ネットとか介さないで直接コミュニケーションしたいってことですよね。

太田 傷つけたいなら直接傷つけてほしいし、べつに俺も無抵抗じゃないし。殴り合いでもなんでもいいじゃん、来れば。こうやっていろいろ言ってると周りが迷惑するし、そうすると俺が怒られるっていう、その構造が嫌で嫌でしょうがない。事務所に変な電話がかかってきて、女の子たちが怖がる。その苦情が社長にいく。社長が「また余計なこと言ったんでしょ!」って俺が怒られるっていうのがもう……回り回って結局俺が怒られる。なんだよ! お前が間接的だから、俺が怒られただろうって。そんなんだったなんとかして俺にたどり着けよ。ネットなんか使わずにって。

──光代社長に文句を言われるよりは、そっちのほうがいいってことですか?

太田 全然いい!

──ただ、光代社長のお酒の量が増えたのもそういう抗議なりトラブルなりによるストレスのせいだ、みたいな話もあるじゃないですか。

太田 そうでしょうね。だからネットが悪いんだよ、やっぱり。

──結局は(笑)。太田さんもネットを利用してはいるんですよね?

太田 調べものとかにはものすごく便利だと思うし、アマゾンはしょっちゅう使うし。原稿を書いてても、ちょっと「あれ、これなんだろう?」って思ったことは全部ネットで調べるから、逆に言うといまネットがなくなったら俺は生きていけない(キッパリ)。

──ネットをなくせと言いながらも(笑)。

太田 そこがジレンマだよね。こんな便利なものはないと思うけど、こんな面倒くさいものもないっていうのはある。そこは答えが出ないですね。でも、こんなもん止められるわけないし。

──たとえ2ちゃんがなくなろうとも、同じようなものは出てくるだろうし。

太田 うん。だから慣れるしかないんだろうけど、難しいですよね。

時代が時代なら田中裕二はユーチューバー!?

──太田さんの場合、最初にそういう文化と距離を置いちゃったせいとかもあるんですかね。

太田 僕はだからFacebookだのTwitterだのっていうのは、タレントにせっかくなったのに、なんで素人の発信する装置を使うんだろうっていう思いがあって。俺らは段取りを踏んで、一応自分のなかでは精査されながら公共のメディアにやっとたどり着いたのに、誰でも発信できるものをなぜ使わなきゃならない? っていうプライドみたいなのはあるんですよ。

──そこに線引きはしておきたい。

太田 うん。そこはいわゆる昔の芸能人の感覚に俺も近いのかもしれないけど、Twitterっていうのはステージが終わってテーブルについて客と話すみたいな感じがして嫌なんだよね。それはTwitterやってる人に悪いから、あんまりそういうふうには言わないんだけど、そこまでサービスしなきゃいけないのかなっていう。俺はもしファンから手紙もらったとしても返事書くタイプじゃないから……でもまあ、結局そうなっていくんだろうけど。

──実際なってきてますからね。

太田 それはネットなんかないときから、小劇団が嫌いだったっていうことにも通じる。「そのへんの仲間を集めてやってるけど金儲けもできてないだろ、それは俺は認めない」っていうようなところとつながってるんですよね。だから俺が高校時代に誰とも話せなかったっていうのは、逆に言うとそういう自分が情けなくて、絶対に人前でみんなを笑わせるようになりたいっていうことの下地になってるから、おそらく認めたくないんでしょうね、誰もが使えるジャンルみたいなものを。ユーチューバーみたいな連中とか。

──太田さんの場合、もし孤独だった高校時代にネットがあったら絶対ハマッてると思いますけどね。

太田 ただね、俺は意外ともともとそういう内輪ウケ感みたいなのは苦手で、やっぱり(チャールズ・)チャップリンとか漫才ブームでも(ビート)たけしさんとか、王道が好きなんですよ。それこそ田中の『ウーチャカ大放送』(10代の田中裕二がウーチャカを名乗り、自分で作っていた架空のラジオ番組)みたいなのを自分でも作ってみたりしたけど、やっぱりこんなの気持ち悪いって思うほうだったし。それが伸し上がる手段としてならありかもしれないけど、最終目的地は全国放送のゴールデンなんじゃないの? ってどっかで思ってるところがあって。

──たしかに田中さんだったら『ウーチャカ大放送』をネットでやってるでしょうけどね(笑)。

太田 田中は確実にやってる。それを俺がケチョンケチョンに言ってる。あいつ、ユーチューバーになってるよ! で、意外と人気出たりして。ブロガーとかユーチューバーとか。(吉田豪に)ネットはやってるんでしょ?

──もちろんユーチューバーではないですけど、SNSはほぼやってますよ。Twitterも異常に好きで、前に『日曜サンデー』に浅草キッドが出たとき、両者がかなりギリギリな攻撃をしていたら、田中さんが「こんな吉田豪が喜ぶようなやり取りやめろよ!」って言ってたじゃないですか(笑)。

太田 ああ、言ってた!

──そして、「吉田豪、あいつホントに嫌なヤツなんですよ」って太田さんが被せていって。

太田 言ってたね(笑)。

──そのときまさにボクはTwitterで爆笑問題vs浅草キッドの模様を実況してたんですよ。だから「バレた!」って感じで(笑)。

太田 ハハハハハ! 人の争いごととか大好きだからね(笑)。

──だから、そういうのがラジオで始まったりすると大興奮ですよ。「みんな、いま聴いたほうがいいよ!」って拡散して。

太田 そういうの扇動して空気を作ってるよね。人が争うのを喜ぶ空気。

──ただ、聴取率を上げたいっていう思いはあるんですよ。後から動画を貼るとかよりも、「いますぐラジオを聴こうよ!」って。

太田 なるほどね。それはありがたいんだか、どうなんだろう? でも俺は、もともと争いごとが好きなわけじゃないんですよ。なるべく波風立てずに生きていきたい。

ビートたけしより欽ちゃんのほうが本質的に残酷!?

──なんでこうなっちゃってるんですか?

太田 ……なんでなんだろうね?

──たけし遺伝子なんですか?

太田 うーん……。

──でも実際、たけしさんよりも波風を立ててますよね。たけしさん、殺害宣告とかされてないですから。

太田 ……そうねえ。この前、『TVタックル』でたけしさんと欽ちゃん(萩本欽一)の話をしたんですけど、欽ちゃんが好きだった自分があって、たけしさんが出てきてガラッと変わったときが、ちょうど思春期の、ホントに漫才ブームのときっていうのは価値観が変わっていく瞬間があって。音楽ではサザンが同じ時期で。あの前は、僕はアリスの大ファンでハンド・イン・ハンドだから。

──ダハハハハ! タモリさんとかから否定されるような側だったわけですね(笑)。

太田 そうそう。文学でもそれまでは谷村新司さんが好きだって言ってた亀井勝一郎とか『愛と祈りについて』とか、もっと人間的なものが好きだったのが、太宰治を知って変わった。これはべつにリアルタイムではないんだけど、だからホントに全部あの時期なんですよ。松田優作が『探偵物語』をやったのもあの時期だし。

──1980年頃ですね。

太田そうすると、あの頃の自分は180度逆に振れるわけじゃない、若い頃だから。それで欽ちゃんを否定する、アリスも否定する、ヘタすりゃチャップリンまで否定しかねないところまでいくんだけど、今、たけしさんと話してたり、あるいは桑田(佳祐)さんが『ひとり紅白歌合戦』で中島みゆきの『時代』を歌ったりしだすと、「薄々はわかってたけど、やっぱりそんなに嫌ってなかったんだ、こういう人たちのこと。でも俺、あんたのおかげで結構嫌いな時期あったよ」っていうさ。たけしさんと欽ちゃん、本来どっちが残酷な芸かっていったら絶対に欽ちゃんですよ。

──確実にそうですよね。

太田 欽ちゃんって人はホントに自分という人間の追求にしか興味ないからね。たけしさんは人のためにやるじゃないですか、なんでも。たけし軍団を作ったりもそうだし。

──お弟子さんとの関係が全然違うし、欽ちゃんは言っちゃえば頭おかしいですもんね。

太田 ある意味狂気ですよ。当時のパジャマ党との関係なんか聞いても、恐ろしい部分があるでしょ。

──ダハハハハ! そうなんですよ(笑)。

太田 それ考えたら、欽ちゃんファミリーなんて誰ひとり幸せになってないから。

──ファミリー感が全然ないですもんね。

太田 ないよ。あんなに残酷で冷酷な人はいないと思うけど、だからこそ芸人としては徹底できるんですよ、あのイジメ方。

──君塚良一さんがパジャマ党の放送作家だった頃、新番組が決まったから2クールぶん急いで脚本書いてくれって欽ちゃんに言われたらしいんですよ。で、いざ完成したら「あのね、これ冗談。そんな番組ないの」って言われた伝説もあって(笑)。

太田 ハハハハハハ! だからどうかしてるよね。

──おかしいんですよ、ホントに。

太田 で、いま大学生でしょ? 何やってるんだっていう話じゃん。もっと助けてほしい人、いっぱいいるわけでしょ。いまの欽ちゃんにその力があるかどうかは置いといてもさ。

──だから、ある時期、「欽ちゃんは真面目でつまらない」って感じで叩かれてたのも誤解っていうことですよね。あんなにおかしな人もいないのに。

太田 世間が思うほどヒューマンじゃない厳しい芸なんです。こないだたけしさんと話してて思い出したんだけど、欽ちゃんが『24時間テレビ』やってるときに俺ずっと見てたからわかるんだけど、よく見てると欽ちゃん泣いてないんですよ、あの番組で。みんな最後は号泣するでしょ。欽ちゃんは絶対泣かない。マラソンの時もケロッとゴールしちゃう。それがあの人の芸人としての矜持だと思う。欽ちゃんが泣いてるところって、ほとんど見たことない。でも、たけしさんはお母さんが亡くなったときに号泣したし、『たけしくん、ハイ!』を出したときに、やっぱり「あれ?」ってちょっと思ったんですよね。「あれ? たけしさん、こういう牧歌的なヒューマニズムみたいなの嫌ってたんじゃないのかな?」って思ったけど、むしろいまや、たけしさんのほうがヒューマンじゃないですか。

──欽ちゃんと比べたら圧倒的にそうですよね。

太田 そうするとやっぱり欽ちゃんとかさんまさんのほうが残酷だし、ましてやタモリさんとかは相当クールですよ。そう考えると、たけしさんはもちろん好きだし(立川)談志師匠も好きだけど、たけし、談志のほうが人に優しいと思うから。俺はどっちにも揺れてるんですよ。バスター・キートンとチャップリンみたいなことと一緒で、どっちがホントにいいんだろうっていうか。

──たけし、談志ラインは口が悪いから表面的に捉えられがちですけど。

太田 うん。談志師匠も弟子に対してひどいっていったって、あんなに弟子のことを思ってた人はいないですからね。

──欽ちゃんと比べてみろって話ですよね(笑)。

太田 そうそう(笑)。ホントに欽ちゃんの厳しさは……いまとなってはですけどね。

──本人にも直接インタビューで聞いたことありますけど、完全に異常者ですよ。

太田 要は笑いを科学的に論理的に考えてるでしょ、あの人。そこに人情とかは入り込まない。

──まったくないですね。

太田 とにかくバッサリいくからね。

──家族関係とかも異常ですもんね。

太田 そうなの?

──息子さんが自分に対して緊張してるように見えたっていうことで、「じゃあおまえたちが思春期のあいだ、俺は帰らない」って言って7~8年帰らなかったりとか、そういうことが出来る人。

太田 ああ、そういうことやりそうだし、そういう人だよね。奥さんに対しても、ずっと隠してたり。不思議な人ですよね。あっちのほうがむしろ昔ながらの破天荒な芸ですよ。どうかしてるんだよな。

──そうなんですよ。

太田 そういう自覚もないけど、難しいとこですね。たけしさんの人間的な温かみってうのはもうみんなに知れ渡ってるから、たけしさん自身も難しいと思うけど、被りものしてああやってることすらカッコいいっていうことになっちゃうと、もうやりようがなくなるんじゃないかなって。俺が心配することじゃないけど。

──その通りです(笑)。

不謹慎なイタズラ心はなくならないけど、反省してます!

太田 逆に言うと俺はそれはもうできないし。だからっていうことじゃないけど、それとは別にまたイタズラ心みたいなのはあるんでしょうね、きっと。やっぱりちょっと葬式の席でおちゃらけたくなる不謹慎な気持ちみたいなものはずっと……治らない。

──でも、思ったよりも地雷は踏んでない気はしますよね。

太田 どうなんだろう? どこからが大問題なのか。でも、やっぱり思わぬところに地雷がありますね。たとえば『アナ雪』(アナと雪の女王)を気持ち悪いって言ったときに、俺は全然何か問題になるとは思ってなかったんだけど、意外と女性団体とか、ああいうところが……。

──ああ、『アナ雪』はそういう層が支持したくなる作品でしたからね。

太田 そうそう。しかもあのときはみんなで一緒に歌おう企画みたいなのを茶化したときに、「ブスばっかりが歌ってた」とか言ったら大変なことになったらしくて……。

──うわ~(笑)。

太田 全然そんなの予期してなかったし、危ないことを言ってる意識すらなかったから。ましてやウォルト・ディズニーなんて何を言われたってビクともしないもんだと思うけど、でもやっぱりディズニーと女性っていうのは二大タブーなんだよね、じつは。意外なところにありますよ。

──そういうときって反省はするんですか?

太田 しますよ! もう反省の日々ですよ!

──同じ失敗は繰り返さない、と。

太田 そのつもりではいるけど。でも温水さんの話じゃないけど、気がついてないからね。そういう事故はしょうがないよ。……しょうがないって言うのもアレだけど。これからもあるんだろうね……あるんだろうねって言うとヤバいか。

──今後はないようにしていきたいです、と(笑)。

太田 本当にそうです!

<次回に続く>

プロフィール


爆笑問題

太田光

太田光(おおたひかり):1965年、埼玉県出身。1988年に大学の同級生の田中裕二と爆笑問題を結成し、時事問題も取り込んだ漫才で人気を獲得。テレビ、ラジオなどで活躍する他、著書も多数。爆笑問題としての著書だけでなく、太田個人で『マボロシの鳥』などの小説も発表している。近著は爆笑問題と映画評論家・町山智浩との共著『自由にものが言える時代、言えない時代』。6月3日には毎年恒例の時事ネタ漫才ライブのDVD『2015年度版 漫才 爆笑問題のツーショット』をリリース。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

(取材・文/吉田豪)

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